第2話
コン、コン。
ユミの部屋と同じく無機質な部屋にいたナオリは、突然のユミの来訪に驚いた。
「話があるの。ちょっとこっちにきて」
普段はおちゃらけた性格のユミが、いつになく神妙な面持ちをしてることにこれは只事じゃないと察したナオリは黙ってユミに従い、部屋を出た。
二人がやって来た崖の上には、これまで戦死した多くの仲間たちの墓が建ち並んでおり、萎れた花束が置かれた墓も沢山あれば、数日しか経過していない花束が置かれた綺麗な墓もいくつかある。
ユミとナオリはその墓の一つ一つに誰が眠っているかを知っている。
どんな人柄だったのか、どんな口癖だったのか、どんなふうに笑うヤツだったのか、聞かれたらすぐに答えることができた。
忘れない。忘れちゃいけない。
誰に命令されたわけではないが、なぜかみんなそうしていた。
二人が立った断崖の下からは何度も力強く崖に打ち付けられた波が凄まじい音を響かせている。
多くの仲間の墓が立ち並んだ崖の上で、ユミはナオリに自身が妊娠したことを明かした。
「え……本当かい!? やった! 俺たちだって子供は作れるんだ!」
喜ぶナオリをよそにユミの表情はだんだんと沈んでいく。
「……どうした? ユミ。なにか心配事でもあるの?」
ユミは顔をうつむけると静かに呟いた。
「──明日の
「……え……?」
彼女の一言でナオリの笑みが一瞬にして消えた。
ユミは耐えきれなくなったように、目から流れ出た透明な液体を地面にぽつ、ぽつ、と落とした。
「……なんでかな?
なんで、あたし泣いちゃってんだろ。
変だよね。
やっと世界を救える日がきたってのにさ……」
ユミは腹部にそっと手をのせる。
彼女の焼けた手の甲に落ちた透明な液体が服へと伝い、染みがじんわりと広がっていく。
「……せめて、この子を産んでから死にたい……」
悔しげに、哀しげに、寂しげに、様々な感情でいっぱいになったユミにナオリは寄り添い、彼女の身体を強く抱きしめた。
ナオリの胸の中で、ユミは泣き続けた。
ナオリは空を見上げる。
真っ赤に染まった夕空。
いつも見てる空のはずなのに、今日見た空の景色はもう二度と見ることができない気がした。
* * *
島の南方にある軍の施設内では軍関係者が集まり、ユミの戦死と倒したKAIJUに関する報告会を開いていた。
会議の様子を窓越しに眺めていた
「ゴミムシどもが」
〈聞こえちゃいますよ!
この窓いくら防音とはいえ、あの方達は口の動きだけで、相手のやり取りの内容が具体的に読めるんですから〉
無精ヒゲの男は缶コーヒーを勢いよく飲み干すと、ゴミ箱へ思いきり投げ捨てた。
「あいつら、とんでもねぇ奴らだ。
ユミが妊娠したことを事前に知ってたんだよ。
あいつらソレが世間に知られる前に本来予定されていなかったユミの出撃命令を前倒しにして彼女を消したんだ!」
「いやいや、それは強引な考えですよ。
それにもし仮に怪獣兵たちが人間まがいの行為で子供を身籠ったと仮定しましょう。
でも結局のところ、兵器から生まれてくるのはただの兵器なんです。
軍にとっては生産コストも安くなって喜ばしいことじゃないですか」
そう言って、眼鏡の青年は爽やかな顔で笑った。
無精ヒゲの男は眼鏡の青年に詰め寄る。
「な? おまえに一つ聞くが、怪獣兵たちが人間と同じ方法で妊娠したら、なにが生まれると思う?」
「それはさっきも言ったじゃないですか。
兵器から生まれるのは所詮ただの兵器だと」
無精ヒゲの男は「いいや」と首を横に擦り、眼鏡の青年の顔をじぃっと見つめた。
「……生まれてくるのは
「は……?」
「怪獣に変身する遺伝子も、特殊能力も何一つ持たない。
兵器なんて呼ばれてるが、あの子達の遺伝子はごく普通の人間なんだよ」
眼鏡の青年の顔はみるみるうちに青くなった。
「ぐ! 軍の機密情報を盗み見るなんて……!
あなた何してるかわかってます? 重罪ですよ!
その情報を知ってることが軍にばれたら私たちは記者をクビになるどころか、銃殺されちゃいますよ?!」
「その覚悟で記者やってんだ!!」
ドンッ!──
無精ヒゲの男は壁を強く叩いた。
その音に軍関係者たちが反応し、ちらっと記者たちのほうを睨む。
眼鏡の青年は軍関係者たちに向けてぎこちない笑顔を作った。
〈私は一切なにも聞いてませんからね!〉
眼鏡の青年は無精ヒゲの男に耳打ちすると、足早に部屋から立ち去った。
静寂な空気に包まれた部屋のなか、無精ヒゲの男はぽつりと呟く。
「“怪獣の兵士”、……か。
『怪獣』とは一体どっちを指してるんだろうな」
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