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@Roman97

ベルティア

 寂れた港に浮かぶ巨大な船の中から歓声が聴こえる。

 階段を下りて船内に入ると、大勢の観客がステージに集まっている。

 一同が見つめる先には、リングがある。錆びついた鎖をロープの代わりにしており、樽を選手用の椅子の代わりにしている。

 2人の選手が、その樽に腰を下ろしている。


「さぁ、今年もやってまいりました! エクストリームな一時、バーニング・デストロイヤーズ!」


 会場内にMCの声が響くと、リングの四隅から火柱が噴き出る。

 両選手は立ち上がり、側に置いてある凶器を手に取る。

 片方は刃付きのバックラーを身につけ、もう片方は鉄パイプを大きく振り上げた。


「会場の熱気を尻目に、両選手ともに殺気のぶつけあい! その意気込みに応えるとしよう! さぁ、バトル・スタート!」


 MCがゴングめがけてハンマーを振り下ろす。

 次の瞬間、ゴングの音色とは異なる音が轟いた。


 ズォーンッ


 エネルギー弾が放たれる重々しい音が轟き、鉄パイプに衝撃が加わる。


「ぐぁー!?」


 鉄パイプの男が顔をしかめ、鉄パイプを落として、左手で右手を抑える。どうやら右手を痛めたようだ。

 そしてマットに落とした鉄パイプには大きな穴が開いている。まるで高熱で空いたように穴が淵が溶けている。

 

「だ、誰だ!? 銃を撃ったのは!?」


 男が周囲を見回すと、女性がラフな口調で返事をする。


「おいたが過ぎるぜ、悪ガキども。フェスの催し物にしちゃ悪趣味だ」


 声の主は、階段の目前に立っている。


「あー! おお、おまえはー!」


 その姿を見た途端、MCが慌てふためいた。


「そそ、その、赤メッシュ入りの黒いポニーテール、褐色肌に真っ赤な瞳、頬にあるイナズマのようなタトゥ風シール」


 MCは汗を垂らしながらも解説をする。


「身長170センチ、スリーサイズはH94・W55・B100。そのラインを崩さない黒のスーツと赤いプロテクター、サーフボードのようなシールド。そして、デザイン重視のハンドガンとショットガンと両刃剣」


 震えながらも、最後まで解説しようと声を出す。


「まま、間違いない。オマエは、ベルティア! 通称、ベル! 鋼鉄の狩人と恐れられている敏腕の便利屋!」


 スポットライトが声の主を照らす。


「だせぇ二つ名、ありがとよ。けど、解説とフェスはここまでだ」


 ベルがハンドガンの銃口を向ける。


「こいつは、フェスの参加賞だ。欲しい奴は前に出な」

「生意気な! 返り討ちにして、テメェの公開処刑を放映してやるぜ!」


 男3人と女1人の合計4人が拳銃を構える。


「遅せぇ」


 ベルは相手よりも早く発砲し、アニメの如く相手の拳銃を弾き飛ばした。


「このぉ!」


 男1人と女1人がベルに突撃するが、あっさりと返り討ちにされた。


「用心しすぎたかな? 盾が荷物になっちまったぜ」


 ベルは呆れた顔をする。

 直後、ベルの腕時計が赤く光った。

 それに気づいたベルは、階段から離れた。


「っと、そろそろフィナーレの時間だ。特別サービスだ。締め括りに相応しいショーを見せてやるよ。3、2、1」

「動くな! ステライト・ポリスだ!」


 武装集団が階段から姿を現す。

 集団は左右対称に並び、その中央から背丈の低い男が姿を現す。

 烏顔の男はシルクハットを整え、黒コートの懐から紙を取り出す。


「逮捕令状だ。違法営業、危険行為の助長、犯罪助長、その他諸々の容疑で、全員逮捕する」


 武装した警官たちが、会場内にいる者たちを捕らえ始めた。

 そんな中、ベルだけが捕り抑えられなかった。それどころか、気さくな態度で烏顔の男に声をかけた。


「よぉ、ウロク。遅かったじゃないか」

「オマエが早すぎたんだ」

「そうか? 愛車の調子が悪いんでないの? せっかくだから、見てやろうか?」

「お言葉に甘えさせてもらうよ。無料なら、な」

「おいおい、そりゃねぇだろ。アタシが貢献者だってこと忘れないでほしいね」

「そっちこそ、情報と依頼を提供した奴のこと忘れるな」

「モテないぜ、そんなんじゃ」

「俺は忙しいんだ。さっさと船を出ろ」

「へいへい」


 ベルは船を出ると、路地裏に止めてあったバイクに近寄る。

 

