縋る。
夕夏は夫に気持ち良くなって貰おうと夜に誘った。
いや、自分自身が思い出したいのだ。
いや、田畑が怖いのだ。
いや、それはどちらも正解なのだ。
田畑から送られた淫らな下着は怖くなって捨てた。純白の色と意味に縋るようにして清楚と可愛らしさで着飾った。
それを身につけて、徐々にボルテージをあげるように迫るつもりだった。
精神的にいろいろと限界だったのもあった。
夫は戸惑った顔をしながらも、夕夏の必死な態度に流された。
発見から今日まで、夕夏が誘っても一度たりとも答えてくれなかったのだ。
結婚式の映像が効いたのかもしれない。
久しぶりに見た夫の身体は、裸は、夕夏には新鮮に映った。
田畑より遥に若いのだ。
ごくりと喉を鳴らしたのは、果たしてどちらなのか。
「ど、どうかしたかい?」
「い、いえ…何でも…」
夕夏は恥ずかしがり屋で男性の身体などまじまじと見たことがなかった。
行為での室内の灯りも月明かりのみだった。
だが、田畑によってそれは無くなった。
無くなったからこそ、無意識のうちに夫の裸体を舐めるように観察していた自分にショックを受けた。
だからか、それを振り払うようにして、今夜は初夜だと勝手に想像し、夫と初めての夜を思い出すことにした。
と言っても、夫は夕夏とは認識の上でも初めて同士なのだ。
お互いでお互いを気遣いながら進めた一夜を知らないのだ。
ならばあの時、必死に頑張ってくれた夫のように主導権を握り、奉仕しようと夕夏は思った。
「あなた…こ、今夜は…私に任せてください」
正確には今夜もだが、記憶がないのを良いことに、夕夏はそういう言い方をした。
それに、田畑と関係を持っていた時は、どれだけ求められても夫からはさせなかったのだ。
罪悪感から触れられたくなかったし、触られたくないのもあったが、一番は田畑より満たされなければどうしようと過ったことだった。
「…ああ、わかったよ、夕夏さん。至らないことがあったら、その…ごめん」
夫の表情からは、初めて及んだ時のような表情が見てとれた。
その記憶に心と胎の奥が締め付けられる。
二人の間に深い谷があるのはわかっている。
この温度差は無視出来ない。
でもこの昂る気持ちはいったい…
「夕夏さん…?」
「あ、ああ…いえ、ごめんなさい。わたしも緊張してるみたいです…」
付き合い出した頃の初々しいようなさん付けをされたことが、気分を昂ぶらせていたと気づいた。そんな夕夏だったが、その気持ちを笑顔で無理矢理押さえつけた。
「ふふ。おかしいですよね。夫婦なのに。ん…」
田畑に仕込まれた下品な行為が表に出ないように気をつけよう。
さっき見た結婚式の動画を思い出し、啄むような優しい口付けを交わそう。
夫の口に首に身体に優しく丁寧にキスを落としていく。
それはあの初めての日の繰り返し。
どうか思い出して。
どうか思い出さないで。
夕夏は愛を込めてキスを落としていく。
夫が愛を感じると言ってくれた夫婦の動作を、愛の構えを、取り戻すかのようにして繰り返す。
田畑に上書きされた快感を自身で上書きするかのようにして繰り返す。
時間を巻き戻すかのようにして繰り返す。
「…?」
けれど、夫は困惑するばかりで、いつまで経っても返してくれなかった。記憶がないのだから仕方ないが、何よりショックなのは、夫の身体が無反応だったのだ。
気が滅入りそうだった。
浮気の事実はなく、リモートを見せつけたことが頭を過ぎる。もしかしたら記憶はなくとも深層心理にある嫌悪感が勝ってるのかもしれない。
だからなりふり構わず方針を変えた。
夕夏は田畑に教えられ、身につけた知識を元に、あくまで優しく愛しくと丁寧にしつこくネットリと的確に愛撫をすると、元気を取り戻していった。
愕然としてしまうが、喜びの方が遥かに勝っていた。
だけど夫はすでに寝ていた。
「そんな……」
もしかしたら、今日で最後かも知れないのに。
田畑は決定的なナイフを持っている。
今、記憶のない夫にあの動画を見せられたなら夫婦生活は終わりを迎えるだろう。
それが怖くてたまらない。
その前になんとしても二人の絆が欲しかった。
何としてもあの頃を思い出して欲しかった。
夕夏は夫の胸にしがみ付きながら、静かに縋るようにして、泣きながら腰を浮かせた。
「あなた…ごめんなさい」
夫のそれが萎えるまで、夕夏は下品な声を噛み殺しながら必死に腰だけを揺らした。
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