第20話 没落令嬢の除草作業(1)
「すみません、リュリお嬢様。重くないですか?」
「全然。この倍は持てるわよ」
ある晴れた日。アレスマイヤー家の主従は市場へ買い物に出かけていた。
二人が両手に抱えている戦利品は、動きやすい外出着と食料品。コウは衣類も食事も要らないので荷物は全てリュリディア用だ。だから彼女は自分が持って当然だと思っているのだが、律儀な従者は恐縮しっぱなしだ。
普段は買い出しにはコウ一人で行くのだが、今日はリュリディアもついてきた。理由は簡単、他にやることがなかったからだ。
「近場の日雇いバイトにも、求人酒場のクエスト依頼票にも、いい仕事がなかったわね」
スケジュールの埋まらない現状に、ため息が出る。
「収入はないのにご飯は食べなきゃならないし、家賃も税金も払わなきゃならないんだから、生きてるだけで重労働よね」
「ケーレブ様が『人生山あり谷あり』だって言ってましたよ。『谷底に着いたら、あとは登るだけ』だと」
「お父様らしいわ。私はまだ底が見えず落ちている最中だけど」
クスクスと笑いながら、荷物を抱え直す。名前を聞いたら、少し父と母が恋しくなった。両親の消息は未だ不明のまま。兄も政府とは違う方面から捜索しているようだが……。
「久しぶりに、マルセリウス兄様に会いに行こうかしら?」
「それがいいです。きっとお喜びになりますよ」
「じゃあ、帝都のお土産でも……」
嬉しい遠出に思いを馳せていたリュリディアは、ふと、通りの向こうに人だかりが出来ていることに気づいた。
「何かしら?」
ぴょんぴょん飛び上がっても人垣の頭を越えられない令嬢の隣で、背の高い従者がつま先立ちになって奥を覗き込む。
視線の先には古ぼけた民家があり、敷地を囲むように規制線(といってもただの荒縄)が張られている。そして民家の手前では数人の憲兵と文官がなにやら話し込んでいた。その中の一人、銀縁眼鏡に詰襟ローブの青年に、コウは見覚えがあった。
「ミースター、やっぱり魔法士隊は出払っていて明日までこっちに来れないって。俺達は一度引き上げようぜ」
「明日までこのまま放っておけと? 冗談じゃない。民間業者に委託しましょう。このケースなら予算が下りるはずです」
「えー。魔法士隊って自分達の仕事に
「しかし、現状市民に危機が迫っているのですよ。せめて近隣五区間に避難勧告を……」
言いながら眼鏡の青年は顔を上げ……、人垣の中の頭一つ背の高い執事服と目が合った。彼は僅かに逡巡してから、心を決めてコウに手招きした。
アレスマイヤー家の従者が人垣を掻き分け彼の前まで来ると、
「何の用よ? カクトス・ミースター!」
当然のように主人も一緒に現れた。
「あ、リュリディアさんもいたんですか」
たった今気づいたように言うが、コウがいるならリュリディアも近くにいるであろうことは想定内だ。むしろ、カクトスの狙いはそこだった。
「いたらいけないわけ?」
「別に。純然たる感想です」
不機嫌そうに眉根を寄せるリュリディアに、カクトスはしれっと返す。
「で、この騒ぎは何?」
「それがあなた方を呼んだ理由です」
令嬢の質問に答えず、役人は涼しい顔で微笑んだ。
「時にリュリディアさん、コウさん。
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