誘導尋問
「そういえば、昨日のあれはどうやったんですか?」
いきなり片足を血だらけにさせたやつのことかな?
「あぁ、魔力を針状にして爆発ギリギリまで集めた後で勢いよく発射したんです」
最もそんな小さいサイズじゃ大して魔力を詰め込められないけど。
でもあの距離であの天気じゃよっぽど目がいい人でないとまず気づかないだろうから、回避しづらいんだよね。
「本当にいろんな魔法思いつくんですね。その発想力ってどこから来るんですか?」
ラノベや漫画って言っても分からないよね。どうしよう。
「うーん…好奇心とか?」
「なるほど、好奇心ですか」
この人本当に面白そうに僕の話聞いて来るな。こういう人とだと話していて気持ちいいな。
他に何か話題ないかな。ずっと向こうから話しかけてくるからこっちからも話題のネタみたいなものを……あっ。
「そういえば勇者様達が王国の依頼でずっと遠出してますよね。確か邪龍退治でしたっけ」
「あ、はい。そうですね」
あれ?なんか急に沈んだような顔になったけどどうしたんだろ?
「どうかしたんですか?」
「え?あ、あぁ、いえ、なんでもありませんよ。えっとそのしばらくこの街に戻られていないので心配だなーって思ったんです」
すぐに笑顔に戻ったけど、僕にはそれがぎこちないものに思えた。
「ひょっとして勇者のことが嫌いなんですか?」
「まさか、そんなわけありませんよ。だってほら、勇者様達は魔人領を滅ぼそうとしている正義の味方ですよ?」
この街の人はみんな勇者のことを信頼している。
ただ……。
「実際のところどうなんでしょうね」
「えっ?」
「魔人達が悪事を働いていて、その被害を最小限に抑えようと勇者が尽力してるそうですけど、どうも僕には胡散臭いように感じるんですよね」
「胡散臭い?」
召喚されたあの日からずっと考えていた。魔人は悪か、勇者は善か。
もちろん魔王の言うことをはっきりと信じていたわけじゃない。ただ情報を吟味する必要があるとは思っていた。
だからいつも勇者や魔人の情報は出来る限り集め続けた。
その結果
「どうもその大半ってあくまでそんなことがあったらしいって言うもので本当のことかどうかがまるで分からないんですよ」
これはまぁいい。現実に起こったことでもそれが事実であると証明するのが難しい場合は結構あると思う。現場に当事者しかいなかったケースがそれだ。
「あと、村や馬車がモンスターに襲撃された時って必ず生存者が出ていたんです。一回や二回ならともかく毎回そうなのは運が良かったとしても流石に出来すぎています」
大した護衛もいなかった時でさえそうだった。それは流石におかしい。
そして時々モンスターを使役していると思われる全身をローブや仮面で露出を完全に無くした男達も現れ、その時に必ず自分たちがグリングルドの魔人だと名乗っていたらしい。
おかしな話だ。名乗りをあげるのならなぜ顔や全身を隠すのだろう。そもそもなぜ名乗るのだろうか。そんなことをしたら魔人領がどうなるか少し考えただけでわかるはずだ。
でもこう考えれば説明がつく。
生存者がいたのは証言が欲しかったから。
露出がないのは正体がバレる危険性があるから。
グリングルドの名を口にしていたのは罪を魔人達になすりつけるため。
そしてみんなの前で勇者がモンスターを退治すれば?株があがるのは当然だ。
つまり、事の真相は勇者の自作自演である可能性が高い。
そしてもう一つ気になることがある。
僕が見た限り誰一人としてこのおかしさに気づいている人がいない。だれもかれもが盲目的に勇者を信じているように見える。
まるで誰かに暗示をかけられたかのような異常な雰囲気に満ちていた。
僕の思い違いであって欲しいんだけど。
「と、まぁそんな風に思ったんですけどノルンさんはどう思いますか?」
「……えっと、その」
ノルンさんは何度も口を開いては閉じ、そして迷うように尋ねてきた。
「ワタルさんは魔人の味方なんですか?」
「いえ、どちらかといえば中立の立場ですね。証拠がない以上僕がさっき言ったことは全部机上の空論ですから」
全く違うという可能性もなくもない。まぁ絶対に何かはあるだろうけど。
「いつからおかしいって思うようになったんですか?その話からするとだいぶ前から情報収集されていたみたいですけど」
「調べ始めたのは一ヶ月前からですね。そのころは別にあやしいからっていうんじゃなくて、人の話を鵜呑みにするわけにはいかないからとりあえず調べてみたっていうだけでしたけど」
情報を集めるのは比較的簡単だったな。街の人に詳しい話を聞きたいって言ったら何でも話してくれたから。
