第47話 ミドの権限

 なんか静かですね。

 ああ、宮廷の貴族はのきなみ別ブロックに行ってんのかもな……


 もうね、俺ね、逃げようと思うじゃん。

 そしたら俺とオイノピオネーが普段から利用してる宮に俺たち以外には世話役使用人の姿しかない事実が浮かび上がってくるじゃん。


 宮一個まるまる使って俺たちを隔離&監視してますよね。


 いやァわずらわしい宮廷貴族とのアレコレがなくて助かるなァ〜。

 つまりここで俺が逃げようとしたら死ぬほど目立つってことですねェ!


 ク・ソ・が・よ♡


 宮殿に思想強めの美少女と二人きり(使用人はいます)で隔離されてる騎士爵が夕刻をお知らせします。


 助けてくれぇぇぇぇぇぇ! ここから出してぇぇぇぇぇぇ!

 思想強い美少女の思想ブレイクなんか無理だよぉぉぉぉぉ!!!


 俺を使って人間の可能性を確かめようとするんじゃねぇ!

 俺に人の心を救うとかできるわけねぇだろ! 最低限、『心を救う』の定義を明らかにしてから依頼を持って来い!!!


 いやーマジでどうしようね。


 宮まるごと使って隔離されてっから失踪も無理じゃん。

 で、王様からの依頼である『どうかあの子を救ってくれ……』もそんなの無理じゃん。


 三年間をここで過ごすんスか? 絶対に達成できない目標を目指しながら? 嘘でしょ?


 これなら辺境の方がマシだよぉぉぉぉ!

 夜中にちょいちょい自傷して絶頂してるけど『経験という水』もあんまし溜まらねぇしさあ! 過去の淫属性持ちの行動とか調べてより効率のいい樹の育成をしたいのに下手に属性のこと調べらんねぇしさぁ!(いちゃもんの材料になるため。そもそも魔力暴発関連以外は資料閲覧許可が出ない。たぶんクソガキに新しい変な思想を吹き込まれては困るので厳しくされてる。そして魔力暴発関連の資料は『存在しない』と言われる)


 あと、あわよくば『魔力暴発』とかいう研究をしてるクソ厄介な俺を一生飼い殺しにしちゃおうっていう意図も感じるんですよねぇ!

 貴族界隈のタブーについての研究発表したやつとか、ほっといたら何するかわかんねぇからな! 痛いハラ探られたくない連中が『ついでに』みたいなノリで俺を封じ込めようとしてる可能性にも思い至っちゃったんですよねぇ!


 世界めちゃくちゃにしてやろうかァぁぁぁぁぁぁぁ????


 俺の目の前にある選択肢、もう『オイノピオネーをどうにかする』しかねぇんだよな。


 まあテティス公あたりが俺の実質監禁をどうにかしようとがんばってくれてる気はする……! 気はするっていうか、お願いだからなんとかして……!

 宮廷に政治的な影響を及ぼせる知り合いがテティス公しかいねぇんだよ……! 頼むぞテティス公……! 俺の役に立ってくれよな!


 しかしやりとりもできない相手を『信じて待つ』とか無理なんでこっちからもなんかしていきたい気分ではある……


 ……いや、まあ。

 あるんだよな。オイノピオネーの心を『救う』方法は。


 あるんだけどさあ。

 やりたくねぇんだよなあ…………


 あとアリアドニアス王の要求からはちょっとズレるっていうか……


 ようするにね。

 俺が魔王のフリして思考誘導したらいいんだよ。


 あのクソガキ、『魔王様』はかなり盲信してるし、都合よく俺のこと『魔王様』本人だと思ってるわけだし、そのまま、いい感じの方向に思考を誘導してやれば、アリアドニアス王から見て『改心した』と思える状況にはできるわけですよ。


 でもこれマジで最終手段なんスわ。


 人の行動指針になるとか絶対無理だって!

 しかもオイノピオネー、『魔王様がそんなようなこと言ってたから……』でテロまでするんだぜ? つまり俺が魔王様になったら俺が命じるだけで人殺しまで辞さない王族の誕生なんだよね。

 しかもしかも? 『命じる』までいかなくても『俺がそういう要求をしたいと思ってる様子をあいつが勝手に察知する』ってだけでもアウトっていうか?


 そんな厄介存在を作りたくねぇよ!


 マリアじゃん!