「あんの守銭奴。カッコつけるんなら、金遣いの方もカッコ良くしてほしいもんだぜ」


 ぶつくさ文句を言いながら、紅いヘルメットをかぶる。

 ヘルメットの後頭部には切れ目のようなものがあり、それのおかげでポニーテールを崩すことなくヘルメットをかぶることができる。

 ベルはヘルメットをかぶった後、右頬付近にあるボタンを押した。すると、シャッターのように薄い鉄板が切れ込みを閉ざした。

 さらに、反対の左頬の辺りにあるボタンを押して、シールドを出現させた。

 それから、ベルはバイクを走らせた。


 黒と赤と銀色の三色が都心へと向かう。

 高層ビルが立ち並ぶ大通りには、ビルのモニターをはじめ、ホログラムやスマホでニュースを見る人たちがいる。


「ステライト・オフィシャル・ニュース」


 SONと略称が大きく画面に表示される。


「グッド・アフタヌーン。皆のMC、ドリィ・アンナよ」


 直後、露出度の高い服装をした軽快な女性が映る。


「シティの皆、マーベラスな速報よ。裏格闘技団体、バーニング・デストロイヤーズが逮捕されたわ」


 その時の様子が映像に映る。


「事件の貢献者は、ベルティア・ラグランジュ」


 その隣に、ベルの顔写真が現れる。


「若干20歳で、敏腕エンジニア兼メカニック。ア~ンド、Dream・Link・Companyの敏腕社長。異世界に転移転生してエンジョイとかクソダサなことを考える連中はマジ見習いさないっての」


 都心から少し離れた所にある建物。5階建てのエレベーター付き、エレベーターは円柱型で、それに巻きつくように螺旋階段がある。

 その1階のガレージにベルがバイクを止める。


「ふぃー」


 ヘルメットを外し、ガレージ内の様子を見る。

 4人組がノートパソコンを凝視している。

 男性が2人、女性が2人。

 男性陣の方は双子なのか、瓜二つの容姿をしている。2人とも小柄で愛らしい容姿をしている。唯一の違いは、服装。片方はオタクファッション、もう片方はシルバーアクセを身につけている。

 女性陣の方は、どちらも容姿が異なる。片方はステッキを持ったブラックスーツ姿のグラマー美女。もう片方は、海賊が好みそうな服を着た筋肉質な美女。

 ブラックスーツの女性の名前は、ルナ。

 筋肉質の女性は、ビステッカ。

 そして双子は、チュロスとチュリス。

 四人とも、ノートパソコンに映る先程の速報に夢中になっている。


「ふぅ~」


 ベルは呆れ顔で、バイクを唸らせた。

 そのエンジン音で、ようやっと4人はベルが帰宅したことに気づいた。


「お帰り、社長」


 ルナが一番に返事すると、双子がベルに近寄る。


「ニュースで見たぜ。また、知名度を上げたな」


 続いて、ビステッカがベルに笑顔を見せる。

 対して、ベルは澄ました顔で双子からタオルとドリンクを受け取る。


「チュロスの奴、またガソリンを吐いてたろ」

「あぁ、また一部の連中が燃え上がるぜ」


 ビステッカが苦笑いすると、ベルも苦笑いを浮かべた。


「さすがは、ニトロ・リンカルスと呼ばれているだけあるな。ありがとう」


 ベルは双子にタオルと空き缶を渡して、プラグをバイクにセットする。

 すると、トレイに乗っけたノートパソコンにバイクのモニタリングが映った。バイクにセットしたプラグはノートパソコンにも繋がっており、双方を繋げることでバイクを細部までモニタリングできるようになっている。

 ベルはモニターを確認しながら片手でボタンを操作する。

 それを見守る四人。

 やがて、ルナがベルに声をかけた。


「どぉ? 新製品の調子は?」

「ん、走行は問題ないな。あとは、新機能を試すだけだ」

「そう。だとすれば、入り組んだ無人地帯を探さないとね」

「だな」


 その時、電話が鳴った。

 チュロスが受話器を取り、チュリスが応答する。


「お待たせいたしました。お客様と夢との繋がりを手助けする企業、Dream・Link・Companyでございます。御用件は何でしょうか?」


 しばらくして--


「社長、ゲームセンター、プレミアム・クローバーの店長からの依頼だよ」

「ジョイナスから?」

「うん。社長のお気に入りが不調だって」

「あー、あれか。分かった、すぐに向かう」


 ベルはロッカーを開ける。ロッカーの中には、工具箱が何箱も置かれてある。工具箱には数字が書かれている。

 ベルは3番の工具箱を取り出す。


「そいじゃ、行って来る」


 ベルが向かう仕事先は、目と鼻の先だった。

 目前にある線路を渡り、その先にある商店街の一角にあるゲームセンターが、今回の仕事先だ。

 そのゲームセンターはスーパーの三階にあり、そのフロア全てがゲームセンターになっている。ワンフロアだけなのにも拘わらず、ラインナップは充実している。児童向けの遊具までも複数設置されている。


