僕が平和の国の女王になるまでのお話、カーテンを開けばそこには知らない世界が広がっていた、男だと思っていた僕はこの世界ではどうやら本物の女の子で、しかも何処かの皇国のお姫様らしいのだが
第8話 ヤバい時は記憶喪失で乗り越えましょう
第8話 ヤバい時は記憶喪失で乗り越えましょう
「いえ、いえその……私の方ではなく、横にいる男性は? ここまでは、でかかって居るのですが、どうしても……想い出せなくて」
ここでワザと少し眉根を寄せ、少し恥ずかしいが、人差し指がちょうど胸元の真ん中辺りに引っ掛け、そして下へ引っ張りながら、ドレスの胸の谷間が見えるか? 見えないかのギリギリで留め、ここの辺りが苦しいのと強調するかの様に彼を見詰めると。
「あっ、はっ、ユー、胸、胸、優雅なお胸が、いえ、はっ、何とも、フーフー」
「ンッンッンーー、ビスケン! 胸がどうしたと言うの? それに何です! 鼻息が荒くってよ」
「ウオッホン、オッホン、オホンッ、いえ、ローゼンマリア様、これは私としたことが失礼」
「謝るならワタクシにでは無く、ユートピュア様にお謝りなさい!!」
あらら、ちょっとやり過ぎてしまったかも……
この国の人は案外女性慣れをしていないのだろうか? 自分も此処までする必要は、無かったのでは(反省)
若干ローゼンマリアさんの顔が恐い。
まあ、僕に向かってでは無いが、自分の中身は男だから、同じ男として女性に睨まれるのは厳しいものが有る。
此処は何とか元に戻さないと・・・
「いえ、ローゼンマリア様、大丈夫です、私の所作がビスケンマルクさんを少し混乱させてしまいましたから、彼には非は有りませんわ」
( 敬語と女性言葉ムズっ!)
「ユートピュア様がそうおっしゃいますなら、私は構いませんが」
「それで、ユートピュア様、想い出せないとは……もしや」
「「「記憶喪失!?」」」
「ええ、そうなるのでしょうか、彼のことを、いえ、それより自分の名前と少しばかりのことしか記憶に無くって」
チラッ!?
「「「「「なっ、なんと!?」」」」」
ヨシッ!?
これで、自分が記憶喪失と言うアリバイが成立した。つまりホワイト・スノー皇国の姫が何かの原因で記憶を無くしたと皆に認識して貰えた。なので、分からない事柄や歴史、人物の繋がりなど、好きなだけ質問が出来る。
「それで、この絵の男性の方は…… 私と、どのような関係に有ったのでしょう?」
「何と嘆かわしい、このお方は貴女様の弟で、ユニバーシア・ホワイト˙スノー様で御座います。生前は軍神の異名をお持ちで有ったとか」
弟……?
僕に・・・・・・いや彼女に?
(生前って事は、
弟さんももうこの世に居ないってこと?)
もう弟もこの世に居ない……
一体この兄弟にどんな過去が有るというのだろう? 姉であるユートピュアの方は、仮に僕だとして、もう弟は亡くなって居る。
しかし彼女に血を分けた姉弟が居たということが分かった。それはつまり、もし彼が生前に子孫を残していた場合、まだその子ども達は生きているのだろうか?
ところで絵を良く見ると、この男の人も僕と同じ指環を嵌めている。そして、それはつまり血族を意味しており、姉弟である証しだと冷静に考えれば、この絵から読み取ることが出来たのではないだろうか? 家族写真のようなそんな類のものだと、気付けたはず……
僕が見知らぬ男性にギュッと手を握られてるのをあの絵から想像して、変に意識してしまったために、恋人か何かだと思ってしまった。
いくら記憶喪失という設定にしていても、今後はもう少し慎重に質問をした方がいいだろう。
まあ、今は誰も僕の事を疑っている人は誰もいないのだけど……兎に角、今後はもっと慎重に質問をしていこう。
「如何なされました? ユートピュア様!?」
「えっ!」
ツーーーーーーーーーーーーーー
何かが頬を伝い、ボタッとドレスに落ちて音を立てる。無意識に目からそれは零れ落ちると、決して激しくはないが、ユックリと続けて、今度は左の頬も同じ様にツツーーと流れる。
零れ落ちると共に、やがてそれは交互に流れ落ち始め、いつしか止まらなくなっていた。
何で……僕は泣いているんだ?
自分でも分からない、でも急に胸の辺りが苦しい。何なんだろう……あの絵の姉を愛おしく見詰める瞳が、まるで今の自分を見詰めているかのように見え始めた、そして絵から目が離せなくなると同時に、僕のいまの身体がそれを憶えているのか?
悲しさの波で胸が一杯に満たされ溢れて止まらない。
その悲しみの波が心で受け止め切れなくなったものが、心の防波堤を超え、瞳から決壊して零れ落ちるかのように。
「コレをどうぞ、ユートピュア様」
「有り難う御座います」
そう言うと、スッと素早く差し出されたハンカチを取り、それを顔を覆うようにして、目頭を抑えた。
これ以上公衆の面前で男の自分が(見た目は丸々女の子だが)恥ずかしい姿を晒したくは無かった。
それにしてもアイゼンハルト卿は誰よりも行動が早くて、僕でも胸キュンとしてしまいそうな程、紳士的な方でビックリした。
まるで乙女ゲーに出てくる異世界の素敵な王子様だ。
ハンカチで顔を伏せ、絵から目が離せて安心したのか? そんなゲームのことを考えて居ると、少し笑いが込みあげて肩が震え出していた。
(やばい、アイゼンハルト様の動きってあのゲームのキャラにクリソツ!!)
