第16話 暴君王妃と意思を継ぐもの

 発情王子が呪いを吐くように呟く。

 「この趣味の悪い計画は誰のだ」

 この場所には暴君王妃と発情王子、義理妹姫と私、離れて親父と暗殺少女、そして息絶えた第一王子。

 暴君王妃が応える。

 「私は貴方達を愛しているのよ」

 「それは存分に感じましたが、実子にまで犠牲を強いるのは趣味が悪すぎる」発情王子は怒りを押さえているようだ。発情王子が続ける。

  「…… 女子供を連れて旅をしました。大変な苦労でした。そして、この国で、この世界で、東砦の王族を仕切ったその手腕、この国一の才女かと感じております。しかし、第一王子が女性であるのを隠すのは難しかったのでは?」と発情王子。

 「それは難しくなかったわ。この世界では女性は生きにくいから、女児を男児に偽ったり、その逆もよくあることなのよ。それに私達は妾だから、発情王子、貴方の体調が悪くなるまで私と娘はただの市井だったわ。第二王子は生まれつき虚弱だから、大人まで生きれないと思われていたし、発情王子が育てばそれでよかったのだけど、それも危ない時があって、現王に私と娘と妹の第二義母が呼ばれて、話し合ったのよ。義理妹姫はまだ幼かったから呼べなかった。ごめんなさいね」

 暴君王妃は心から義理妹姫に謝っているようだ。

 「現王はね、砦の王家の純血主義を憎んでいたわ。それは私や妹を愛して下さったのもあるけれど、貴方のお母さまが流産で何度も苦しんで、最後は第二王子を残して亡くなってしまった時、本当に悲しんだわ。彼は本当にこのルールも自分の立場も嫌っていたわ。だから娘の案に乗ったのよ」

 突然、発情王子は暴君王妃に提案する。

 「二人でこの世界を取りませんか?」

 暴君王妃はドキリとする。

 でも、と暴君王妃は答える。

 「その時にはこの国の人間は貴方と私だけだと思うわ、私は貴方達も、現王も妹も愛しているのよ。娘が亡くなって悲しくないわけではないのよ、それは後回しにしているだけ。計画にはいつ気づいたの?」と暴君王妃。

 「第二王子を殺害してからです。なぜ、俺が大好きな弟を殺さなければいけなかったのか考えたのです。で、なぜ、暴君王妃と言われるあなたが、私達兄弟を生かしておくのか考えた結果、貴女は私も第二王子も好きなのです。だから、俺達兄弟にも生きるチャンスをくれた、そして生きる目標も。『王位を取りにに来い』と」と発情王子。

 「そう、貴方の体調が悪くなってしまったから、始めざるを得なかった。もし万が一、貴方たち兄弟が亡くなってしまったら、本当に第一王子として立つつもりだったのよ。この因習を断ち切るためにね。だから、あなたが王よ、発情王子、発情王を名乗りなさい」

 発情王子は言う。

 「そして、最後は自ら処刑されて王位を譲るつもり。はなから自分の命と第一王子の命を掛けて、俺達を成長させるつもりだった」と発情王子。

 暴君王妃は発情王子と義理妹姫に近寄り、抱き寄せ二人の頭をなでた。

 「発情王子、今こんなことを言うのは卑怯だけど…… 娘の本当の夢は『発情王子のお嫁さん』だったのよ。貴方が頑張っているのをいつもいつも喜んでいたわ。『お母さん、また発情王子が凄いことをしたわ!』って。本当に貴方のことを想っていたわ」

 暴君王妃が続ける。

 「義理妹姫、ごめんね。私では第二王子を助ける方法が見つけられなかったのよ。妹の第二義母も本当に第二王子を愛していたわ、だから、第二王子を失って心底落ち込んでいるわ。妹は強がりだから、貴女が支えてあげて」

 発情王子が呟くように言う。

 「もう、これしかない。どうか、断らないでほしい、貴女は私の妾になるのです。ノーは許さない、本当に殺すしかないのだから」

 暴君王妃は優しく発情王子に微笑む。

 「本当に嬉しい申し出だわ、本当に。でも、娘なしの世界で生きていられる気がしないわ。それに、決着はちゃんとしないとダメ。私の代わりに娘を貴方の妾として弔ってあげて」

 二人の背中をトントンと叩いてから、暴君王妃は二人から離れる。

 「発情王子、貴方は東王家を継げるところまで来ているけど、これからどうするの? もうすぐこの国は騎馬民族に攻められるわ」と暴君王妃。

 「そうですね。俺は貴女ほど達観は出来ていないのです。俺もこの戦に勝てる気はしません。ただただ、この世界を呪うことにします。どうせ終わるのならば、世界大戦争の火種をまき散らして終わりにします。それが起れば、男女平等には近づくでしょう『自由』という名の下に殺し合いの終わらない世界を作り出します。その後どうなるかなんて知ったこっちゃない。俺は好きな人を何人殺せばいいのですか? そんな世界など、世界ごと地獄に落ちればいいのです」

 「凄いわね。私より達観しているわよ。望んで魔王になるとはね。私が言っても意味ないけれど、もう少し肩の力を抜いていいのよ。人は完璧ではないのだから」

 発情王子は普段通りの態度に戻っている。

 「善処します」と発情王子。

 暴君王妃が言う。

 「お話は終わり。娘の計画を完成するとしましょう。さあ、私を殺すのです」

 発情王子も義理妹姫も動けない。

 私が一歩前に出て、発情王子に声を掛ける。

 「ここは私にやらせてほしい。私は始めて尊敬する女性に出会えた。暴君王妃には私が頑張っても届くとは思えない。でもこの世界で私が一番暴君王妃を尊敬することができる。彼女の理想を叶えることは出来ない。それでも私の知らない誰かに殺されたくない。発情王子、あなたが地獄を歩むなら、私はあなたの騎士として同じ道を歩むわ」

 私は暴君王妃に「貴女の命を私に下さい。私の中で力を貸してください」と伝える。

 「いいわ、ただし貴女は発情王子の妻になりなさい。そしたら先ほどの発情王子からの求婚も受け入れたことになるわ、貴女の中でなら、現王にも気づかれないだろうから」

 にっこりと暴君王妃は私に笑いかける。

 「ありがとう」

 私は笑顔を返す。

 私の心はどんどん澄みきっていく。そして私は剣を抜き暴君王女の首を斬った。




 暗殺少女を胸に抱いた、発情王子が王座に就く。

 たくさん人が死んだ。

 誰もが、優しく、強く、一生懸命だった。

 これからも争いは続くだろう。

 何人生き残れるのだろうか。


 発情王子は王様も奴隷も男も女も好きなことに命を掛けられる『自由』な世界を作るという。

 『自由』はたくさんの努力を必要とし、多くの争いを生むという。

 

 たくさんの命を捧げようやく手が届きそうなところにある『自由』。

 それは私達の本当に望んだものだろうか。

 神からの贈り物か悪魔との契約か。

 『自由』を得た人よ、どうか大切に使ってほしい。

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発情王子と女騎士 早乙女 又三郎 @matasaburou_saotome

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