第14話 心地よい朝

 翌朝。

 俺は小鳥の鳴声で意識を覚醒させた。


「……ふあ」


 気持ちいいまどろみの中、目を開ける。

 ふう、よく寝た。寝覚めがいいのはこの体になって一番得した部分かもしれない。


 現実世界の俺はトラウマのせいか悪夢ばかり見て、気持ちよく起きれたことなどほとんどなかった。だけどこの体では悪夢を見たことすらない。

 出ていた腹も引っ込んだし体も軽い。いいことずくめだ。


「さて、そろそろ起き……ん?」


 体に何かがしがみついていることに気がつく。

 そちらを見てみると、なんと右腕にシアが引っ付きながら寝ていた。逆の腕にはルナがしがみついており、俺は挟まれる形になっていた。


「寝た時は離れていたんけど、いつの間に来たんだ?」


 起きた時やけに温かいなと思ったんだ。天然のゆたんぽ二つに抱きつかれてたんだからそりゃ温かくもなるな。


「おーい、起きろ」


 すやすやと寝ているシアの肩を揺らす。

 気持ちよく寝ているところ悪いが、今日はやることがある。起きてもらわなくちゃいけない。


 しばらく声をかけながら揺すったりつついたりしていると、シアがゆっくりと目を開ける。

 そして焦点の合ってない目で俺のことをジッと見る


「……あれ? なんでダイル様が? それにここは?」

「まだ寝ぼけているみたいだな。昨日ルナの村に来たんじゃないか」

「でも別々のお布団で寝てませんでしたっけ? もしかしてダイル様、私のお布団に……!」

「いや、お前が俺の布団に入ってきたんだぞ?」


 怪しげな推理をしていたシアに現実を教える。

 すると彼女は「ふぇ!? す、すみません!」と大きな声を出す。その顔はまるでトマトみたいに赤くなっている。


「うう、お恥ずかしい……」

「はは。シアの面白い一面が見えたな。ルナに教えてもいいか?」

「そ、それだけはお許しください!」


 真っ赤な顔で大きな声を出すシア。

 するとその声のせいかルナも「んん……あさ……?」と目を覚ます。全く、賑やかな朝だ。



◇ ◇ ◇



 目を覚ました俺は、まずはシアのみを連れ森の中に入った。

 昨日の一件で俺は謎の人気を獲得してしまったので、家を出たら獣人たちに囲まれて大変だった。シアは吟遊詩人の才能もあるんじゃないか?


「……さてシアよ。これからあることをしようと思うのだが、聞いておきたいことがある」

「はい、なんでしょうか?」

「これから始めることをすると、おそらくシアは『強く《・・》』なる。同年代の子と比べてではなく、大人と比べてもずっと強くなるだろう」

「そ、そんなことができるんですね……」


 子どもと大人のレベル差は5くらいだ。

 10レベルも上げてしまえば大人よりもずっと強くなってしまう。


「もしシアを強くすれば、普通の村娘として生きることは不可能になるだろう。だから決めてほしい、俺から離れて普通の子として暮らすか、それとも強くなり私の側にいるかを」


 こんなこと子どもに聞くのは間違っていると思われるだろう。

 しかしシアは大人よりも頭のいい子だ。二つの道のメリットとデメリット、二つを天秤にかけて結論を出してくれるだろう。


 だが彼女にとって俺の問いは天秤にかけるまでもなかったみたいで、


「そんなの決まっています。私はダイル様のお役に立つためならなんでもします」

「――――そう、か」



 予想していたとはいえ、なかなか心にずしりと来るな。こんな子どもを本当に俺と同じ道に進めていいものか。

 改宗コンバーションを使えば考えを変えることもできるかもしれない。

 だけどそんなことをして失敗したら、シアの心が壊れる可能性もある、試すにはあまりにリスキーな行動だ。


 ……覚悟を決めるとするか。


「分かった。その忠義を受け入れよう」

「……!! ありがとうございます!!」


 シアは顔を輝かせて喜ぶ。

 彼女が怪我でもしないよう、がっつり強くしないとな。


「あ、ダイル様。一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?」

「ん? なんだ?」

「今から私を強くしてくださると思うのですが、ルナちゃんも一緒に強くしてもらっても大丈夫でしょうか?」

「ルナを?」


 そんなことを言われるとは思わなかった。

 確かに彼女を強くすれば白狼族を守ってくれるだろうけど。


「なんでルナもなんだ?」

「ルナちゃんもダイル様のために働きたがっています。ぜひお願いします!」

「んー……ルナがそんなこと考えてるとは思えないけど、シアがそこまで言うなら……」

「ありがとうございます!」


 シアが考えなしに言うとは思えない。

 たぶん深い考えがあるんだろう。ならわざわざ断ることもないか。


「よし、それじゃあルナを連れてきて始めるとしようか」

「はい!」

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