23-4 ~ 14万倍 ~


 14万倍。

 要するに我が海上都市『クリオネ』が求めている移住者募集に対し、その14万倍の女性たちが応募してきている、ということである。

 転売連中が挙って寄り集まったアイドルのライブチケットなんかよりも遥かに凄まじい倍率で、もう正直意味が分からない。


 ──ってか、何なんだこの倍率。


 そのあり得ない数字を前に一度首を傾げた俺は、BQCO脳内量子通信器官を用いてこの数字がどういう計算で算出されたのかを確認してみる。

 まず、本日の移民可能枠が125名。

 現在の海上都市『クリオネ』は人口5,000人で現在拡張中なのだから、全体の比率としては2.5%でしかなく、専門的な知識がないので断言は出来ないものの、そうおかしな数字ではない、ような気がする。

 我が都市で平均的な居住区である2階建てのアパートが1軒で大体5~8人……面倒なので6人と仮定すると、凡そ21棟ものアパートがたった一日で建てられた計算だ。

 尤もこれは、21世紀に置き換えると凄まじく感じられるものの……ビルですら一晩で建ててしまうこの未来社会の科学力を考えると、そこまでおかしい数値ではない。

 と言うか、BQCO脳内量子通信器官を用いて空から見てみると、道路や水道の配管、基礎から建物本体、建物内の電気水道の配管類と……今ざっと数えるだけで100を超える建物が現在進行形で建てられているのが分かり、この数字に対しての疑問は消え失せる訳だが。


 ──加えて、先の騒ぎによる転出者が4%強……220人ほどか。


 正確には、『クリオネ』にいた女性2,000人の1%強だから22人、『ペスルーナ』3,000人の6%強だから150人で、219人という計算になる。

 それに先ほどの125名を足して344名分の枠が空いている、と。


 ──で、移住希望者は……


 それに対し、移住希望者の延べ人数は49,276,812……あくまでも延べ人数であり、1人が何度も応募してきている可能性があるので、正確な人数にしてみると現在よりは遥かに少ない数に落ち着くだろうが、それでも4,900万人である。


「いや、おかしいだろ?

 地球連邦圏の人口の5%じゃねぇか」


 繰り返すがあくまでも延べ人数であり、重複を除いた実応募者数はそこまでの人数ではない、筈なのだが……それでも人口の5%はあり得ない。

 俺の感覚……要するに21世紀日本人の感覚に合わせると、人口500人しかいない新興の村への移住に対し、日本人口の5%である500万人が応募してきたようなものである。

 何か色々と違う気もするが、比率的には凡そ1/10になっていて、感覚的に分かりやすいだろう。


 ──気が狂ったように応募して来ているヤツがいるな、これ……


 ふと気が向いた俺が、BQCO脳内量子通信器官を用いて少々テクニカルな検索を実施してみると、一番応募回数が多かった移民希望者は、海中都市『スペーメ』に住む女性で年齢が53歳、応募回数は16,721回……もうボットか何かじゃないかと疑いたくなるレベルの暴挙である。

 

「……病めば、こうなる、のか?」


 20世紀だか21世紀だかのフィクションで、病んだ少女が男に向けて何度も何度も何度も何度も無言電話ををかけたり病んだ内容のメールを送ったり、等というのを見た記憶があるが……もしかしたらソレは実際の事件だったかもしれないが、そんなフィクションとしか思えない、いや、フィクションだと信じていたかった行動をリアルでやらかす女性の存在が明らかになってしまった。

 とは言え、この未来社会においては資産家もしくは才能のある人以外では、子供を持つためには「都市に認められる」必要がある。

 特に……俺が唯一名前を知っている海中都市『スペーメ』のように、市長の高齢化に伴い、提供される精子量が減少してしまっている場合には、特段目に留まる何かがなければ、妊娠どころか精子を手に入れることも叶わないのだろう。

 そう考えると……大量の精子を持て余している俺が優良物件である事実は消えず、応募者が殺到する理由も分からなくはない。


 ──サトミさんが恋人ラーヴェを作れって言った理由が、コレか。


 この未来社会において、女性への精子の提供方法は非常に悲しくなるほどであり……ぶっちゃけ個人的に好きだったエロ漫画や美少女ゲームのような桃色展開はほぼないに等しい。

 ただし、受け渡し方が出来ない訳ではない。

 少々猟奇的になるので思い出したくはないのだが、都市『マダフィ』を検索した時に得た知識ではあるが、彼は女性を惨殺し犯すことを残んで行っており、彼の精子提供はその犠牲になった死体から採取されたモノだったのだ。

 そして、死体からの採取が可能なように、生きている女性からも精子の採取は可能であり……恋人ラーヴェというが、都市の特権階級として扱われる理由が、まさにソレ、である。

 彼女たちは市長の愛人でありながらも、市民への精子提供を早める存在であり、だからこそ彼女たちは特権階級を維持できるのである。


 ──しっかしなぁ。


 21世紀の価値観からしてみると、提供する側もされる側も「もうちょい何とかならないのか?」と言いたくなるシステムである。

 一度は自分の身体の中に入れた……詳しく述べる気はないものの、それを他者に提供する恋人ラーヴェと。

 そうして他者に放たれ、回収された精子を利用して妊娠しようとする市民たちと……この件に関しては調べれば調べるほど俺の価値観が崩壊していくようで怖い。

 かと言って、機械式に提供される精子も……いや、21世紀でも人工授精ってそういうことなのだろうけれど。


 ──絵面を想像するとなぁ。


 色々と奇妙な図が頭の中に浮かんで来たので、俺はそれ以上この件について考えるのを放棄した。

 取りあえず俺としては連邦政府からの目を欺くため、精子をただばら撒く精子作成能力強者となるのではなく、女性に次々手を出す性豪のをしなければならないのだ。


 ──ん?


 そんな俺の思考を読み取ったのか、俺の眼前に突如として仮想モニタが展開されたかと思うと、トリー・ヒヨ・タマの三姉妹が相変わらず自宅の仮想障壁に座り込んでいる姿を、ローアングルで映し出してくれる。

 相変わらず意味があるかないか分からないレベルのミニスカートをローアングルから見上げる所為で、その中身が丸見えな訳であり、本当にこのBQCO脳内量子通信器官というシステムは男性が使用する場合、性欲を最優先に設定されているのではないだろうか。


「……まぁ、手を出すにしても、まず正妻ウィーフェが先、か」


 俺は眼前に展開されている所為ですさまじく至近距離で見える3少女のローアングルを眺めながら、静かにそう呟く。

 一応、この未来社会にも離婚は存在しており……実行するのはほぼ男性側だけとなっているものの、遺伝子手術痕なんて特級の厄ネタ抱えている身としては、難しい都市運営を迫られている現状においてまず足元から固めるのが大事だと思うのだ。

 大昔の籠城戦でも、基本的に場内からの裏切りや脱走兵で敗北する案件が多かったと記憶にある……城を攻めるのは下策、心を攻めるのが上策だったか、そんな言葉も記憶の片隅に残っている。

 だから、まずは最重要人物から固めるべき、なのだろう。


「思い立ったが、吉、か」


 俺は静かにそう呟くと、相変わらず仕事ばかりしているに違いない我が正妻ウィーフェの部屋へと足を運んだのだった。


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