04:聖姫とアラサー

 それからしばらくの間、聖女認定されて何もかも待遇が良い純奈とは違う部屋で、私はこの世界について学ぶ事になった。講師はいつも同じ、三等文官のアラサー男性。名はサロモンという。なお三等は城仕えでは一番下の文官らしい。

 彼は城仕えと共に準男爵の位を得たそうだ。準男爵は子に継ぐ事は出来ず一代限りだ言って苦笑していたが、よく分からなかった。

 ちなみに知らない男と密室で長時間二人きりというのは身の危険を感じたので、侍女も一緒に室内に待機している。



 文化や宗教、そして神話的な内容は毎日ざっと聞き、合わせて国の位置やら名前とか地図を見て説明して貰った。月や日の数えは三十日を一月として十二ヶ月だそうだ。下手に28日とか31日が無い分覚えやすい。


 また文化の違いとして際立ったのは、奴隷だった。

 この世界では奴隷が認められていた。奴隷とは重度の犯罪を犯して身分を失った物で、国が行う治水や街道の工事で使われるらしい。普通は町で暮らす一般人にはまず縁が無いそうだ。


 そして似たような存在として従僕というものを教えて貰った。

 彼らは食べていくのに困り国に身分証を返した者のことを指すらしい。従僕らは適切な契約の上で、貴族の屋敷などで使用人として雇われて一生を終えるという話だった。なお従僕から生まれた子は戸籍を貰えるそうなので、従僕の身分は当人のみ、子供に継承されることはない。


 ここまで聞けば理解できる。

「最初に私が了承していたら、貴族の家で従僕って扱いになったのよね?」

 当然、宮廷魔道師のクソじじいを呼び出して直接文句を言ってやったわよ!!

 さらに慰謝料の加算とあわせて、私の身分証を発行させる事を約束させたわ!



 気を取り直して通貨。

 この国では金銀銅青の貨幣があって、単位と価値を確認した。青とは青銅の事だ。

 貨幣は分かりやすくて青が1円、半銅貨が5円、銅貨が十円、半銀貨が五十円に銀貨が百円だった。

 ここまでは一緒で、金貨だけは半金貨が五千円で金貨は一万円らしい。

 貨幣換算と価値はもちろん違っていて、一日二食を外食、そして個室で外泊すると半銅貨一枚程度だそうだ。

 食事のランクを落としたり雑魚寝を選べばもっと節約できるのだとか。

 なお最低貨幣は青一枚だが、おつりで半青という、勝手に半分に切っただけの物が返されることがあるという。かく言うサロモンも半青を持っていると見せてくれたのだった。


 住民の稼ぎは平均で銀貨二枚ほど。宮仕えで三等文官のサロモンはその倍で四枚を貰っているとか。


 なお紙は貴重で布や革、または木が代用される。だから書物などが高い傾向にある。そして魔物が居る事から武具などは比較的安いらしい。



 続いて文字や言葉だが、これは召喚された時に何でも理解できるようになったらしく、まったく問題なし。ぶっちゃけどの国のどの時代の物でも読めるし聞き取れるようだ。

 もしかして通訳の仕事でも出来るんじゃないかしら?

