第20話 まりもの物語(1)
テーブルに載っているところを見たときにはとても食べきれないと思っていたが、まりもと二人でぜんぶ食べてしまった。
まりもはお味噌汁もご飯も盛大におかわりした。
「これぐらい?」
と繰り返しきいてくれたので、二度めは大盛りにはならなかった。
食べ終わって、まりもが食器を下に持って行ったら、かわりにアイスクリームとお茶を持って来てくれた。そのころには、もう「まだアイスクリームまで食べるの?」という気もちもなくなっていた。
こういうのを、毒を食らわば皿まで、というのか、ちょっと違うのか。
二・五人前食らわばアイスまで、なら、違わない。
楽しかった。
一年生の最初、この子とお友だちになれたらいいな、と思っていたけれど、この子のおうちでこの子といっしょに夕飯を食べることになったら、とまでは思っていなかった。
たしかに、半日前には、こんなのとは顔あわせるのもいやだ、と思っていたんだけど。
アイスクリームを食べて、お店で残ったというお茶も飲む。
「苦いでしょ?」
とまりもが言う。お茶のことだ。
とりたてて苦いということはないけど、たしかに濃く入れすぎだと思う。
「父ちゃんもわたしも、まだお茶、うまく入れられないんだ。で、出がらしより濃く出過ぎのほうがまだまし、ってさ。うちの本家、お茶農家だから、お茶っ葉はどんどん使ってもだいじょうぶだからさ」
言って、まりもは足を伸ばして、後ろに手をついた。
「お母さんとかお姉ちゃんはうまかったけどね。お茶も、何もかも……」
そうだった。
これだけ忙しい店で、まりものお母さんは一度も見なかった。それに、いま満鶴が着ている服は、まりものお姉さんの服だ。ちょっとだけ借りるつもりが、洗い物の水が飛び跳ね、汗もかいて、洗濯しないと返せないくらいには着た。
そのお姉さんはもうこの服を着ることはないという。
どうしたのだろう?
きいていいのだろうか?
「そういえば、お姉ちゃんの話はあと、って言ってたね。いま、お姉ちゃんの話、していい?」
とまりもは後ろに手をついたまま言う。
「うん」
と言って、満鶴は両手をこたつのなかに入れた。さっきまりもがしていたように。
まりもの声は、落ち着いて、というより、しんみりしてきている。
満鶴は、悲しい話でなければいいな、と思った。
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