「お待たせ、ジョイナス」

「待ってたよ、ベル」


 サングラスにヘルメット姿の拡声器を持った若者がベルを出迎える。


「早速で悪いが、すぐに見てくれ」

「言われるまでもないさ」


 ジョイナスはベルを案内する。

 ベルが直すことになった機体は、【サイバー・ストライカー】という縦スクロール式シューティングゲームの機体だ。

 ベルは工具箱を開いて、慣れた手つきで修理を始めた。

 単に、機体の中を見て直すだけではない。ちゃんと正常に作動するかどうかテストプレイも行った。


「うっし、これで完了っと。無事に直ったぜ」

「ありがとう、ベル。ホント、助かったよ」

「オマエ、運が良いぜ。アタシ、数分前に帰宅したんだからな」

「そうか。疲れているのに、すまなかった」


 ジョイナスは気まずそうな顔をする。


「気にするな。大した事なかったし」

「そうは言ってもな~」


 ジョイナスは頭を掻く。


「あ、そうだ。お詫びにオマエ好みの特ダネを教えるよ」

「特ダネ?」

「あぁ。シティ中央にあるタワーから4時の方角、廃墟地帯に無人の図書館と劇場が建ち並ぶ場所があるそうだ」

「図書館と劇場?」

「あぁ。そこには、恐ろしい妖怪が棲みついているそうだ」

「怪物?」


 ベルが苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「どんな?」

「平たく例えると、空飛ぶ大樹とか」

「何故そこに?」

「人冥戦争に巻き込まれたエリアだから」

「そいつは、肝試しに持ってこいのエリアだな。情報、サンキュー」


 ベルはゲームセンターを後にした。


「ただいま」

「お帰り、社長」


 社員たちがベルを出迎える。


「って、どうしたの? 険しい顔をして?」


 ルナが首を傾げる。


「ちょいっと、面白い特ダネを入手してね」

「特ダネ?」

「あぁ。店長いわく、とある図書館と劇場に妖怪がいるかもしれねぇってよ」

「妖怪ですって?」


 ルナたちが顔をしかめる。


「それって本当なの?」

「さぁ、そこまでは。行って見ねぇと分かんね」

「その様子だと、行って見たいようだな」


 ビステッカが問いかけると、ベルが笑顔で頷いた。


「当然、調査しに行くさ」

「そう言うと思ったよ」


 ビステッカは溜め息をこぼす。


「ルナ、政府に連絡を。調査許可書を申請したい」

「分かったわ」

「ビステッカとチュロスとチュリスは留守番を頼む」

「分かった」

「アタシは出かける準備をする。こいつも、仕上げないとな」


 ベルはバイクを撫でる。



--数日後--



「社長、ウロクが来たわよ」


 ルナがバイクを整備しているベルに声をかける。


「そうか。なら、麦茶を用意してやってくれ」


 ベルは手を止め、来訪したウロクを出迎える。


「いらっしゃいませ、ウロク警部」


 ベルが愛想笑いをすると同時に、ルナがウロクに麦茶を差し出す。


「変な時だけ礼儀正しくするな。死亡フラグにするつもりか?」

「そんなの、アタシにとっちゃ恋人のようなもんだ」

「だとすれば、よほど好かれているな、オマエ」


 ウロクが懐から紙を取り出す。


「ご覧のとおり、調査許可書を用意してくれたぞ」

「なら、とっておきの土産話をプレゼントしないとな」


 ベルは紙を受け取り、サインする所に自分の名前を書いてから返却する。


「そいつが冥土の土産にならんことを祈っているよ。弔慰金に貯金を削りたくないんでな」

「ご忠告、ありがとよ」

「んじゃ、御馳走様。また飲みに来るよ」


 ウロクは用意された麦茶を飲んでから立ち去った。


「さてと」


 ベルはヘルメットをかぶり、バイクにまたがり、エンジンを駆ける。

 それからグリップのボタンを押した。

 すると、フロントマスクが稼働して、砲身が姿を現した。

 更に、ベルは別のボタンを押した。

 すると、今度は砲口からエネルギー弾が発射された。

 それは、前方の的が描かれた壁に穴を開けた。


「うっし、問題なしっと」