他の話題の時はそうでもないのに、勇者の話の時は無邪気な子供のようにペラペラと口を開いている。やっぱりおかしい。
「あなたは一体何者なんですか?」
「えっ?僕はただのしがない冒険者ですけど」
「そういえばさっき言ってましたよね?そういう世界で生きてきましたからって」
あっ…。
「ワタルさんって他の人と価値観というか世界観が少し違うような気はしていましたけど…」
「あー、そうかな?」
「もしかしてトルスの出身ですか?」
トルス?そういやこの国にそんな街があったような。
「あっ、はい。そこからこの街に来たんです」
ここは適当に話を合わせるのが鉄則だよね。ちなみにここの街の名はアレスだ。
「いいですよねトルスって。確かこの時期に山から見える景色が絶景らしいですね」
「あ、はい。それなりにいい眺めですよ」
「私も前に行ったことがありましたけど山に登った後に入った温泉が一番思い出に残りましたね」
「ノルンさんも温泉が好きなんですか?」
「もちろんですよ。あの気持ち良さはまるで天国ですね」
よかったー。僕が異世界人だってバレるかと思ったよ。あまり話しすぎるとボロが出るしもう少ししたらやめておこう。
それにしてもノルンさん、温泉が好きなのか。
「分かりますよ、その気持ち。僕も温泉好きですから」
「本当ですか!なんだか嬉しいですね。同じ趣味の人が見つかったみたいで」
「僕もそう思います。嬉しいですね」
「ふふふ…」
自然と僕たちは笑いあった。
「ところでワタルさん。さっきの話嘘ですよね?」
「えっ?」
「トルスに山も温泉もありませんよ?」
「……えっ?」
ないの?
「どうして嘘ついたんですか?」
どうしよう。すごくいい笑顔で迫って来ている。
まさかはめられた?さっき笑ったのってそういう…。
「どうしてですか?」
ちょっ!?近い!近すぎる!キスしそうだって!
「……えっと、言えません」
「……どうしても、ですか?」
うぐっ。そんな潤んだ瞳で上目遣いされたらすっごく罪悪感が。
かわいい…じゃなくて!危ない危ない。話すところだった。
「……どうしても、です」
「……そうですか」
しゅん、と落ち込んだように目を伏せた。なんかごめん。
「わかりました。今はもう何も聞きません。ワタルさんが話したくなってからで構いません」
「う、うん。ありがとう」
すぐに笑顔に戻った。よかった。ずっとさっきまでの状態だったらどうしようと思ったけど大丈夫そうだ。
「だからいつか話してくださいね。ワタルさんが異世界人だってこと」
「うん……えっ?」
ノルンさんは戸惑う僕に構わずそのままスタスタと歩き出そうとした。
「ち、ちょっと待って!何で知ってるの!?」
「あ、やっぱりそうだったんですね」
くるりと僕の方へ向き直ったその顔にはさっきと同じ笑みが……やられた。まんまと引っかかった。
「はぁ…どうしてそう思ったんですか?」
普通はその可能性に行き着かないはずだけど。
「一ヶ月前から話題になってましたよね?この国に新しい勇者が現れたって」
「あぁ、神殿から神託があったって発表されたそうですね」
異世界からやってきたとかそんなことまで知らされている。完全に僕のことだな。
最も召喚されたのか他の原因でやってきたのかまではわかっていないみたいだけど。
「あ、ひょっとして僕がこの街に来たのも一ヶ月前だからですか?」
「えぇ正解です。まぁ一番の理由は勘なんですけどね」
「勘?」
「私結構鋭いんです」
女の勘とかかな?
「でもそれだけじゃないですよね?」
「といいますと?」
「神託の内容はあくまでこの国に勇者が現れたというものであってどこの街に現れたかはわかっていません。勘が鋭いにしてもそれだけの情報じゃ確証に至るのは難しいと思うんです。何かこの街に新しい勇者がいるという確信でもあったんじゃないですか?」
彼女は迷ったようにほんの少しの間口をつぐみ_
「誰にも言わないと約束していただけませんか?」
「えぇ、もちろん」
_やがて意を決したかのように左側の袖を大きくずらした。
そこには銀色の腕輪があった。
それを外した数秒後、ノルンさんの頭から二本の漆黒の角が生えだした。
「魔人?」
「えぇ、正解です」
すぐに腕輪をはめなおし、角を消しながら答えた。
「私は人族ではなく、魔人族です。そして私の本名は_」
「_ノルン=ウルヴェルス=グリングルド。グリングルド領の魔王ギレン=イバルブルク=グリングルドの孫娘です」
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