第4話 ゴブータ
勇者は却下した。
「竜王の使い方もアレな頭じゃ無理だろ」
「けど、追いかける乗り物ないもん」
「何でうれしそうなんだ」
その時、婆さんがリアカーを持ち出した。
灰色の森へ配達があるという。
マーキスはピッキュに笑みを向けた。
時速300キロで駆ける婆さん。
興奮するマーキスに、ピッキュが問う。
「うまくいくとは限らん。やめるなら今だぞ」
「ボロ負けだったけど、もう挑んじまったんだ。今さらあの森でくすぶってるより、当たって砕けたほうがいいさ」
「……わかった。ボクも最後までつき合おう。お前が砕けても、最期まで頑張ったと、神様にはお伝えしてやる」
「……てことは、最期まではつき合わないんだな?」
帰還したゴブータは、キキを部屋に入れると、
「すぐに迎えにくる。そしたら結婚しよう」
といい残し、さっそうと出てったが、すぐにやってきたのは、例の鬼族の娘たちだった。
運んできたゴミ箱の中身を、床に座っていたキキ目がけてぶちまけると、
「あ、ごめんね、手が滑っちゃった」
「捨てといて。ネイル欠けたらヤだから」
「ここまでは運んであげたんだもん。いいよね?」
「あたしたち、プレジデントのとこに行かなきゃならないの」
「あんたの親父が負けたせいで、言い成りなのよ。わかる?」
見下されたまま、無言で耐えるキキ。
すると、ただ見守っていた、最も背の高い妖艶な娘が柳眉を逆立て、
「何とかいいなさいよ! ……何よ、その目は?」
が、キキの目は反抗的でなく、驚いた様子である。
それが自分の背後に向けられているのに気づき、振り返ると、そこに幼児の尻が浮かんでいた。
尻は迫り、妖艶な娘の高い鼻を包みこむ。
「あふん」
「いやああああ! 生あたたかいっ!」
妖艶な娘が走り去ると、他の娘も慌てて追った。
ピッキュを下ろし、マーキスはキキの前に片膝をつく。
「よかった、無事で……その、思ったよりは」
「どうして……」
「俺は勇者様だぜ」
部屋に穴があいてから、風が吹きこむたび、プレジデントは苦痛を訴え、機嫌が悪かった。
側近の中年ゴブリン、大臣格のオークやほかのモンスターたち、さらに呼び出された半裸の鬼娘たちも、ただ遠巻きにおののいている。
そこへ、若いゴブリンやオーク、鬼男に森の精まで従えて、ゴブータが乗りこんできた。
「プレジデント。今からお前を倒す」
「……え、何で?」
「お前はこれまでに征服欲から数々の国を滅ぼし、この聖地に町を立てて汚し、他者を勝手に支配し、気に入らぬ者は粛清し、多くの若い女を劣情のはけ口にした」
「……異世界ってそういうことするとこでしょ?」
「そういうことするとこなんてあるか! ゆえに、無気力な老害どもに成り代わり、僕が貴様を成敗する。この聖なる水で」
ゴブータが小瓶を取り出す。
「何、それ?」
「貴様の弱点だ」
「え、オレ、弱点あんの?」
「神が勇者に与えし聖水よ。悪しき怪物を倒す力を、僕に!」
ゴブータは、小瓶の中身を一気に飲み干した。
「……ギィィィエエエエエエエエッ!」
途端、所狭しとのたうち回る。
ゴブータの仲間たちに動揺が走った。
「やはり、神の力は大きすぎたか?」
かくなる上はと、各々武器を手に挑みかかるが、プレジデントは慌てず一飲みに片づけた。
すると、見守っていたオークらがパニックを起こした。飲まれたのは、彼らの身内、あるいは後輩だったのだ。
「何故そのようなむごいことを」
「え、オレ、被害者だよね? 何も悪くないのに、いきなり成敗されかけたんですけど」
プレジデントは鬼娘らに視線を移し、
「悪くないよね? 皆も、オレと毎日風呂入ったり、添い寝するの、好きでしょ?」
「は、はい」
「皆にとって信じられない力を使えるオレに、驚きながらも惚れちゃうし、ラッキースケベ的に着替え見られたり体触られたりするの、なんだかんだで嬉しいでしょ?」
自分の言葉を裏づけようといくつもの手を伸ばす。
が、鬼娘たちは「ヒイッ」とつい身構えた。
「ヒイ?」
プレジデントの手が止まり、重苦しい雰囲気が漂う。
すると、妖艶な鬼娘が、それまでしきりに顔をぬぐっていたハンカチを床にたたきつけ、
「もう、うんざり。そうだよ、ヒイだよ。テメエのどこに惚れるとこあんだよ。ラッキースケベ? 何だそれ、フツーに気持ち悪いわ。テメーのいう信じられない力ってのにビビッて従ってるに決まってんだろ。飲まれちゃたまんねえからな。いちいち童貞臭えんだよ、水ブタ。やってられっか。ガキの尻、顔に当てられるしよう」
周囲の制止を歯牙にもかけず、暴言は続いた。
中年ゴブリンは独り、プレジデントにすり寄り、
「私は感謝しております。おかげで、嫌われ者のザコが、女に不足のない地位を……」
「もういい……思ってた異世界と違う!」
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