第29話
命を懸けた状況の中でお互いに気をかけることは難しい、けれどむしろ気にかける。
僕は不思議だと思った。
彼女とはバディを組んでから短いし、訓練で一緒になることはおおかったが面と向かって話をすることなだなかった。
イリスの優しさにふれ、僕は少し浮かれていた。
コーヒーショップで何を話したのか覚えていない。
正直、ちゃんと女の子と二人っきりという状況は少なかったに等しく、ドキドキしすぎて自分でも気持ち悪いくらいに声が上ずっていたと思う。
けれどそんなことを感じさせないくらい、イリスの表情に見とれていた。
それくらい心拍数が上がっていた。
僕はイリスと駅でわかれた。
去り際、イリスは小さく手を振る。
その仕草に僕はなんだか心が躍っていた。
そう完全に浮かれていたんだ。
浮かれすぎて、僕は自分が置かれている状況がわかっていなかった。
本当にそのことを後悔していた。
その帰り道だった。
イリスと別れ、帰路を歩いてる時だった。
暗い路地に差し掛かると、目の前に大きな何かがうずくまっていた。
「なんだ……?」
僕は少しだけ距離を詰め、それが何かなのかを確認しようとした。
そのとき、何かはごそごそと動き、僕は自分の身体に衝撃を感じた。
すでに遅かった。
身体は空中に浮かび、気が付いた時には地面に背中を打ち付けていた。
「痛ってぇぇ」
受け身をとる隙もなく、背中全体を打ち付けた。
痛みとアドレナリンによる変な動悸とともに、状況を把握しようと目の前をみる。
そこには見たこともない、身体が赤く変色した“ノーネーム”が立っていた。
そして顔は人間というより、骸骨に近く、皮膚はただれフジマキノボルのような人間に近い姿ではなく、化け物じみた姿をしていた。
「まじかよ」
手元には武器もないし、助けてくれる味方もいない。
とりあえず逃げて仲間を呼ぶか、それとも……。
僕は必死でこの状況をどうにかしようと考え、携帯を手に取ろうとした時だった。
「おっと、それはやめた方がいい」
聞いたある声がし、僕はその方向に視線を向ける。
その声は“ノー・ネーム”の後ろから聞こえた。
僕は暗闇に目を凝らしてみた。
「やぁ、数日ぶりだね」
僕の目の前に姿をあらわしたのは南雲だった。
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