 なお住民の識字率しきじりつは半分未満だそうだ。



 さらにステータスに関わる事を確認した。


 称号はオンリーワンの物から、職業的な意味合いの物まで一杯あるらしい。

 少しだけ言い辛そうに、「聖女ってのはオンリーワンだ」と教えてくれた。

 ただし、国王とかは国別にいるからオンリーワンではないそうだ。彼は『三等文官』でオンリーワンではないらしい。

 なおオンリーワンの称号だと大抵は相当強力なbuff効果があるらしい。

「あんたの職業はなんだったんだ?」

「私は『学生』よ」

 彼は申し訳なさそうに「そうか、すまん」と謝罪した。



 HPは生命力、0になれば死ぬらしいのだけどマイナスでも生きている場合もあるとか。怪我をすれば減り、回復すれば戻る。


 MPは精神力、魔法と使うと減り、0になると魔法が使えなくなるそうだ。ついでに0で気絶し、寝たりゆっくり休んだりする事で回復するそうだ。


「ねぇ私のMPは棒が入っているんだけど、どういう意味かしら?」

「棒だと? う~ん……済まないが聞いたことがないなぁ」

 どうやら『-』は不明らしい。


 STは持久力、スキルを使ったり運動すると減る。つまり疲れるという事。0になると疲労でぶっ倒れるみたいよ。意識はあるけど起き上がれない状態という奴ね。


 そしてスキルは、魔法や剣術、商売などもスキルだそうで、数は千差万別。

 本を読んだり、人から教えて貰ったりするとまずは練習ランクが手に入るそうだ。ただし素質があれば~と言う注釈が入る。無ければ練習さえも習得できないってさ。

 人に聞く以外だと前提スキルを使用すると稀にスキルが手に入ることがあるそうだ。このスキルはとてもレアな物が多く、それなりの才能に加えて運まで必要らしい。


 スキルは使えば使うほど上達、つまりレベルが上がる。そしてレベルが上がるとステータスなどに補正が入って増える。また成功判定や効果に良い結果が出やすくなる。

 もっとも顕著なのは魔法で、スキルレベルが高ければMPの消費量が減るらしい。


 Lvは最初の練習を経て、F~Aの英字ランクへ。そこから大幅に上昇率が悪くなる数字ランクと呼ばれる9~1で終了らしい。


 宮廷魔道師クラスだと5~7ほど。

 なお聖女は過去例外なく、光と神聖魔法に対しては数字ランクの1だそうだ。


「英字ランクの間は難なく上がるが、数字ランクに入ると途端に辛くなる」

 つまり聖女の持つランク1というのは、ほぼ伝説級の熟練度になるという話だった。


 覚えておくと便利だと言われて教えて貰ったのが、【魔物鑑定】と【植物鑑定】と【動物鑑定】に【物品鑑定】の鑑定周辺、あとは【料理】と【野外活動】そして【生活魔法】というもの。

 鑑定は物品まで教えて貰ったところで、【鑑定】というスキルに統合されてしまった。

「ねえスキルって統合されたりするのかしら?」

「いや、そういう話は聞いたことが無いが、どうかしたのか?」

「えっ? あっ、魔物鑑定とか植物とか色々あるじゃない? 鑑定って一括りだったら分かりやすいのにな~と思ったのよ」

「ははは、確かにそうだな」

 なお、サロモンが言うには【鑑定】なんて言う都合の良いスキルは存在しないそうで、個別に覚えてレベルを上げなければならないと教えてくれた。

 とても嫌な予感がしたので、私はこの件には触れない事に決めた。



 【生活魔法】は火をおこす、水を生み出す、お湯を沸かすといった生活に近しい簡単な魔法一式だった。呪文の数は最初から決まっていて、レベルが上がればMPの消費が減るだけのようだ。

 ちなみに料理は持っている、四年間の一人暮らしを舐めないで欲しい。


 そしてさらに彼の持っていた属性魔法の【風魔法】と【水魔法】の二つ教えて貰った。

 なお使える魔法などは、ステータス欄でスキルを確認すると一覧で出て来るそうだ。


 さらに他の属性や魔法の基本的な話を聞こうとすると、

「すまんが俺はあんまり魔法に詳しくないんだ。本を読むか、別の人に聞いてくれ」

 仮にもあのじじぃは宮廷魔道師だ、彼を呼んで直接話を聞くか、駄目なら書庫の使用許可を貰えるように後で聞いてみよう。



 アビリティはその人固有の特殊能力らしい。

 生まれつきの能力で持っていない人が多い。運が良い人が稀に一つ持っているだけで、二つや三つ持ちはかなり稀だそうだ。

 なお発現していない能力は『※※※※※※』で表されているそうだ。


「その発現していないアビリティを含めると、平均で幾つなのかしら?」

「うん? 理解できなかったか、発現していないアビリティも含めて稀なんだぜ」


 つまり五つも枠がある私は異常ということらしい……

「もしかして二つ以上あるのか!?」

「いいえ無いわよ。でも運が良いみたいで、一つだけ発現していないアビリティがあるみたいだわ」

 正直に言う必要は無いのでそう言って誤魔化すと、それを聞いたサロモンはとても羨ましそうにこちらを見つめていた。


「ところで発現方法とか、アビリティの効果とかはどうやって知るのかしら?」

「発現方法は分からない。なんせ俺は持ってないしな……。

 効果は魔法スキルと同じでステータス欄で確認すれば表示されって聞いたぞ」

「ありがとう。発現したら見てみるわね」

 後でこっそり確認してみよう。

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