悲恋の大空

暴走機関車ここな丸

第1傷『真紅』

第1話「何かが始まる日」前編

 ──初めまして。



 この物語の主人公は 朝蔵あさくら 大空そら と言う、ちょっぴり後ろ向きな女の子です。




[朝蔵 大空]

 「あぁ、もう休みが終わってしまーぅ」




 今日は春休み最終日。



 長い休みは終わるのがつらいよ。



 と言っても私はインドアなので、休みじゅうなーんもしてないんだけどね!!



 もう間も無く、私の肩書きは『高校2年生の女子』となる。



 所謂いわゆる漫画・アニメで言うところの、主人公の学年。




[朝蔵 大空]

 「去年きょねんは……なーんも無かったなぁ」




 ベッドに横になって、天井を見つめ自身の人生をひとり振り返ってみる。



 そんな私の表情は虚無顔きょむがお



 今まで何かを成し遂げた訳でもなく、何か賞を取った経験も、何も無いのです。



 ……実は彼氏も出来たことが無い。



 私の人生はイマイチえない経歴。



 天井を見るのに満足した私は、今度はベランダに出てきて、お月様がひとりぼっちになった夜空を見上げる。




[朝蔵 大空]

 「つまんないなぁ」




 私の人生つまらない。



 あ、なんか急に眠くなってきた。



 さっきまで眠気ゼロだったのに……。



 時計を見ると、現在時刻は23時57分。




[朝蔵 大空]

 「漫画読みたい……」




 明日あすから新学期、そろそろ寝ないと。



 星の見えない暗空あんくうを観測するのはだれしも1分経たず飽きるでしょう。



 まあ星が見えてても1分以内に飽きるけどね。



 私は大人しく寝床ねどこに着き、布団を首まで被って両目を閉じた。




[朝蔵 大空]

 「明日学校行きたくないなぁ……」




 またこんな事を言ってる。



 ううん、ダメだこのままじゃ。



 私は一瞬だけ目を開く。




[朝蔵 大空]

 「うん、明日からは頑張ろう。 うん! 自分が になったつもりで……!!」




 この独り言を呟いたのは一体何回目だろ、数は数えてない。



 だけど何回こんな事を口に出しても、引っ込み思案な私は行動になんか移せない。



 誰かが背中を押してくれたら良いのだけれど……。



 きっとまた明日来るのはいつもの一日、一生このまま。



 言うだけなんだ。




[朝蔵 大空]

 「スー……スー…………」




 寝息を立てて熟睡、そしてこのまま朝までぐっすり……のはずだけど。



 何かが違う。




[朝蔵 大空]

 「私、寝たよね?」




 始めは夢かと思った。



 だけど普通の夢とは違って、意識がしっかりしていて、体に自由がある。



 私は変だなと思い周りをゆっくり見渡した。




[朝蔵 大空]

 「な? ……に」




 視界に広がるのは薄紫色の世界。



 環境音もBGMも一切無い。



 自分の影も存在しない世界。



 何も無いし何も聞こえない。



 気持ち悪い……金縛り? とは違うよね。




[???]

 「なァ、アイツが言ってた。 アサクラソラ……ってオマエ? だよな」



[朝蔵 大空]

 「ひゃっ!!」




 突然聞こえてきた声に、私はびっくりして後ろに尻餅しりもちをつく。




[朝蔵 大空]

 「イタタ……」



[???]

 「オイオイ! 大丈夫カー?」




 あ、あれ? 痛い?



 夢のはずなのにしっかりと尻に痛みを感じた。




[???]

 「そりゃーそうだな! ここはオレ様が作り出した完全プライベートな空間だもの。 夢とは違うんだよ、夢とは」




 謎の声の主がこれは夢じゃないと言っている。



 この人は神か何かなの?




[朝蔵 大空]

 「誰ですか? どこに居るんですか!?」




 確かに男の人の声が聞こえるのに、人のような何かはいくら探しても見つからない。




[ミギヒロ]

 「どーもー! ミギヒロ ですー! あ、オレ魔法使いなんだけど、なんつーか……オタクに変な呪いかけチャったみたいなんだよネー」




 相手は勝手に自己紹介を始めた、しかも意味不明なことをひとりで喋っている。



 魔法使いとは?



