第35話 登校

 その日はまりもの家から登校することにした。

 調べてみると、蓑端みのはたへの道は除雪の見通しも立っていないという。

 もともとこんなに雪が積もる町ではないので、雪かきの備えなんか役場も住んでる人もしていないのだ。

 花堀はなぼり兎野うの線は除雪してあるので、蓑端へはそちらから行ってください、みたいな情報が載っている。花堀‐兎野線も半場はんば‐兎野線も除雪してあるが、蓑端のところの道路はあとまわしらしい。

 まあ住んでる人が少ないからしようがないけど。

 どっちにしても、学校が始まる前に家に帰って、なんてできそうにない。

 半場に行って電車で花堀に行ってバスで蓑端追分おいわけまで行って家まで帰って、家で学校の支度したくをして、そのコースを逆に戻る、または、バスで兎野まで行って学校まで歩く、なんてしていたら、遅刻するどころか、午前の授業はまったく受けられないだろう。

 それでは、午前中の授業をトイレも行かずにずっと寝ていただれかさんといっしょだ。

 朝ご飯はまりもがトーストを焼いてくれた。

 それと牛乳とで朝ご飯だ。牛乳もまりもがあっためてくれた。

 まりものお父さんはたぶんまりもが家を出るまで起きてこないだろうとまりもは言った。

 「ごめんねー。父ちゃんが起きてたら昨日のバイト代渡すんだけど」

 「ああ、いいよいいよ、バイト代なんて」

 そんなつもりで仕事を手伝ったのではないし、だいいち、ここであの山盛りのご飯を食べさせてもらって一晩休ませてもらったのだから、おカネなんかもらえる義理ではない。

 「だめ!」

 まりもは明るく笑って言い張った。

 「かつ天労働組合が勝ち取った時給千五十円なんだから、ちゃんと受け取らないと、満鶴みつるちゃん労働者の裏切り者になっちゃうよ」

 「はあ?」

 裏切り者って……。

 まりもはさらに明るく笑った。

 「いや、お母さんが出て行ったあと、父ちゃんがさ、バイトさんに最低賃金しかバイト代払わなかったんだよ。ネットでわざわざ最低賃金っていうの調べてさ、一円単位までその最低賃金どおりで。それはあんまりだって、バイトさんがわたしも入れて父ちゃんと渡り合って、わたしが明日から学校行かないぞってストライキ権行使したらさ。要求千二百円のところ千五十円で妥結だけつっていうのをしたんだから、まあ、いいんじゃないの? だから満鶴ちゃんにもきっちり時給千五十円の給料をもらってほしいんだけど」

 「いや……」

 ストライキ権って、そういうのじゃないと思うんだけどなあ……。

 でも、どちらにしても、けっきょくまりものお父さんが起きてこなかったので、そのバイト代というのはもらえなかった。

 そのかわり、というわけでもないが、満鶴はまりもにシャワーを使わせてもらって、さらにまりものお姉さんの肌着とタイツとハンカチまで借りた。遠慮しようとしたのだけれど、自分のタイツはぐじゅぐじゅに濡れていて着られたものではなかった。それで、毒を食らわば皿まで二・五人前ならアイスまでで、肌着まで借りることにした。

 靴も雪のせいでぐじゅぐじゅだったので、まりもの靴といっしょにまりものドライヤーで乾かした。さすがに乾かなかった。それで、満鶴もまりもも登校靴を袋に入れて、まりもは自分のゴム長靴で、満鶴はまりものお姉さんの長靴を借りて行くことにした。

 二人でぷっかぷっかと慣れない長靴を踏みしめていっしょに登校する。

 満鶴はいつもは笹禾ささのぎから学校まで歩いて行くのだけれど、その道はまだ雪が積もったままだ。だから今日はまりもといっしょにバスに乗ることにした。

 バスのなかでは、あのまりもの小学校のころからの同級生たちといっしょになった。

 これまであんまり仲よくしてこなかった子たちだけれど、昨日の雪すごかったよね、何してた、とかいう話ですぐに打ち解けて、盛り上がった。

 雪だるまを作って三段積み上げたって子がいた。そうすると、昼休みには校庭に残っている雪で雪だるまを作って、どれぐらい高くまで積めるかやってみようとかいう話になった。

 勢いで満鶴も、「あ、わたしもそれやる!」とか言ってしまった。つくづくバカだ。

 ああ、いつも「住民のみなさんやバス会社から苦情が来てます。バスのなかではおしゃべりしないようにしましょう」とかすまして言ってる生徒会役員がバスのなかでうるさくしてる。そう思った。

 でも止まらなかった。

 いっしょに乗っている小学生たちやあの陣屋町じんやまち高校の生徒たちも似たようなうるささだったから、許してもらえるだろう。

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