18
週末は
午前中は
生活に張りが出るし、お客さんの笑顔はやる気に直結する。
休日の私服は、姉が入学祝にくれたものだ。
白シャツに黒ベスト、黒いズボンは清潔感があり、接客業にぴったりだ。
時刻は8時を過ぎたところ。休日の朝は、なぜか空気がのんびりしている。
たかい空は青く、風はおだやかであたたかい。
明日も晴れそうだ、という希望と、ついに
ほんとうに優勝にとどくのか。優勝以外、S評価の保証はない。S評価をとれなければ退学――。
くらい思考に、ロイはあわてて首をふる。
未来の心配など、するだけムダだ。どうせなら、楽しいことを考えよう。
今日は貸し出していたシブレットが帰ってくる。いつもよりたくさんブラシをかけてやろう。きっと目を細めて喜ぶはずだ。
「こんなところで、何をしているの」
ふりむくと、黒髪の少女がこちらに歩いてくるところだった。
けわしい表情に、いやな予感しかしない。
大会の前日に、どういうつもりだ。
「……何の用だ、オニール」
「
教会を指差し、オニールは肩をいからせる。
三角屋根のりっぱな建物は、この世界をつくったテュール神を
そんなことより、労働のほうがはるかに
「ミサにはいかない。放っておいてくれ」
「見過ごせるはずないじゃない」
ロイはオニールを見やる。
手入れされたうつくしい黒髪に、ほつれのない制服。
お金に
金がある人間にはわからない。
わかってほしいとも思わない。
だから必要以上にかかわってくるな。
オニールのうしろから、アンジェリカがてとてとと歩いてくる。
いくぶん困り顔の彼女に、ロイは片頬をあげる。
「おともだちが待っているぞ。さっさと行けよ」
「
引かないオニールに、ロイは
怒りだ。
相手を傷つけてやるという強い意志で、ゆっくりと口をひらく。
「嫌がる人間に
オニールの顔色が変わった。
目をみひらき、唇をふるわせる。
「唯一の
「俺は疑問を口にしただけだ。まさかそれだけで、神の
オニールは顔をふせる。
ロイは仄暗い
上位に居座る人間を、屈服させた優越感――。
オニールは、キッと顔をあげる。
「あなたって……ほんとうに最低ね」
制服をひるがえし、オニールは走り去る。
その背中を、アンジェリカがあわてて追う。
たちつくすロイは、馬のいななきに、乗合馬車の到着を知る。
いつもどおり100Ðコインを支払い、客車に乗りこみ、両手で顔をおおった。
「……泣くのはずるい」
「それはロイがわるい」
「女の子を泣かすなんて、サイテー」
「男の風上にもおけんなぁ」
テーブルに大盛カラアゲを運んだロイは、不服そうに口をとがらせる。
「皆、たのしんでるでしょ」
昼過ぎから
ジェラートは胸の谷間を強調する服で、ミニトマトをつまんでほほえむ。
「ロイの恋バナが、聞けると思わなかったな~」
「恋じゃない!」
「かわいいんでしょ?」
「はあ!?」
目をひんむくロイに、ラぺはキュウリをかじりながら笑う。
「どないな子なん」
「うーん……なんか強情で、思い込みが激しい。俺の話をはなから聞く気がない。話し合いとか、無理だよ」
「話し合おうとはしたんか」
「……チームメイトに言われて、しぶしぶ」
コークスは、カラアゲにレモンをしぼりながら
「ロイ。チームメイトに迷惑をかけている自覚はあるのか?」
「俺!? だって、あっちがぜんぜん譲歩しないんだぜ!」
ロイの言葉に、三人はいっせいにためいきをつく。
「なに? やっぱり俺が悪いっていうの?」
「せやなくて」
「ねぇ」
「がっかりだ」
いぶかしげなロイに、ラぺはびしりとキュウリを向ける。
「『国民に有益な役人になる』ゆうのは、そないな軽い決意やったんか」
意味がわからず、ロイはまたたく。
焼うどんを運んできたローズマリーは、
「さぼらない」
「す、すみません」
ちょうど客が入店し、ロイは案内にむかう。
ラぺに
風呂あがり、ロイは
明日にそなえて寝ようするが、ラぺの言葉が頭から離れない。
「軽い決意って……俺は人生を
でもたぶん、そういうことじゃない。
「なんだっけ……コークスが、迷惑をかけている自覚があるか、って聞いてきて」
でもそれはオニールが必要以上につっかかってくるからだ。
「俺はケンカ売ってねぇし」
むこうが売るから買うわけで。
「……あれぐらいで、泣くなよ」
紺碧の瞳を思い出し、ロイはじたばたと転がる。
いっこうにおとずれない眠気に、あきらめてからだを起こす。
勝敗を
ロイは袋をあけ、うつくしいタイルをボードにならべていく。
「攻めと守り。効率と効果」
相手の邪魔をしにいくのか、相手の戦力を減らすために行動するのか、自分の戦力を高めることに集中するのか。
戦略のかずだけ
シュミレーションをくりかえすしかない。
ありとあらゆる状況を想像し、最適な戦略をみちびきだす。
そのうえで、
シンドラを、四対四の
しずかな夜、ロイは脳みそを限界まで
そうして、
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