第8話 ボクだけの特別な何か

 ◆


 昼休み。

 ドリーがいっしょに弁当食べないかと誘ってきたけど「ごめん先約があるから」と断って教室を出た。


 ドリーと話しているとクラスの女子の鋭い視線を感じる。

視線に込められているのは強烈な敵意だ。


 もう慣れたけど、それでも女子に嫌われるのはあまりいい気持ちではない。


 もちろん先約なんてなかった。


 どうしよう。1年の時、仲が良かったC組の山本くんのトコにでも行こうかな。


 でも、去年の2学期くらいから話さなくなっちゃったんだよな。別にケンカしたってわけじゃないけど。気づいたら疎遠になってたっけ。


 逃げ場って言ったらアレだけど、ドリー以外にも話せる友達がほしい。


 ドリーは成績優秀でボクとは学力が違い過ぎたので、高校は別々になると思っていた。


 高校で一緒になった時は、安心感があったけど、最近は劣等感の方が強くなっている。


 何より必要以上に敵視してくる女子の目線が辛い。


 ドリーといると芸能人やスポーツ選手といっしょにいるみたいで、自分も特別な存在になれたような気がして嬉しかった。


 ボクにとってドリーは太陽みたいな存在だ。


 いっしょにいると眩しくて温かい。でも強い日差しは暗い影を作り出す。


 ボクはドリーというまばゆい光が生み出した汚い影だ。


 高校に入って「なんでお前ごときがイツのとなり居るんだ?」という蔑みの目線を感じる機会が多くなってきた。


 2人で渋谷に服を買いに行った時。ドリーが突然、女子高生のグループに取り囲まれたことがあった。その一人が大手アイドルグループに所属する人気インフルエンサーの“さくらの”こと桜ノ宮さくらのみやスミカだった。


 ボクは芸能界の事情に疎いからよくわからなかったが、さくらのとドリーのやりとりから、どうやら特別な仲だというのが伝わってきた。


 あの時、さくらのから感じたのはボクに対する強い敵意だった。


 彼女の汚物を見るような目にボクは耐えられず「急用を思い出した」と言って、その場から逃げ出した。


 口元が見えなかったから、ボクの勘違いだったのかもしれないけど、ドリーとは住む世界が違うのだと改めて思った。


 もう、あんな気持ちにはなりたくなかった。

 だからせめて、学力だけでも追いつこうと努力をしてみたのだが、結果はあのざまだ。


 高校を卒業したらボクはドリーと、二度と会わないと思う。


 だったらせめて、ボクの方から距離をとるようにしたい。

 もう、あいつの邪魔にはなりたくないし、周りからの厳しい視線にさらされることもなくなる。


 何よりボクが、彼の眩しさに耐えられなくなっていた。


 友達だからこそ、ドリーとは対等な関係でいたかった。


 そのためにはドリーに負けない「ボクだけの特別な何か」が必要だと思っていた。


 ◆◆


 放課後。帰ろうとするボクにドリーが話しかける。


「ひさしぶりに遊びに行かない?」


「でも特別補習あるんだろ?」


「あんなのサボるよ。勉強なんて一人でできるし」


「ダメだよ。それにちょっと用事があるから」


「用事って何?」


 ドリーは不思議そうな顔をして尋ねた。


「ないしょ」


 ボクは笑ってそう答えた。閃輝のことは黙っていた。


 ドリーに秘密を持てたことに、なぜだか、ほんの少しだけ嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る