第14話 別行動

 ちびとブロンズが犯竜を見つけることに協力する。ブルームが群れに対してそう説明すると、彼らは懐疑の目をちびたちに向けた。



「証拠を隠す気かもしれない!」

「縛っておくべきだっ」

「落ち着け!」



 流石のブルームも苦労している。仲間が殺されかけているのだ、気持ちは理解できるが、冤罪を被せられるのは納得できない。



「み、水……」



 声と声が激しくぶつかり合う中、糸のようにか細い声が聞こえ、ハッとした群れの皆がそちらを向いた。ちびとブロンズも視線を追いかける。


 ぐったりとしたドラゴン——ウィードが息を荒くしていた。



「喉乾いたよぉ……」



 それだけ言うと、意識を手放したのか、動かなくなった。胸は上下している。最悪の事態はまだ訪れていない。



「ウィード!!」

「水、水は?」



 群れの皆は泣きそうになりながらウィードに駆け寄る。ちびも後を追ったが、群れの一匹に突き飛ばされてしまった。ブロンズ、ブルーム、グラスはその場に留まり、ちびの背後で会話が聞こえる。



「水は無いんですか?」



 ちびは振り向き、ウィードの様子をちらちらと気にしながらもブロンズの元へ戻った。



「近くの水源はあの池だけだった。水を探すとなると、何日もかけて歩かないといけない」

「砂漠、というのをリーフから聞いたことがあります。見渡す限り砂の大地で、水源が極端に少ない。ですが、ここは緑が生い茂っている。水が少ないとはあまり思えないのですが」

「あんたの言ってることは正しいわ」



 グラスが少し感心したように言う。



「実は昔、ここら一帯は砂漠だったのよ」

「え……!?」



 ちびは周囲を見渡した。リーフに応えて生えてきたという木々は枯れているが、それ以外に茶色の成分は見つからない。見渡す先まで草原が続いている。砂の要素など一つもなかった。



「ここの《マスター》が変えたのよ。彼女が歩いた地面はたちまち緑に変わるの。でも、水は生み出せなかったわ」

「ああ。水源がなくとも草や花が育っているのは、ここら辺に生えている植物が乾燥に強いからだ。……まぁ、話をまとめると、本当に水源が無い」

「じゃあ……どうするの……?」



 ちびはウィードの方を見て、あっと声を上げる。



「ぼく、少しなら水をつくれるよ!」

「なに?」



 首を傾げるブルームの前で実践してみる。両手を前に出し、「えいっ」と掛け声を出すと、空中に水球が現れた。それは自然落下せず、宙に漂っている。



「なに、ちびって水の力も使えるの?」



 グラスが目を丸くしている。ちびは胸を張った。



「……でも、飲めないよね」



 ブロンズの言葉と同時に水球は消滅し、跡形もなくなった。



「少し経ったら自然と消えるんです」

「やっぱりだめかぁ……」



 肩を落とす。ブルームとグラスも落胆した様子だった。変に期待を与えてしまったかもしれないと後悔するが、遅い。心の中で反省する。



「……そうか。それがあったか」



 虚空に溶けた水球を惜しみながらも、ブルームが言った。



「いや、現状、これしか無い」

「私も同じことを考えついたわ」

「一体、なんです?」

「海だ。水の力で思い出した。海に住んでいるドラゴンに力を貸してもらおう」

「……と、言いますと?」

「グラス、説明頼めるか」



 グラスが頷くと、ブルームはウィードの容態を確認しに行った。群れの長として、そして一匹のドラゴンとして心配せずにはいられなかったのだろう。



「海に住んでるドラゴンは水を浄化する力を持ってるの」



 グラスはブルームの代わりに話し始める。



「彼らの力を使って毒を浄化しようって話ね」

「成る程。海は近いの?」



 ブロンズの問いに唸るグラス。



「微妙、といったところね。でも、普通に水場を探すよりかは早いはずよ」

「海はぼくも聞いたことあるよ! たくさん水があるんでしょ? それは飲めないの?」

「飲めるには飲めるわ。でも、塩分濃度が高いの」

「簡単にいうと、毒みたいなものだよ」



 ブロンズは理解していない様子のちびにわかりやすく噛み砕く。



「また毒?」

「まあ、そういうところね」



 つまり、ドラゴンの力を借りることは必然らしい。


 ウィードの元からブルームが戻る。毒は回りきっていないが、時間の問題と言う。



「俺は解毒作用がある薬草を取ってくる。グラスは、海へ行ってくれないか」

「分かったわ。じゃあ、ちびも着いてきて」

「え!?」



 唐突な話に驚愕するが、ブルームはさも当然のように頷いた。



「水の力を持ってるなら、海のドラゴンも友好的に接してくれるだろうな。交渉も上手くいくかもしれない。何の意味がなかったとしても、ちびが着いて行くに越したことはない」



 そういうものなのか、とちびは頷いた。



「ブロンズも来る?」

「いや。僕はこうなった原因を突き止めないと」



 ちびが引き受けた犯竜探しを残って進めるらしい。



「ブロンズが残るか。すまないが——」

「便宜上、僕は拘束されるようなものですよね」



 ブルームは乾いた笑いをあげ、肯定した。ブロンズの頭の回転の良さに感心しているようだった。



「話が早くて助かる。疑いがある以上、ちびかブロンズの片方が群れに残ってもらわなければならない」

「逃げませんよ」



 ブロンズは表情を変えず、ブルームの言葉に被せる。



「冤罪をかけられるっていうのは良い気はしませんからね。僕としてもこの件は明らかにしたい」



 沸々と湧き上がる意志をブロンズの目から感じ取ったのか、ブルームはそれ以上何も言わなかった。



「時間が惜しい。グラス、ちび、頼めるか」

「任せて」

「わかったよ」



 こうして、村から逃亡して初めて、ちびとブロンズは別行動を取ることになる。

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