第5話 プロポーズをされました


 なんて言い訳をすればいいのだろう? そう思っていた矢先、彼は僕を見ながらニコニコ顔で話し掛けてきた。



「やあ、こんにちは! 何処かの麗しの姫君」



「アハハハ……ハハ、こっ、今晩わ」



「おっと失礼、今晩は……だったね。所でこんな遅くには訪ねて来ないよう、各屋敷の方々には伝令していたんだけど、参った参った、貴女も待てない人のお一人でしたか(笑)」



「も……?」



「おやおやぁ、違うのですか? 昨日もスフィアーズ伯爵のご令嬢が深夜参られたのでぇ、てっきり、フッ」



 昨日もって、案外警備が手薄なのだろうか?


 

 それとも案外治安が良いのか?


 

 それにしても自分はモテるので困った困ったってオーラがムッカつく、まあ実際端正なお顔をお持ちなんですけどねっ……


(どうせならさっきのデコピンをもう二、三倍強めのいっときゃ良かった。)



 あれれ?



 普通にデコピンしても次の日も痕が残る威力なのに、もうさっきの赤みが消えいている。



「どうしました?」



「いえ、何でも無いのですわ、オホホホ」



 そうか、僕は女の子になってるから威力も半減してるんだ。それよりもダンスのように抱きかかえられてるままなんだが、しかも上から『どうしましたお嬢さん』って言う眼差しが熱過ぎて、男だけど気まずい。



(貴族ビームと名付けよう)



 まあ、彼にはもちろん何処ぞの令嬢と映っているのだろうが、自分のイメージ的には男が男に抱きとめられているBL的なイメージなので、少しキモい。



「あのぉ~~」



「おっと失礼、ずっと貴女を腕に抱えたままだった、しかしどうして?」



「それは、さっき貴方様が、寝たまま私にお抱きつきになられたのです」


(敬語ムズ……)



「寝たままですか? この私が?」



「はい、カトリーナという方のお名前を、物凄く愛おしく何度もお呼びになられておりましたわ」



「何ということだ! このアイゼンハルト・アイネ・シュタッフェン、心に決めている相手がおりながら、別の女性を抱いてしまうとは一生の恥……」



 急に眼力をいれて、



「まさか貴女様にキスを?」



「いえ、『ホッ、よかっ』ただ胸をお揉みに……『た?』……」



「……むっ……胸を……胸を……私は既に貴女の身体を!! 分かりました、責任を持って貴女を我が妻に」





 えっ!!


 ちょっと待ったぁ~~これってどう言う展開だ?



 それにアイゼンハルトって何処かで聴いたような……無いような?



『今度国王主催の……そこで意中の公爵家の……』



 思い出した!!!! 



 そうだ、彼はカトリーナが慕う相手じゃないか、いま僕の目の前でプロポーズをしている男性こそ、公爵家の子息であるアイゼンハルト卿その人。



「いや、ちょっ……さすがに婚約は飛躍し過ぎでは」



「こんな失礼な出逢いからで申訳無い、でもこんな不貞な行為をしたからこそ、わたくしは貴女を大切に迎えたいのです!!」



「はっ、はあ……」



(真面目なのか? 馬鹿なのか? いまいち掴めない)



「いやぁ~、それにしても良く見るとお美しい、貴女を妻に出来ることを神に感謝しなくてはっ!?」



 神と来たかぁ~~それにしても自分の美的感覚は、強ち間違っていないようだ。あの娘の部屋で鏡に映る自分を見た時、何て可愛い子だと自分に見惚れてたけど、彼もあの時の僕と同じ顔をしている。


 まあ実際僕の場合は、元の世界の男としての自分の場合の脳内イメージがまだ強く、浮かぶのは僕の顔ってこと何だけど。


 それよりこの求婚を断ら無ければ、彼女にきっと大丈夫って励ましておきながら、今度彼女と再開する時は、”彼の妻になってました、てへ”って、そんなのシャレになんっない!!



 何か良い方法を考えなくちゃ……



 神? あっ、そうだ!!!!



「アイゼンハルトさん、せっかく素敵なお申込みを頂いたのですが、人間の方と結ばれることは、神がお許しになりません」



「ん?  それは、つまり……貴女は人じゃ無いと?」



「はい、ワタシは天使です」



「天使!?」



「はい、先程カトリーナさんの所にお邪魔をし、そしていま貴方の部屋に訪れました」



「天使……? その証拠は?」



 当然疑われるとは思った。

 


 きっと彼の中では、頭がおかしい女か、それとも結婚を拒否する為の逃げ口実だと思っているだろう。まあ後半は当たらずも遠からずなのだが(汗)



 さあ、ここからの言動次第でどっちに転がるか分からないから、慎重に答えて行かなくては。



「ドアを開けずに入り、且つ窓のバリアを解除する事無く此処にいます、それに」



「それに?」



「カトリーナさんに頼まれ、貴方へ恋の伝言をお伝えしに、ここに降り立ちました」



「カトリーナさんが、私へ恋の伝言ですか!?」



 よし、食いついた。物凄く驚いて見開いた大きな目、そして瞳は嬉しいのか? 爛々としている。



「彼女は貴方の事を愛して居ます、貴方が彼女を愛すのと同じ様に、ワタシは彼女の祈りの力と思いで、鏡から現れました」



「てんしなのですか? 貴女は……その証拠は? いや、彼女に会ったと言う証拠がみたい」



「これが証拠になれば?」



 僕は右手を挙げて、彼女から唯一貰った薬指の指環を見せる、すると……



「おおそれは、王族のリングでは有りませんか、これは大変失礼致しました」



 そう言うと彼は跪き、どうやら神の遣いの天使では無く、僕のことを天子と勘違いしてしまった。カトリーナは子爵と言っていたけど?



「えーー一体どうなってんの!?」



「はて、天子様どうかしましたか?」



「いえ、何でも有りませんわ、オホホホホ」



 今回は天使で無く、天子と言うことにしておこう。



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