 マリアだわ。すでに一人いるじゃん……え、ヤバ……

 でもマリア、案外そこまで人を傷つけないしな……あれ、大丈夫なのでは? い、いや、ダメだ。どうなるかは個々人の資質による……安定した人付き合いを心がけるんだ……


 っていうかピンク髪の連中、全体的に心が弱くないか?


 指導者ってより従者向けの『察しの良さ』と『精神性』なんだよな……

 性格が血筋で伝わるって話は聞いたことないけど、伝わってる説あるな。常に『主』を求めてる感じっていうか?


 ……ああ、本当に『迷宮の主』を倒した血脈は絶えてんだな。


 どうすんだろうね。まあ『かつて迷宮の主を倒したことのあるスキルでしか迷宮の主は倒せない』っていうのも『根拠はなんです?』みたいな話ではあるんだけども。


 言い伝えってたまに馬鹿にならねぇ『真相』をはらんでるんだよな。

 特にこっちに都合が悪い真相はめちゃくちゃふくんでるんだ。


 はあ。そういうわけでね。会食が昼だったんで、家庭教師のお仕事はここからです。


 憂鬱だけど仕事だからしょうがねぇよなあ。

 っていうか怖すぎてあの思想強め美少女を放置とかできねぇよ。目を離したらどこで自爆するかわかんねぇんだもん。


 俺の記憶だと王城爆発事件はたしか俺が十八だか十九だかのころだったんだよな。

 アニバーサリー感を考えたらたぶん、オイノピオネーが成人の記念に爆裂したんじゃねぇかなって思うんだよね。なんか『記念』とか『節目』とか大事にするタイプでしょあいつ。


 ってことはあいつが今十二歳だから、三年後? 俺が十八のころかあ。記憶ともおおむね合致しますねぇ。


 相変わらず家庭教師をやるための部屋の扉は唐突ににかわが塗り固めて開かなくなっているわけもなく、ガチャリ、スーッと素直に開いて、中には王女殿下がいらっしゃいますねぇ。


 俺がドアを閉めると相変わらず近寄ってくるし、使用人は下げてるし、なんか笑顔だし、もう俺どうしようね本当に。


 っていうか『魔力暴発研究者』っていう体裁で俺を招いたんならさあ! 俺の『研究』に資金なり設備なり出すのが筋ってモンだよなァ!?


 なんもねぇじゃん!

 俺の給料の十割、『オイノピオネーの家庭教師代』だよ!


 あと『先行研究がない』っていう理由で資料閲覧拒否ってるけども! 先行研究がないからこそ一見関連のなさそうな資料が必要になると思うんですよね!


 っていうか俺を第一人者扱いするなら、俺が『必要だ』と判断した資料は全部閲覧許可しろや!!!

 なぁ〜んでこの分野になんの知識もねぇ宮廷司書が要求された資料が必要かどうか判断できるんです???

 その知識は俺にしかねぇだろうが!


「魔王様、どうなさったのですか? 本日はどのようなお話を聞かせてくださるの?」


 ピンク髪がわくわくしてる。

 わくわくしてるんだけどさあ……


 オイノピオネー、普通に優秀なモンで俺から教えられることねぇんだよな。


 っていうか俺に課せられた『オイノピオネーに教えておいて』のカリキュラム、全部すでに履修済みって感じなんだよな。

 俺も保身があるから余計なことは教えねぇしよぉ……自分で自分の授業のことクソつまんねぇって思うんだわ。


 なんかねぇかな……俺が王様とか宮廷貴族連中ににらまれず……最低限にらまれても『こういう理由です』って論理的な納得を求めることはできて、なおかつこのクソつまんねぇ日常から脱却できて、オイノピオネーの反省を促せて、それから『経験という水』が溜まるようなこと……


 ……………………あっ。あるわ。


「オイノピオネー王女殿下」


 ……思えば、こうして俺がオイノピオネーの教育係になるきっかけも『これ』だった。


「なんでしょうか、魔王様」


『これ』こそがすべてを解決する方法。『これ』こそが俺が王宮暮らしの中で唯一認められた権限。

『これ』こそが、『我、魔王ぞ?』って接する以外にほとんど唯一、オイノピオネーに反省を促すことができる方法。


 すなわち、『これ』とは。


「ちょっと爆発しませんか?」


 ━━魔力暴発。


 本日の授業は、爆発です。

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