第3話 魔物を倒せないおっさん冒険者
「とりあえず、ソロで活動してみて無理そうなら他の手段を考えればいいんじゃないですか?」
「ソロ活動ねえ……」
半眼でギルド受付を睨むディアに、気まずそうにギルド受付が答える。
「ソロ活動でいけそうなら、パーティーよりも効率的に稼げるでしょうし、無理そうなら改めてパーティーを探せばいいんですよ」
ギルド受付の軽い言葉に従い、ディアは町から出て近隣の魔物の生息地へと向かう。
『ニ”ャア、ニ”ャア』
ワイルドキャット。
町の周りにいる最弱の魔物だ。
キャットというだけあって外見は猫に似ているが、倒せば魔石をドロップするちゃんとした魔物である。
雑食性の猫に似た魔物で、鋭い牙と鋭い鉤爪が生えておりネズミやげっ歯類を捕食して食べる。
時には繋がれて動けないような人里の家畜を集団で襲うこともある。
「ああ、猫がうちのハナコと遊んでるべな」
畜産農家の人が微笑ましく、牛にじゃれつく猫を眺めていると、気が付けば骨だけになったハナコが残されていたりする。
基本的には人を襲う事はない獲物であるが、ワイルドキャットは病原菌を持っている場合もある。
引っかかれると感染し、発症後の死亡率は八割を超えるという狂猫病を媒介する。
愛らしい外見により子供が猫と勘違いして近づくため毎年数人の子供が命を落とす、結構恐ろしい魔物なのだ。
「さあ、ワイルドキャットを狩るか。」
屈伸や伸びをして身体を軽くほぐし、ディアはワイルドキャットへと向かっていく。
町の傍にいて一番狩りやすく駆け出し冒険者が最初に倒す魔物であるが、駆け出し冒険者がワイルドキャットを狩れるのは仲間が居るからだ。
数人で逃げられないように囲い、かまれたり引っかかれないように長い武器で一方的に攻撃するのがセオリーである。
某昔話で出てくる亀をいじめる子供達のような絵図を経てぐったりとしたワイルドキャットを抱えて帰る冒険者達。
「子供のなりたくない職業の一位が冒険者なのは、こういう依頼が影響していると思うんだよな……」
昼を過ぎ、夕方になり、あたりが暗くなり始めた。
「……クソ」
『に”ゃあ』
すばしっこいワイルドキャットへの攻撃はほとんどかわされ、爪や牙の攻撃を受ける。ディアが神官職でヒールや解毒が使えなければ、何度やられていただろうか。
「やった、あたった!」
ディアが振り下ろしたメイスがようやくワイルドキャットに命中し……
「ニ”ー」
ワイルドキャットは逃げ出した。
もし仲間がいれば周りを囲み簡単に狩る事ができただろう。
もしディアが支援職じゃなく一般的な近接職であれば一撃で倒せただろう。
だが現実は残酷だ。
ディアには仲間は居ないし、回復と解毒が使える程度の神官職でしかないのだ。
動きの素早い爪や牙の攻撃に耐え、なれない近接攻撃を仕掛け、魔力回復ポーションをガブ飲みして回復しながら戦った結果、一匹も倒すことはできなかった。
半日かけた結果、収穫はゼロ。
働いていないのと同じであった。
そして町に帰ったディアに道具屋のおばさんが声をかけてくる。
「報酬を貰ったら、魔力回復ポーションの料金を払っとくれよ?」
働いていないどころか、マイナスだった。
…… 閑話休題 ……
「なぁ、企業は赤字であれば企業活動を行う意味がないという言葉を知ってるか?」
「外国の投資家のようなことを言わなくても、その姿を見ればわかります」
ボロボロの服。ヒールで体は癒せても服までは癒せない。ディアはみすぼらしくほつれた服を気にしながら、受付に言った。
「パーティを頼む、一人じゃ無理だ」
そういうと、ギルド受付は言いづらそうに、目を伏せて言った。
「企業は追加で事業をする場合、その事業の十年後と二十年後を思い浮かべて、成長するか衰退するか敏感でないとやっていけないという言葉を知ってますか?」
「外国の投資家のようなことを言わなくても、言いたいことはわかる……」
おっさんで成長が見込めない俺を追加するパーティーは居ねえよってことだろ
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