第8話 最終話 祭囃子
その後、刑事から聞いた病院に電話を入れた。幸い命は取り留めたらしい。いずれ目覚めたら、これからどうするか自分で決めなければならない。しかし家族を捨てた父に今更手を差し伸べる事は出来ない。互いに別の道を歩むことになるだろう。
それにしても女が生きていると言ってくれれば良い物を、恨みたくもなるが刺されて入院していたのでは無理か。六年ぶりの再会だった。ただ一つ言える事は、あの女が殴り掛かって来たら、その女を逆に殴った父。俺の娘に何をするだと言いたかっただろうか。まだ私を娘と思っていだだけで満たされた。許した訳ではないが恨みは消えた。
ともあれ翔子は犯罪者にならなかった。あとは会社だ。有給休暇を使い果たし無断欠勤しては、もしや解雇はまぬがれない。ともあれ会社に電話しなくてはいけない。その場で首を言い渡させるかも知れないが。翔子は電話を入れ詫びた。ところが予想外の返事が返って来た。素直に謝罪する気持ちがあるなら出張という事にしてやろう。ついでだから盛岡支社に寄って今回新しく提携する会社と話は進んでいる。盛岡支社の部長と一緒に行って話を纏めて来いということだ。総務課の課長が三日待つという期限の最終日に間に合ったようだ。周りは解雇するには惜しい人材だと言われたのが考慮されたようだ。
解雇されるどころか重要な仕事を任された。しかも支社とはいえ部長のサポートする役目だ。家の隅で電話していた翔子を母と陽子は見ていた。急に明るい顔になり電話口でペコペコと頭を下げている姿はキャリアウーマンそのものだった。
「翔子どうしたの? 嬉しそうにして良い事でもあったの」
「それが会社を首になると思っていたら新しい仕事を言い渡された。どうやら首が繋がったようだわ」
「そうそれは良かった。せっかく大きな会社に入ったのに心配していたけど、翔子は会社に必要とされている証拠よ。良かったわね」
「お姉ちゃん盛岡支社とか言っていたけど、盛岡に行くの、丁度いいんじゃない。明日まで、盛岡さんさ踊りをやっているわよ」
「えっまだお祭りがあるの。陽子、仕事に行くのよ。お祭り気分に浸っていては貴女こそ首になるわよ」
「何よ、私は必要とされている優良社員よ。東北はお祭りが多いの。次は一緒に行こうよ。それとご馳走してよね。心配かけた罰よ」
「分かったわよ。約束する」
そう言うと皆で笑った。久しぶりに心の底から笑うことが出来た。
翌日、盛岡に向かった。陽子の言う通り盛岡はお祭り一色だった。駅を降りるなり祭囃子の太鼓の音が重低音で響き渡る。たしかにお祭りを見に来た訳ではないが、やはり祭囃子は心を躍らせる。母と妹と一緒にお祭りを見るのが楽しみだ。
了
祭囃子 西山鷹志 @xacu1822
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