第6話 生霊が導く犯人

 記者C)探偵の賽河さんが出した犯人の《生霊》は、その場にいるどんなパチカスも目に出来たらしいですよね。SNSやネットで撮影した方々に取材しましたが、


 全員が「はい」でした。


 映らなかったが、確かに在った《生霊》の後ろから賽河さんと警官や殺人課の刑事。さらには遊戯していた客たちもブレーメンのように、大きなカブの野次馬みたいに歩いて行った。ですね? 五十嵐さん。何か違うのでたら訂正をお願い出来ますか?


「いいえ。何も訂正することはありません」



 ◆



 賽河が出した《生霊》が歩き出し、ゆっくりと進んだ。


 辺りは騒然と興奮。恐怖に慄いた客たちは、顔面蒼白と魅入っていた。感情を顔に出さない賽河は、鐘を鳴らし続け一緒に歩き出す。


 音はパチンコ店内部の騒音で搔き消されているのだが鼓膜に響くという不可解な状況だった。


 現象は、その場にいる全員に起こっていた。根岸も飄々とした表情で、岸辺も笑顔で後に続いた。


 毒殺事件の顛末に興味沸いたといった、意を決したかのような客たちも、固唾を飲んだ表情をしてついて行く。


 横目で岸辺もため息を吐くと、立ち止まり身体を翻ると客たちに告げた。



「スマホで撮影してる奴。《生霊コレ》は映らねぇぞ。お前たちのこの先の人生でこんな超常現象アトラクションなんか一生ねぇだろうからきっちり、その目に焼き付けな! あとは捜査の邪魔立てしやがったら逮捕だかんな? それでもいいっつぅならついて来い。野次馬共が」



 中指を立ててくいっと真っ直ぐ前に折って指示をする。AT中や確定中、ハマっている筐体の客たちが強張った表情で、岸辺の後ろをぞろぞろと歩いた。


 異様な光景である。


 毒殺事件を知らない他の客たちもぎょっと、その異様な行列を二度見、三度見と得体の知れないものを見据えた。


 そして従業員スタッフに聞くが答えを濁らせられ眉間にしわを寄せるまでがセットだった。


 納得のいない客たちはスマホで、SNSやネットで状況を確認し後ろをついて歩いた。まさに、異様であり得ない光景だ。


「犯人にバレないっすかねぇ」


「さぁ」


 人目がつけばつくほどに、犯人にも情報が行く恐れがあった。知られれば逃げてしまう可能性がある。捜査にしては賑やか過ぎる訳だ。



 ◆



 記者A)その《生霊》は駐車場に出て、犯人の車まで歩いてまた店舗の中に戻った。つまり。変装を車内で解いたということですか、根岸巡査サン。どうして逃げることも出来たのに中に戻ったとお思いですか?     


 憶測でもいいので根岸巡査の考えをお願いします。


「嘘でも憶測では言えないっす。まぁ。殺人を犯す人間の気持ちなんか、おいらには理解もしたくはないっすね。どんな気持ちにしても、やっていいことも悪いことも分からないなら、相手の命の重さも分からないっす。自己中はぜろ! って感じっすね。殺すくらいなら自分で勝手に死んでろって思うっすね。でも探偵の賽河サンは声を訊くし、優しく導くっす」




 変装を解き中に戻った犯人は、四円パチンココーナーの必殺仕〇人で打っていた。


「!?」


 自身の《生霊》が目の前に現れ、賽河たちを見た瞬間。


 出ていたパチ玉が入ったドル箱を投げつけ一目散に逃げようとしたが、ガン! と賽河のT字杖が足のクルブシ押し込まれ足がモツれてしまい、その場に勢いよく顔面から転がった。


 岸辺が、根岸と賽河を押し退け膝を折り犯人へと吐き捨てた。



「逮捕だ。くそ野郎」



 犯人の正体は男だった。殺害した男に元カノを奪われたことによって、安易にも失望から殺意を抱き計画を実行をするに至った。


 だが。殺害された男の正体は、元カノの従兄で犯人と別れたいとの相談から、彼氏役を引き受けただけで、元カノに彼氏なんていなかった。


 別れたかった原因は暴力と金銭DVとギャンブルの自業自得スリーアウト


 ガチャン! と岸辺の手錠ワッパが男の手首を絞めつけた。

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