(二)-19

「豊島」

 高野はそう言った。

 園子は「うん」と返事をした。富士山から目を離さずに。

 高野は「あのさ」と続けた。

 園子は相変わらず富士山から目を離さずに「なあに」と返事した。

 次の瞬間、園子はあごを高野に掴まれた。急なことでびっくりして、高野の方を見た。彼の顔が目の前に迫っていた。

「好きだ」

 高野はそう言うと、さらに顔を近づけてきた。園子はとっさに顔を横に振ろうとしたが、彼にあごを掴まれていて逃げられなかった。そして園子の唇に彼の唇を重ねてきた。

 柔らかい感触が園子の唇の上に触れた。

 たった一瞬の出来事だった。彼はすぐに顔を離してくれた。でも急なことだった。

 そういうことがまさかそのとき起きるとは思わなかったので、園子はとても驚いた。驚きのあまり、目から涙が落ちてきた。

 それを見た高野は「ごめん」と何度も謝ってくれた。園子は許さないわけではなかった。でも驚きの涙は全く止まらなかった。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る