第6話 師匠との出逢い
「服を脱いでくれ」
「……えっ!?」
店の明かりに照らされたシルの顔はみるみると赤く染まっていく。
「そ、それって……」
「違うぞ。勘違いするなよ? 俺もそんな趣味はない」
「わ、わかってるよ……。で、でもなんで脱ぐ必要があるの?」
「それはだな……」
そして俺は事情を説明する。シルがローブの下に着ている服は、それはそれは高値で売れるだろう。だから、一旦下着とローブだけの姿になってもらって、俺が代表してシルの服を売るという訳だ。
「なるほどねー」
「そういう訳なんだ。頼む」
「うん。大丈夫だよ。ちょっと恥ずかしいけどね……」
俺たちは人気のない路地に一旦向かった。そして、ローブを脱いだシルは白を貴重とした高貴な服に手をかけて脱ごうとする。だが、その手を止めた。
「手伝って」
一言、シルはそう言った。
「えっと……すまん。なんて?」
俺は謝りながら聞き返す。今、まさか手伝ってって言ったか?
「この服、一人じゃ脱げないの。だから、手伝って!」
シルは恥ずかしそうに上目遣いで言う。少し頬を赤らめているのは気のせいだろうか。俺は仕方なく同意した。いや、内心は喜んでいたのかもしれない。
「わかった。手伝おう」
「ありがと……」
俺はシルの後ろに回り込んで背中にあるファスナーに手をかける。ジィーッと音を立てながらファスナーは下ろされていく。白い肌が見える度に鼓動が早くなっていく気がした。
「…………」
「どうだ?」
「もうちょいかな」
「そうか……」
緊張しているのか手が震えるが、シルにはバレていないようだ。
「よし、これでいいだろう!」
なんとかファスナーを下まで下ろすことができた。後はシルが服を脱ぐだけだ。
「ありがとう」
「ああ」
俺はゆっくりとシルから離れていく。そしてシルから背を向けた。後ろから衣擦れの音がする。今、振り返ればシルが全裸とまでは行かないが、下着姿なのだろう。見たい気持ちを抑えて、俺はじっと待つ。
「いいよ」
俺はその言葉を合図に振り返った。そこには恥ずかしそうにローブを纏うシルがいた。ローブの隙間から薄いピンクのレースをあしらった可愛らしい下着が垣間見える。
「ど、どうかな? 変じゃない?」
「変じゃないよ」
バッチリ下着見えてるけど、俺は嘘をついた。すると、シルは安心したように息をつく。
「良かったぁ」
「じゃあ、服売ってくるから」
「お願いね」
俺はシルのローブから垣間見える下着から名残惜しさを感じながら目を離して、服を持って服屋に入る。店員さんに声をかけると快く応じてくれた。
「あの、すみません。これ買い取って欲しいんですけど……」
「はいよ、ってこれは! これはどこで手に入れたんだい?」
「あまり詮索はしないでくれませんか?」
「まぁ、いい。買い取るよ。そうだなぁ。少し見させてくれ」
店員はそう言って査定を始めた。その間、暇なので店内を見回す。ふと、一つの物が目に止まった。それはショーケースに入っているネックレスだった。よく見ると、どこか見覚えがあるようなデザインをしている。
「んっ? それが気になるかい?」
いつの間にか査定が終わったらしく、店員はこちらを向いていた。
「はい。ちょっと……」
「じゃあ、出してあげるよ」
俺はカウンターの前に行き、出されたネックレスを手に取った。それはやはり見たことがあるものだった。あれ? この感じ。前にもこんなことがあったような……。
俺は不思議に思ってそのネックレスをまじまじと見る。あ、思い出した! このネックレス。俺が『天我原』で最初に手に入れたアクセサリーじゃないか。
「それはあげるよ。こんなに上質な服を売ってくれるんだからね」
「いいんですか?」
「ああ。それと、査定結果だけど、700万圓でどうかな」
「大丈夫ですよ」
「なら決まりだね」
予想以上に高く売れて驚いたが、顔には出さないでおいた。店員は700万圓分の白金貨と金貨が入った袋をカウンターの上に置いた。俺はそれを受け取ってインベントリに仕舞い、店を後にする。
「どうだった?」
シルが心配そうに訊いてくる。俺は安心させるために頷いて応える。