 私は訳の分からない状況に戸惑っている。



 なのに、声の主は機嫌の良い口調で話すのだ。



 私はその者に恐怖するより段々とムカついてきてしまった。




[朝蔵 大空]

 「は? な、なに呪い?」




 私は聞き慣れない言葉に思わず、キレ気味で聞き返してしまった。




[ミギヒロ]

 「ソウソウ呪いー」




 声の主は私の問い掛けにも適当に返す。



 私、朝蔵大空は魔法使いに呪いをかけられたようで。




[朝蔵 大空]

 「えっと、ミギヒロさん……? それはどう言った呪いなんでしょうか?」



[ミギヒロ]

 「……ン? あっ、と、えっと。 とにかく呪われているんだな! 名も無き呪い的な? お客様が最初のお客様です! 的な?」




 は?



 名前の無い呪い……らしい。




[朝蔵 大空]

 「何で私が……」



[ミギヒロ]

 「あー! 申し訳無い! 実は手違いでしてェ」




 恨みも無く人に呪いを掛けるなんて、迷惑な魔法使いもいたもんだなと思った。



 生まれてから現実で魔法使いと関わりを持つなんて初めてだけど、この人は多分ロクな魔法士じゃない。



 まともじゃない。




[朝蔵 大空]

 「手違いって……なんかよく分かんないですけど。 呪いとか嫌なんで、早く解いてほしいんです!」




 正直私は話が見えなくていらっていた。




[ミギヒロ]

 「解放してあげたいのはヤマヤマなんだけどネー……」




 解放?



 魔法使いは都合が悪くなったのか、さっきまでデカデカと喋っていたのに急に声が小さくなった。




[朝蔵 大空]

 「えっ! 解けない呪いなんですか!?」




 私はまさかと思って声を荒らげる。




[ミギヒロ]

 「ア! 解けないことは無いぞ! ちょっと条件がメンドクサイだけで……」




 また男の声が言葉のすえ当たりで小さくなった。




[朝蔵 大空]

 「なんですか!? なんでもします!」




 必死になった人間はきっとなんでも出来るはず。



 だが私がそう言っても魔法使いは黙ったまんまだった。



 どうしたんだろうと思いつつも、私は相手が喋り出すまで大人しく待つことにした。




[ミギヒロ]

 「ほんとになんでもしてくれる?」




 魔法使いは、 "ここからはおふざけ無し" みたいな口調で話しだした。




[朝蔵 大空]

 「わ、私に出来ることであれば……」



[ミギヒロ]

 「落ち着いて聞いてネ。 えっとね、愛の救済をしてほしい! ブッチャケルと、男をとしてほしいのです!」




 聞こえてきた条件はふざけているのかと思った。




[朝蔵 大空]

 「えっ! 私彼氏出来たこと無いですよ!? 引っ込み思案だし……! 自信なんて無いし……モテないし……」



[ミギヒロ]

 「あ、ソコは心配御無用だから安心して〜。 キミのスペックに関係無く男なんて勝手に寄って来ると思うから」



[朝蔵 大空]

 「え、そうなの?」




 なんだろう……このTHEご都合主義の設定は。



 そんなの、乙女ゲーでしか聞いたことない。




[ミギヒロ]

 「ウン、だってぇーキミにはそう言うバフがかかってるもん。 ヨカッタネー、だって…… んでしょ、人生」




 " つまらない "



 その言葉は、寝る前に私が外のベランダでひとり吐き捨てたセリフだった。



 この魔法使い、まさかその時から既に近くに居たと言うの?



