第43話 回答
翌朝になった。
目を擦りつつ目を覚まし、宿の朝食の時間だ。ちょっと早く起きたせいか、同じ部屋のメンバーはまだ眠り足りなそうだった。寂しいけどとりあえず一人で廊下へ出る。
……皆森は無事に眠れただろうか?
昨日は好き放題に変なことを言ってしまった。あれはたぶん、リープ前の俺では言わないようなことだった。一度、社会人にまで虚無な日々を送ってしまった俺だから、諦めそうな皆森にごちゃごちゃ説教じみたことを……。
「あ。榎並くんだ。おはよ」
「お、おお、おはよう」
そんなことを考えていたら、廊下でちょうど皆森と出くわした。
昨日皆森にいろいろ言って、別々に帰ってそれきりである。
……俺は変な奴だと思われてはいないだろうか。
と思っていたら皆森が頭を下げてきた。
「昨日はどうも、助かりました」
「……ん?」
「なに? あんなに良いこと言ってくれたのに覚えてないの?」
皆森が腕を組んでちょっと不満げに首を傾げる。昨日の発言は良いことに分類されていいんだろうか。いや、皆森がそう言ってくれるなら甘えよう。
「……いや覚えてる。……役に立ったなら何より」
「なんで榎並くんが自信なさそうなの。こっちはけっこう楽になったんだから自信持ってよ」
呆れたように笑われる。普段通りの表情だ。ということはちゃんと眠れたんだろうか。
「昨日はちゃんと寝れたのか?」
「お父さんみたいなこと言うね」
「いやだって寝顔見られたくないとか言ってただろ」
前にRINEした時は、寝てる時の心配をしてたような気がする。真の姿が暴かれるとかなんとか。
「ちゃんと寝たよ。日奈ちゃんが早めに眠たそうな顔になってたから、みんなですぐもう寝よっかってなったし」
うとうとする夜宮を想像する。たしかに前に泊まった時も夜宮はふわふわしていたな。あんまり夜更かしをするタイプではなさそうだ。
「まあ……後は榎並くんの言ってたこと考えてたらいつの間にか寝てたかな」
「……なんかごめんほんと。変なこと言って」
「だから変じゃないってば」
また笑われてしまった。
皆森の前だと、なんとなく自分を卑下したい心持ちになることがある。皆森はアイドルとして努力を重ねているのだ。俺のリープ前は虚無な日々を過ごしていた。それでなんとなく差を感じてしまうのだと思う。
……皆森に説教してる場合じゃないな。俺も自分を変えなければ。
「じゃあ、そろそろ朝ご飯食べに行こっかな。日奈ちゃんとか皆連れてくる。榎並くんは一人?」
「部屋の奴みんなまだ寝てるからな……」
「私たちと食べる?」
「……女子がいっぱいいるのは気まずい」
「今更だなぁ」
まあ夜宮とか皆森とかとは一緒にいるけど。でもやめておこう。
皆森は手を振って去っていく。……と思ったら「あ」と振り返ってきた。
「宿題、忘れないでね。私はひとまず、校外学習はクリアできそうだよ」
歯を見せて微笑みまた去っていった。そういえばこの校外学習中に宿題があったのだった。
皆森は吐いたりとかせず無事に校外学習を終えることだった。
俺は『俺自身のやりたいことを見つけること』。
でもなんとなく、その答えの形は描けている。
(自分を変えなければ)
さっきも思った事だ。リープ前の俺は虚無だった。そんな自分のことはあまり好きでは無かった。
今はどうか?
なんとなく前よりはマシだ。なぜかと言えば、夜宮がいるから。夜宮のために動いている時は、大変であっても充足感を覚える。そして今は皆森のためにも動こうとしている。
そういう――誰かのために動く自分には、あまり卑下しないでいられる。
(……俺の行動が誰かの助けになれたらいい)
献身である。でも無意味にすべて言われるがままに施しを授けるというのは違うと思う。塩梅はこれからゆっくり見つけていこう。
「あれ柊介。立ち止まって何してるの?」
などと考えていたら後ろから綾人に声をかけられた。部屋の皆も起きてきたようで、眠たそうな鬼崎君もいる。皆森と別れてから、だいぶ考えこんでしまっていたらしい。
「先行くって言ってたのに」
「……朝日を浴びてた」
「植物?」
じゃあ一緒に行こうよと言われて男子勢とぞろぞろ朝食へと向かった。
後は帰ったら校外学習は終わりである。
残ってるイベントは……皆森のライブくらいだ。
襲われる事なく、無事に成功させなければならない。
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