こういう時は抑え込もうと思えば思うほど、結果が酷くなるから不思議だ。
何とか声は出さずに済んだが、周りはどうやら自分の肩の動きが、悲しみから来ていると勘違いしているらしい……
ハンカチで隠したアホ顔を晒さないため、落ち着くまで僕は、肩を揺らしながら隠し続けた。
召喚前の世界に有ったゲームドキドキプリンセス恋せよ世界の王子様に
アイゼンハルト様そっくりのキャラがいた事を思い出し、思わず涙腺崩壊からの爆笑に変わっていた。もちろん必死に堪えたので、声は出ていない。
肩の震えがまるで彼等には悲しみの震えと勘違いしたのか?
皆には誤った感情が伝染していった。
そう、悲哀という間違った伝染。
「オオ、ユートピュア様、さぞお悲しいのでありましょう」
「…………」
「分かります、分かりますぞそのお気持ち」
「…………」
「うっう"っうっ、ユーち"ゃ~~ん~~バカるわ、ぞのぎもちぃ~~」
「………………」
「「「ローゼンマリア様」」」
「姉様……(汗)」
どうしよう……絶対に今は顔をあげるべきじゃない。
何か悲しい事を思い出して、瞳をウルウルした状態で顔を出さなければ、いまのとてもニマニマした緩み切った顔なんかを見せたら、特にローゼンマリアさんには失礼だ!!
でも、こういう時に限ってそんなに都合良く泣けるエピソードなんて思いつくも無く、最終手段で内腿を思いっきり抓る事にした。
……ッ……痛みで目が潤んだので顔を上げるや否や、フワッと柔らかい布で包まれたかと思うと、仄かな薔薇の香りが鼻に拡がり、気付いた時には、白くきめ細やかな肌の奥に顔が収められていた。
ほんのり温かくとても柔らかい。
━━えっ、柔らかい? これって……ひょっとして!
慌てて顔を上げると、思った通りの場所に先程まで自分の顔がうずめられていると分かると、急に水銀の入った温度計の針が上がるかのように首から順に顔が熱くなるのを感じた。
まさか、まさかこの年齢で女の子の胸の谷間に顔を……しかも相手は公爵家の御令嬢。幾ら自分の姿が女の子だとしても、心は男のままだ。心の準備が出来ていないのに、こんな体験をするなんて。
恥ずかしくって、ローゼンマリア様の顔を見る事などできるはずがない!
「どうなされました! ユートピュア様、お顔が赤くなっておられるが」
「いえ、かっ、体が少しばかり火照ってしまい……まして……?」
しまった、少し誤解を招く言葉を選択してしまった。こういう場合は熱っぽいが正しいのに、動揺していたせいで、言葉選びを誤った。
「「「「「ほっ、火照ってしまわれたのですか!?」」」」」
やっぱり、そうなるよね~~
多分、僕でも同じクラスの女の子がそんなセリフを言われた日には誤解すると思う。まあこっちが緊張して僕の場合は何も言えないけども。
「コレ、ソコ! ソコモッ! 変態丸出しはおやめなさい!!」
「「「申訳御座居ません」」」
「ウホンッ、まったくお前らと言う奴は」
「お父様もです! ガッツリあの方の胸元見てたでしょう(怒)」
「わっ、ワシは……すいません見てました」
あらら、公爵家の主人としての威厳は何処へやら、案外何処の世界もお父さんは娘に弱いのかもしれない。
「全くもう~~、そうだ! 今から私の部屋に来ない?」
「へッ!? あのぉ~~」
(これはヤバイ展開なんじゃ)
「いいでしょ、いいでしょ、女同士ならもっと気楽に話せると思うの、それともイヤ……かしら?」
「いえ、嫌では無いです、でっ『なら決まりね!』も……はい」
「よし、決まり! じゃあ、行きますわよ」
楽しみって、ウィンクされたら世の殿方(自分も含め)はイチコロでしょう。
実はこのローゼンマリア様言動と違って物凄く優しかったりするし、特にそのはち切れんばかりの胸は犯罪です。
元の世界でも起きなかった男の感情が開花しそうなのに、なのに今の身体は全く別人、しかも女の子ときてる。
しかしなんて愛らしい顔立ちをしてるんだろう。コスプレの女の子と違って、ナチュラルな明るめのパープルヘアはグッと来るものが有る。コスプレが駄目って訳じゃなく、自然に伸びた髪の色がまるでアメジストの原石の様にキラキラしているのを想像すると分かると思う。
そう僕はちょうど子どもの頃に母親に連れられて、あのパワーストーンを取り扱うお店に行ったときだ、ドカっと置かれていたクラスターの原石を想い出していた。
ほんのりピンクががった白くて小さな手、それとは裏腹に力強く、流されるままに僕は扉の前まで引っ張られるていく。
一旦彼女の手を振り解くと、慌ててクルリと彼等に振り向いて、カーテシーを行った後、今度は自分から彼女の手を握り、扉を後にしたのだった。
カーテシーを行う直前、勢いよくクルリと翻った際、ユートピュアの宝石のように美しい太ももと純白のそれがチラリズムした、ドアが閉まった向こう側の彼らが皆ある部分を抑えながら、屈みこんだことについて彼女は知る由もなかった……
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