第18話  ヒロインの一人くらい捕まっても仕方がない

『天翔る乙女の聖戦』というゲームは全年齢対象商品となっている為、攻略対象者との接触はハグとキスのみ、みんな幸せになりました〜で巻き戻る、無茶苦茶面白くないわよね。


「確か隠れキャラとか隠れストーリーとかあったのよ・・・」

 三人の中で一番このゲームをやりこんでいると思われる、マリアネラ王女が言いだした。


「攻略対象者を全員攻略した上である条件を満たすと、今までとは全く違うストーリーをプレイする事が出来たはずなんだ。次は王弟デメトリオを攻略するんじゃないかとか何とか、そんな話だったような気がするんだけど」


「え?デメトリオ様?」


 イーリャ嬢の推しは王弟デメトリオ様なのだそうで、今回のハッピーエンドはデメトリオ様との結婚にすると言い出した。


「色々と悪い事をしてきたセレスティーナだけど、確かこの回では、侯国と繋がっていて、バレアレス王国の重要な情報を侯国側に流して、バレアレス王国を滅ぼそうとするのを告発する形になるんだけど」


「それじゃあ、私がそのセレスティーナの悪事を暴けば良いって事なのよね?」


 イーリャ嬢はアデルベルト国王の乳母の娘という事もあって、バレアレスの王宮の奥深くまで潜り込む事が出来る。


 セレスティーナの断罪までのルートの長さに辟易としていた私たちは協力体制を取っているのだけど、イーリャ嬢がこの時期は一番やる事が多い。


 一回目は真面目にセレスティーナの罪を暴いて断罪にまで持ち込んだんだけど、二度目、三度目になるともう飽きちゃって、最近ではセレスティーナが行う予定の罪をある程度予測して、ストーリーにあった証拠を最初に用意しちゃったりしているの。


 そうすると、あっという間に断罪からの処刑、怨霊を浄化からの結婚式となるので、早めにストーリーを終わらせる事が出来るってわけ。


 結婚式をしている最中に、今度こそ、今度こそループは終わるだろうと願いながら集まった人々に向かって手を振るんだけど、いまだに終わらない、繰り返しを続けているような状態なのよね。


「イーリャ!今の時期は一番やる事が多いと思うけど、本当にごめんね」

「こっちでも何かやれる事があれば言ってねぇ」

「大丈夫!大丈夫!陛下は私の事が大好きだし!今回も宰相が好き勝手やっているから、こっちも相当好き勝手出来る感じなんだよね!」


 繰り返しても、繰り返しても、過去の記憶を持ち続けている私たちの合流場所は、バレアレス王国の第三の都と言われる観光都市タラゴーナのカフェの一室。


 イリバルネ子爵家が避暑のために訪れる夏のシーズンに話し合う事にしているのだけれど、


「ようやっと全員の攻略は終わったし、これから隠しルートを開くためには、バレアレス王国の汚職を暴かないといけないの」


 家族と買い物をするためにと早めにカフェを出たイーリャの背中を見送りながら、マリアネラ王女が囁くように言い出した。


「汚職に手を染めていた宰相を脅して好き勝手をするセレスティーナを断罪するルートはメインルートになるけど、宰相だけでなく、裏に居る王弟を引き摺り出すためには、イリバルネ子爵家の悪事も暴かなければならないの」


「えーっと、それって・・・」


「ヒロインの一人であるリリアナが断罪される事によって、隠しルートが開放になるの。そのルートが開放されればこのループも終わると思うんだけど、カンデラリアはどう思う?」


「ループを終わらせる事が出来るのなら、リリアナの断罪は仕方がないんじゃない?」


 楽しそうに坂道を下っていくリリアナの姿をテラスから見下ろしながら私は答えた。


 聖女である私はラスボスを倒す為に存在するだけだし、その前のストーリー展開を他のヒロインがどうしようと、正直に言って私には関係ないって思うのよね。


「それじゃあ、私はストーリー開放のために動くけど、貴女はバレアレス王国まで祝福の為に訪れてね」


「今回の攻略はどうするの?」

「最後だもの!私はランメル様にしようかな!」


 ジェウズ侯国の第二王子が王女の推しなのは変わらずなのね!

「それじゃあ、私はチュス・ドウランにしよう!」


 セレスティーナの護衛として王国までやってきたチュスは幼い時からセレスティーナから虐待を受けていたのよね。ほぼ奴隷みたいな扱いでコマネズミのように働かされて来たんだけど、彼女が常に男装をしているのはセレスティーナの希望なのよ。


 チュスを攻略すると友情エンドで終わるんだけど、チュスエンドは政略や攻略に関係なく、本当に好きな相手と結婚をするという夢のある展開で終わるのよ。


 私、その時に本当に好きだった人と結ばれる(それが誰なのかプレイヤーは妄想するしかない)という展開が好きだったのよね。


 ちなみに、前回、チュスエンドを選んだ時には、いつも私を世話してくれる司祭長(イケメン)と結婚した。初夜もハネムーン旅行もなく最初に戻ったけど。


「あー、早くこの状況を終わりにしたい」


 マリアネラ王女はうんざりしたような様子でそんな事を言っていたけれど、今回は本当にラストのループになるみたいで、きちんとリリアナとその家族まで捕縛される事になったのよ。


 今まで何だかんだ言って逃げ続けてきた王弟も終わったみたいだし、後は私がバレアレス王国まで行って、セレスティーナの悪事を暴くのを協力して、断罪して、浄化をすればいいのよね。


「はーーっ、バレアレス王国まで行くだなんてめんどくさー〜っ」


 私はそう言って、外に広がる美しい庭園を眺めながら大きく伸びをした。


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