第5話 わ、私は悪くない。悪いのは、人民だ

 「わ、私は悪くない。悪いのは私に従わない愚か者たちだ。あああああ」


 中酷国家主席・秀欣平は毎夜、得体のしれない人影にうなされていた。14億人の市場を過信し、海外企業を跪かそうとする試みは、自ら発令したスパイ取締り強化を目的にした法律「反スパイ法」により、中酷に進出している海外企業のマインドを疲弊させた。それでも氷山の一角と言えど、一億人近い富裕層の購買欲は魅力であり、我慢の日々を送ることに海外企業は耐えていた。それに付け込んだ秀欣平は、中酷で商売するなら秘密の保持は許さないと特許の公開と共有を強制した。これには海外企業の堪忍袋の緒も切れた。目の前の利益より企業の存続を重んじ英断した企業は、中酷からの撤退を次々に決断した。その波紋は、追随する企業を勢いよく飲み込んでいった。

 秀欣平は、海外の目や動向を気にせずにいられる自給自足を促進し、内需で国を回したかった。しかし、人民は自国の生産物に疑いの目を持ち、金に物を言わせても輸入品を好んでいた。海外企業にとっておいしい顧客は彼らであり、一般の人民ではない。一般の人民は先行き不安から出費を抑え、その日暮らしを強いやられていた。

 いつか米国を倒し世界制覇を成し遂げる思惑は自らの愚策で砂上の国家であることを明確に体感することになる。国費と学業成績改竄を使い優秀な若者を作り上げ、欧米諸国の有名大学に潜り込ませた。目的は、研究成果を楽して盗み取る事。これは一定の成果を齎した。しかし、食料維持のため農産物の促進も進めたが、成果主義の国民性は忍耐や失敗を好まなかった。濃度の高い農薬や成長ホルモンの登用は、短期間のでの収穫と豊作を得られたがその結果、人体への影響は計り知れなかった。富裕層は自国の生産品を信用しない背景がそこにあった。

 国外で被害者が出るのは問題なく、輸出には支障はなかった。工業関連でも製造のの過程を無視したデータや技術の盗用は設計図通りに作れてもオリジナルとは比較できないほどの粗悪品だった。国は撃ってしまえばアフターフォローなど眼中になしでその粗悪品に国が補助金を出して、相手国に低価格で競争力を付けさせ市場を拡散させていった。

 ド派手な無計画な市場支配は対外的に問題となり、中酷製品に正常な価格帯に担う関税を掛けられる始末。安さの旨味が薄れた中酷製品は安かろう悪かろうの印象を世界に拡散することになる。それでも、貧しい国は、中酷製品を欲しがり、中酷に尻尾を振ってくるみせる。経済音痴の国々は、インフラや借入金の餌に飛びつき、牛耳られ、中酷の属国となり下がる。それが一体一道政策だ。

 秀欣平に誤算が生じた。貧しい国に借りた金を返せるはずもなく、人民を送り込んでその土地を乗っ取るも、その国の国民の反発を買い中酷関連企業への襲撃事件も含めて紛争を激化させるだけだった。契約があると主張するも中酷が国際ルールを厳守しないことを知った国々は、中酷との約束を反故する始末。残ったのは回収不可能な貸付金だけだ。

 反スパイ法で海外企業の撤退の勢いは衰えを見せず、世界の工場と言われ、発展してきた経済基盤を喪失し、一般人民の雇用機会を喪失させた。海外企業は強かだ。強酸党の人民は強酸党のためにあると言う思想を利用し、自国で出来ない人命に関わる実験を経済活動の一環として行っている。人命が関わる自動運転が一例だ。自動運転の不都合なデータを取る。その技術は渡さない。正確には中酷にデータを渡したり盗まれても平気だ。開発能力がないから。中酷の自慢する自動運転は、賃金の安い国でSNSを用いて人的な遠隔操作が実態だ。担当者は、三台の運転を映像で見守っている。運転の未熟さから交差点や混雑時に右往左往し、不都合を犯している。いまや「世界の工場から人命にかかわる実験場」になっている。

 経済成長とともに内需拡大を狙った不動産投資は、その無計画さから人民に負債を背負わせる結果を齎した。中酷の不動産は完成する前に購入代金を支払うシステム。不動産会社はその購入代金で新たに建物を建てる自転車操業。地方政府は土地を貸し出すことで財政の殆どを賄っていた。自転車操業で建てられた建物は、材料の横流しや設計時の安全基準を下回る施工で手を抜くおから建築が主流で、完成しても住める品物ではなかった。そもそも建物が投資の対象となり、住むものではないので当初は問題にもならなかったが一般人が住むようになり、燻っていた問題が次から次へと噴出し始めた。

 返金問題やローンの未払い、未完成物件の完成目途が付かず引き渡しができないなどの社会問題を引き起こし、その結果、大手不動産会社が破産申請する嵌めに陥った。プライドの高い秀欣平は自分の政権時に汚点を残す事態を容認せず、破産申請そのものを許さない姿勢を見せ、財務整理が出来ないまま、利息だけが膨らむ始末。

 秀欣平は国民の不安を拭おうと打開策として不動産業者への融資を緩めるように銀行に支持を出すが、その体力があるはずもなく、金融機関の破綻を予見させるものとなった。株式市場でも国有の銀行が為替相場を異常なほどに操作し、国の信用の失墜を国内外に知らしめる結果となっている。

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