第6話 翔子は実家に帰り逃避行の理由を告げた。
今の翔子には旅行を楽しむ気分じゃないから丁度良いのかも知れない。もう夕方だ。取り敢えず街に出て食事をする事にした。でも気持ちが落ち着かず食欲が湧かない、しかし昼も食べないし何かを食べないといけない。ご飯物ではなくラーメンを注文した。果たして食べられるのかと心配したが予想以上に美味しく、流石は本場の味だと思った。小さな店の二人座り用のテーブル、食べ終わってまたスマートフォンの電源を入れた。今度は妹からメールが入っている。
『お姉ちゃん酷いじゃない急に出て行くなんて、それはいいとしてもさっき警察の人が来たわよ。今何処にいるのか聞きたい事があるって? いったい何があったのよ。電話の電源は切れているし心配しているから、すぐに連絡してよ』
それを読んだ翔子は、もはや逃げ通し事が出来ないと悟った。もし逃げても母と妹に迷惑をかける。ただ指名手配されている訳ではなさそうだ。それなら自首する事もない。今夜は函館に泊まって明日、実家に帰ろうと決めた。それにしてもなんで北海道まで来てしまったのだろうか、心にやましい事はない。あれは突発的な事故だ。そもそもあの女が逆上して刃物を振り回す父に切り掛ったのが発端だ。あっちが殺人未遂じゃないか。そうだ自分にも言い分がある警察でハッキリさせようと決意を固めた。
翔子は妹にメールを打った。きっと心配している。もはや父のとの出来事を隠しことは出来ない。出来るなら、あんな父は忘れて、もう父は見つけることが無理だから忘れようと言いたかった。どうせ六年もの間、父の居ない生活を続けて来た。父が居なくても幸せならそれでいいと思った。しかし警察が絡むと隠し通せる事は出来ない。
『ごめん陽子、心配掛けて明日の朝帰るから、事情はその時に話します』
翌朝、翔子はビジネスホテルをチェックアウトして函館駅に着くと函館北斗駅から新幹線に乗り盛岡に到着した。そのまま電車とバスを乗り継いで実家に戻って来た。もう祭囃子の太鼓や笛は聞こえて来ない。昨日の夜で終わったようだ。家に帰ると母と陽子が待っていた。
「お帰りお姉ちゃん、早速だけど一体何があったの?」
「ごめんなさい。色々とあったの。実は父と会ったの」
すると母が驚いた顔をして聞いて来た。
「えっ父さん、生きていたの」
「母さん、生きてはいたけど忘れた方がいいよ。悪い事は言わない」
「……そういう事か。やっぱり女が居たのね。だいだい予想はしていけど私は裏切られたのか……そうか。そうなんだ」
翔子はこれまでの出来事を隠さずありのまま話した。
その表情は沈んでいた。なんて慰めれば良いのか言葉が見つからないようだ。
「馬鹿な父さん、そんな女に引っ掛かって、仕舞にはお姉ちゃんまで事件に巻き込むなんて。それで警察が来たの? それにしてはお姉ちゃんが容疑者だなんて言ってなかったわ。家族だから遠慮して容疑者と言わなかったたげなのかなぁ」
「いいの、私もハッキリさせたいわ、それでも逮捕されるなら仕方ないし」
すると母が「馬鹿言わないで、貴方が悪い訳じゃない。刃物を振り回した女が悪いのよ」
「母さんや陽子の気持ちは嬉しい。でももう逃げたくないの、今から警察を呼んで私を探していると聞きました。いま家に帰って聞きましたと伝える」
翔子は実家の電話を取って警察に電話を入れた。母も妹も仕方がないと納得してくれた。
つづく
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