 ベルは大きなウェストポーチを装着し、ハンドガンとショットガンの弾、そして、小型爆弾を詰めこんだ。


「んじゃ、行って来る」


 ベルは社員たちに笑顔を見せ、それに応えるように笑顔を浮かべる社員たちを見てから走り出した。


………

……


「あれか」


 会社から出発して約3時間後、ベルの視界に目的地が映った。

 錆びついた扉が残る巨大な門を中心に、左右の壁が斜め奥に向かって設置されている。

 扉は開かれており、向こう側の様子が窺える。

 ベルは小型望遠鏡で扉の向こう側を覗く。

 すると、ぴょこぴょこと跳ねる影が見えた。


「ふむ」


 ベルは拳銃を取り出して、バイクに乗ったまま門を通った。

 途端、異形の存在がベルを出迎えた。


 丸々と生い茂った草のような姿をした怪物の群れが現れた。その数、5体。

 しかし、それで驚くベルではなかった。

 表情を崩さず、様子を窺う。


「ぎゃうぅ!」


 すると、5体ともベルに襲いかかった。

 ベルは冷静な態度で銃弾を発砲する。

 ベルの反撃は素早く、攻撃を受ける前に5体にエネルギー弾を命中させた。

 エネルギー弾を被弾した5体の怪物は、光の粒子となって消え去った。


「ホント、冥界軍は奇妙な物を遺して敗けやがってからに」


 ベルは建物に目を向ける。

 建物は左右対称で3階建て、入り口は3ヶ所、真ん中と左右に扉があり、中央の屋上には樹木が生い茂っている。


「ふむ」


 ベルはリュックからボールを取り出し、それを建物内めがけて投げた。

 すると、ボールが凄まじいアラーム音を立てる。

 それに驚いたのか、建物内に棲んでいた怪物たちが飛び出した。

 先程の草みたいな怪物や巨大蜂のような怪物が、群れで割れた窓から逃げ出す。

 何体かベルに襲いかかったが、両刃剣で返り討ちにされた。


「じゅじゅぅー! 誰だー! 俺様の縄張りを荒らすのはー!」


 屋上の方から不気味な声が轟く。

 直後、巨大な影が屋上から飛び降り、ベルの背後に着地する。

 いや、着地ではない。その巨体は地面から少し浮いている。


「ここは、俺様の縄張りだ! 俺様の世界だー!」


 巨大樹の人面相が激しく動き、左右に生える野太い枝の腕が降り上がる。


「俺様の世界から、出て行けー!」


 正面だけでなく、幽霊を思わせる尾びれのような下半身も見せつける。

 しかしベルは、臆せず余裕の笑顔を浮かべている。


「はぁん、随分と小さい世界だな。ウナギの住処にピッタリだぜ」

「う!? うう、ウナギ、だとぉー!?」


 癪に障ったのか、怪物は憤慨する。


「俺様は、呪樹羅だ! 人より凄い妖怪なんだ! ウナギじゃねぇー!」


 そう叫びながら、ベルに襲いかかる。

 ベルはバイクに乗ったまま回避する。


「はぁん、人より凄い? その割には、随分と原始的な攻撃じゃねぇか」


 バイクは呪樹羅の周囲を旋回する。


「この、これならどうだ!」


 呪樹羅は指先の代わりにしている枝先を地面に突き刺す。

 すると、ベルが走る先の地面から枝先が現れた。


「はぁん、御約束だな」


 ベルはバックして回避する。


「これでもくらえ!」


 バイクの砲台からエネルギー弾が放たれる。

 エネルギー弾は枝先に命中し、木端微塵に粉砕した。


「痛ぇー!?」


 呪樹羅は思わず悲鳴を上げた。


「なんでだー!? 人間の作った物が、妖怪に通用するなんてー!?」

「古いんだよ、オマエ」


 ベルはショットガンを構え、呪樹羅めがけて発砲する。


「ぐぅ!?」

「どうだ? 特性ショットガンの味は?」

「この、調子に乗るなー!」


 呪樹羅は耐えながら反撃する。

 ベルはバイクを走らせ、攻撃を回避しながら反撃する。

 ショットガンの弾が呪樹羅の腕を破壊する。


「そんなもの、効くかー!」


 しかし、一瞬で再生した。


「本体を潰さないとダメか。それも御約束だな」


 ベルは銃口を呪樹羅の身体に向け、連射する。


「ぐぐぐっ! 効かーん!」