「無事換金できたぞ。じゃあ冒険用の服も買おうか」
そのまま俺たちは隣の武器屋に向かうことにした。
武器屋の扉を開けると、そこはRPGの世界だった。剣や斧などの様々な武器が所狭しと並んでおり、壁には弓や槍といった長物まで飾られている。
「うわぁ……すごいね」
シルは目を輝かせて店内を見ている。
「武器も欲しいよな。だが、先ずは冒険者の服だな」
「私、カッコいいのがいいな」
「任せろ」
俺は店の奥にあるカウンターに行く。そこには強面の店主らしき男がいた。
「らっしゃい! 何をお探しで?」
「えーっと、この子の装備を一式お願いしたいんですけど……」
「嬢ちゃんのかい? 予算はどれくらいだい?」
「100万圓以内で」
「ほう。意外と金があるみたいだな。いいぞ。揃えてやる」
「ありがとうございます」
俺がお礼を言うと、今度は店主の男がシルの方を向いた。
「お嬢ちゃん。スリーサイズを教えてくれないか?」
「それはちょっと……」
シルは恥ずかしそうにしている。まぁ、スリーサイズはそう安安と知られたくはないだろう。
「じゃあ胸のサイズだけでも教えてくれるか? ローブ姿だと体の輪郭が分からねぇんだ」
「え、えぇ……。うーん。まぁいっか」
「いや、待て。当てさせてくれないか?」
急に店主の表情が真剣になる。そして、店主はまじまじとシルをローブの上から見回した。
「うん。その身長に、ローブの膨らみ方。これはなかなか難しいが、恐らくは……Eか?」
シルは少し躊躇ったが、自分の両腕で胸を隠すようにして応えた。
「そうよ……」
そうかぁ、Eカップなのか。俺はつい感心してしまった。当のシルは俺の方をチラチラと伺っている。
「よし。ついてこい」
店主の男に連れられて店の奥へと行く。するとそこには色とりどりの服が並んでいた。
「嬢ちゃんの身長と胸のサイズ的に、ここらへんの服が合うはずだ。好きなものを選んでくれ。試着室はそこだ」
シルが楽しげに選んでいる間に、俺は店主の男に話を聞いていた。
「だからな、胸のルックス的な大きさってのは服の種類や色、質感によって変わるんだ。白のセーターがいい例だ。あれは膨張色だろ? だから貧乳がブラつけて白のセーター着てもCカップはあるように見えるんだよ」
「へぇー。なら師匠。学生服の白色の場合はどうなんすか?」
「学生服かぁ。あれは女の胸が大きく見えるように白く作ってあるからなぁ。だから男子学生は制服に憧れるんだなぁ。まぁ、おっぱいのことばっかり考えているうちはひよっこよ。女の本当の魅力は腰から下だからな」
「二人でなに話してるの?」
気づくと冒険服に着替えたシルが訝しげな目で俺と店主の男を見ていた。
「あ、いや。なんでもないんだ。それよりシル。その冒険服、似合ってるじゃないか!」
「そうかな? 嬉しい」
俺は誤魔化すように無難な感想を言ったが、シルは喜んでくれた。シルが正直薄めな冒険服を着ていたことに驚いたが、確かに似合っている。格好は黒を貴重とした、ビキニのような上着にショートスカートだった。胸の谷間やおへそが丸見えで目のやり場に困る……。なぜ、そんな服を選んだのだろうか。彼女なりのカッコいいなのだろうか。
「俺もいいと思うぞ。特に尻から脚にかけてのラインがいい」
店主の男はうんうんと頷いているが、その感想は殆ど服ではなくシルのスタイルのことだった。
「確かに……あっ」
俺もつい店主の男の意見に同意してしまった。それを聞いて俯いたシルはそっと尻のあたりを両手で隠した。
「安くしとくよ。30万圓でいい」
「本当か? ありがとう。はい」
俺は金貨30枚をインベントリから出して店主の男に渡した。
「帰るか、シル」
「うん……」
シルはもじもじしている。新しい服で緊張しているのだろうか。俺が心配していると、シルが聞いてきた。
「その……、この服可愛いかな?」
「う、うん。可愛いぞ」
こいつ、冒険服に可愛さを求めるなんて、けしからん。だが、可愛いから許す。腹ごしらえをし、服を買った俺たちは宿屋に戻るのだった。
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