 気味が悪い、聞いていたとしか思えないほどのタイミングだ。




[朝蔵 大空]

 「どう言うこと……?」



[ミギヒロ]

 「さ、今からキミ! 朝蔵大空のつまらなくない人生が始まるよ〜。 さァさァそれではオレはこの辺で♪ なんだかんダ言ってもう朝だしねー、バイビー☆」



[朝蔵 大空]

 「あっ……」




 魔法使いの声が遠くなっていく、魔法使いは私との会話を終わらせようとしている、そう察した私は……。




[朝蔵 大空]

 「待って下さい!!」




 叫んだ。



 だけど誰かの返事が返ってくることは無かった。



 魔法使いは謎を多く残したまま、その姿を私に見せる事も無く私の元から消えて行ってしまった……。



 ──そして。




[朝蔵 大空]

 「…………ん、朝……?」




 もう朝が来たらしい、さっき眠ったばっかな気さえするのに、外も明るくなっていた。



 朝は無情だ、すぐに帰って来る。



 まるでこの私に何か期待しているように、いつも独り善がりに、前のめりになってやって来る。



 そんなに早く来られても、やりたいことなんて無いっつーの。




[朝蔵 大空]

 「うーん、寝た気がしない……」






 コンコンっ……。






 背伸びをしていると部屋のドアが2回ノックされた。



 聞き逃しそうなほど控えめなノック音。



 このノック音はきっと弟の 真昼まひる だ。



 私はすぐに部屋のドアを開けた。




[朝蔵 大空]

 「真昼? どうした」




 部屋の外にはやっぱり真昼が居た。




[朝蔵 真昼]

 「お母さんが早く降りて来いだって、起きるの遅いんだってば」




 弟は面倒臭いと顔に書いてあるかのような表情だった。



 この可愛い子は自慢の弟の 朝蔵 真昼。



 真昼とは正真正銘、本当の姉弟していであるが、歳は1個違いで今年から真昼も私と同じ高校に通っている。



 幼稚園、小学校、中学に続き高校もお姉ちゃんと同じ学校を選ぶなんて本当に可愛い奴め。




[朝蔵 真昼]

 「何ニヤニヤしてんの?」



[朝蔵 大空]

 「い、いやなんでもないよ?」




 お察しの通り、私は軽度のブラコンだと思う、それを私は本人や周りに隠すのにいつも必死だ。




[オカマタレント]

 『へ〜! アサノヨゾラくんってもう26なんだぁ、いくつになっても可愛いのねー』



[アサノヨゾラ]

 『あっはは、よく言われまーす♪』




 制服に着替えて朝食を食べていると、私のお母さん、 朝蔵 あおい によってリビングのテレビがけられた。



 ベテランオカマタレントが今アツいインフルエンサーをゲストとして呼んで適当に持ち上げる番組。



 しかし、この番組は朝にやっているようなやつじゃない。




[朝蔵 真昼]

 「また録画ぁ? 朝はニュースが良いのに」



[朝蔵 葵]

 「だってー、 せんちゃん が映ってたから……♡」




 ソファで夢中になってハート目でテレビを見ているのは私の母、 朝蔵 葵(大のイケメン好き)。




[朝蔵 真昼]

 「千にい人気者だねー」




 千ちゃん、千兄とは、テレビの向こうでオカマタレントと一緒に映ってる私の兄、アサノヨゾラこと 朝蔵 千夜せんや の事だ。



 おとこ系ファッションデザイナーとして持ち切りのインフルエンサー、それが私のなのだ。




[オカマタレント]

 『じゃあさー、ずばり! アサノくんが1番大事にしてるものってなーに?』



[アサノヨゾラ]

 『…………家族、ですかね』




 千夜お兄ちゃんは美大入学と同時に家を出て行ってしまった。



 最後に会った時にはまだ普通に男性らしい格好をしていたので、男の娘としてテレビに出てきた時は本当にびっくりした。



 もう何年も会えていない、久し振りにお兄ちゃんに会いたいなぁ……。




[朝蔵 真昼]

 「ごちそうさま。 行って来ます」




 と言って真昼は学校カバンを持って足早あしばやにリビングから出て行った。




[朝蔵 葵]

 「はーい、いってらっしゃ〜い」



[朝蔵 大空]

 「あっ私もそろそろ! ごちそうさまです、行って来ます!!」




 私は真昼に続くように家から出て学校に向かった。



 まあ別に、真昼は一緒に登校してくれないけどね。




[朝蔵 葵]

 「はい♪ いってらっしゃい。 気を付けてねー」






 プルルッ♪ プルルッ♪






 その時、リビングの電話機が鳴りだした。




[朝蔵 葵]

 「あら、何かしら……。 はーい、もしもし朝蔵でーす」






 つづく……。

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