 呪樹羅は耐えながら反撃する。

 ベルは咄嗟にバイクを走らせ、回避する。


「舐めるなー、人間がー!」


 呪樹羅がベルに迫る。

 ベルは速度を上げるが、呪樹羅も速度を上げる。


「くそっ、振り切れないか。なら!」


 ベルは小型爆弾を取り出す。


「これでも、喰らえ!」


 そして、それを呪樹羅に投げ込んだ。


「がぁー!?」


 爆弾は呪樹羅の目前で爆発した。


「なんの、これしきぃー!」


 しかし、呪樹羅は爆風に耐えた。正確には、焼けた表面が一瞬で治った。


「ちっ、ダメか」

「じゅーじゅじゅじゅ! 無駄無駄、無駄ー! 俺様は妖怪だ! 不老不死なんだ! 最高で最強なんだー!」

「やれやれ。人様よりも凄いとか言っておいて、妙な笑い方でキャラ作りしやがって、おまけに不死を自慢しやがって、腹立つったらありゃしねぇ。だからアタシは、妖怪は大嫌いなんだ。人の誇りを、科学の力を、全否定しやがって」

「じゅーじゅじゅじゅ。不死じゃねぇからって、妬むんじゃねぇーよ」

「妬む? バカ言うな」


 ベルの語気が強くなる。


「命は一つ、人生は一度、平和は一時、だからこそ全力! 不老不死なんざ、子供騙しにもならねぇどころか肥やしの代わりにもならねぇよ!」

「負け惜しみを! 不死身の俺様に勝てる訳ないだろう!」

「昔はな。今は違う。と言ったら?」

「じゅーじゅじゅじゅ。面白い。どんな手があるのか、見せてみろよ~」

「なら、しっかりと味わいな!」


 ベルは荷物袋を呪樹羅に向かって投げた。

 それは呪樹羅の口の中に入った。


「ごくん」


 呪樹羅は、それを飲んでしまった。


「なんだ~? こんだけか~?」

「まあ、そう焦るなよ。今、トッピングしてやるからさ」


 ベルはバイクで呪樹羅から離れる。

 そして、握り締めたスイッチを押した。

 瞬間、呪樹羅の口から閃光が飛び出た。

 続いて、凄まじい爆発が起きた。


「がぁーーー!!??」


 爆音と同時に、呪樹羅の叫び声も轟いた。

 呪樹羅の身体は木端微塵になり、その身体があったであろう空中には人魂みたいな物が残っていた。


「それが、不死身トリックの種か。なんてことねぇ。魂を模した再生機能つきの形状記憶装置じゃねえか」


 ベルは魂に向けて銃口を向ける。


「ひぃー! やや、止めろ! 止めるんだ!」

「あらま、ビックリ。その状態でも喋れるのか」

「俺様は妖怪だぞ! 不老で不死なんだぞ! 偉いんだぞ!」

「不老で不死、か」


 ベルは呆れたと言いたげに笑う。


「不老は認知症予防になりそうだから興味あるが、不死は……」


 引き金に触れる指に力を入れる。


「駄作の一つだ」


 言い終えると同時に、引き金を引いた。

 凄まじい銃声が轟き、放たれた光の弾丸が偽りの魂を貫く。

 瞬間、それは砕け散り、光の粒子となって消えた。


「あばよ、ウナギもどき。あの世とやらで真の不死を楽しむんだな」


 ベルは武器を収め、スマホを取り出す。


「アタシだ。今、片づけた。……あー、そうだ。清廉潔白な修行僧を気取った連中の手を借りなくても妖怪を倒せる。……そう、そのとおり。これで、ようやく本格的に売り出せる。楽しみにしてな。いつか絶対、最高の国を建ててみせる。そう。妖怪を人の戒めにすることがない、そう思いこんでいる奴がいない、可能性と選択肢、そして笑顔に満ち溢れた理想郷を、な」


ふと、ベルは建物の方に目を向けた。


「その参考になる物が建物内にあるかもしれない。ちょっと寄ってから帰る」


 ベルは電話を切り、建物に近寄る。


「店長は図書館って言ってたな。建国のコツとかあると良いんだけどな。あと、妖怪に頼らなくなる人に育てる方法も。それから……」


 ぶつくさ呟きながら、ベルは建物内に入る。

 しかし、彼女の活劇は、ひとまずここまで。彼女の活劇が人々の心に眠る真の勇気を目覚めさせる鬨の声になることを祈って--

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