第30話

 ズシンと音を立てて巨大な蛇の怪物が焼け焦げて崩れ落ちる。

 怪物を仕留めた卯敷と伊奈波二人はうえ~いと手を打ち合わせた。


 「流石だぜよっちゃん! 化け物相手だと楽勝だな!」

 「トッシーの指示のお陰だぜ! やっぱトッシー神だわ!」


 卯敷が撹乱し、伊奈波が攻撃して仕留めるという割と単純な戦い方だが、怪物は基本的に単独で現れるので二体一なら比較的容易に撃破できる。

 

 「蛇かー。 よっちゃん、どう思うべ?」

 「焼けば食えるって聞いた事あるようなないような……」


 二人が悩んでいるのは食糧問題だ。 そろそろ一日が経過しようとしているのでいい加減にどうにかしなければならないと考えたからだ。

 食料を手に入れる算段が整っていないので、少しだけ焦りを感じていた。


 「ま、血が出るのはありがたいべ。 俺の悪魔は戦闘では微妙だけど、こういった場所では役に立つんだよなぁ」

 

 卯敷は蛇の皮を剥いで伊奈波の悪魔に体を裂かせると血液が噴き出す。

 剥いだ皮を広げて血液を溜めると自らの魔導書の能力を使用する。


 ―― <第一レメゲトン:小鍵ゴエティア 48/72ハーゲンティ


 すると皮に溜まった赤黒い液体が透明に変わる。 これが卯敷の魔導書の能力で彼からすれば石を黄金に変える事が真髄であったのだが、液体をワインや水に変える事ができるのだ。

 卯敷が溜まった水に口を付けて少し飲んでみるとしっかりと水だった。 そこそこの時間、飲んでいなかったので余り冷えてはいない事が不満だが美味く感じる。


 「うぅん。 一応、飲めそうだけどなんか容器が欲しいなぁ」

 「そういえば沸かせば余裕で飲めるって聞いた!」


 伊奈波はそう言いながら水に顔を突っ込んでガブガブと水を飲み始める。


 「沸かす話してんのにいきなり飲みだして草なんだが。 ――一応はほどほどにしとくべ? 万が一腹壊すとやべーし」

 

 適当に飲んだ後、次に二人が見ているのは巨大な蛇の死骸。

 卯敷はしばらく悩んだが、答えが出なかったので開き直る事にした。

 

 「焼くべ。 よっちゃん頼む。 あ、炭にしないように気を付けるんだぞ」

 「おう、任せとけ!」


 伊奈波の悪魔によって死骸が炎に包まれる。

 しばらくの間、焼き続けていたが、卯敷がそろそろ大丈夫そうと思った所で止めさせた。

 ホカホカと肉が焼けて煙を放っている。 卯敷は近寄って匂いを嗅ぐ。


 「……うん。 ヤバそうな匂いはしないけど、これ食っても大丈夫なんかね」

 「トッシー! 俺、もう我慢できねぇよ!」

 

 伊奈波はそう言って肉に齧りついた。 バリバリと骨を齧ったのか硬い物を噛み砕く音が響く。


 「硬って、何だこりゃ? 骨? あ、でも結構いけるかも……」

 「よっちゃんのそういうとこ、素直に尊敬するわ。 味はどうよ?」

 「うーん。 何だろう? 鶏肉? 何かちょっと匂いするけど鶏肉っぽい! いけるいける!」

 「マジかよ。 なら俺も食ってみっか」


 卯敷も肉を少し齧る。 確かに伊奈波の言う通り何か違うが鶏肉っぽい味だった。

 

 「確かに結構いけるな。 腹減ってるしもう食っちまうべ」 


 卯敷はもう口に入ったからいいかと開き直り、夢中になって蛇の肉を喰い散らかした。

 その間、周囲への警戒を怠らなかったが、空腹は彼等にとって最高のスパイスだったようで貪るように食い続け――


 「ふぃー。 もう腹いっぱいだべ」

 「だな! 残りはどうする?」

 「持って行きたいけど、流石に時間が経つと痛むから放置するべ」

 「おっけ、勿体ない気もするけどなぁ……」


 満腹になり、人心地が付いた二人はごろりとその場に横になる。

 伊奈波は蛇が気に入ったのか少し未練の籠った視線を向けていたが、卯敷が首を振って諦めさせる。

 彼としても持って行きたいが、保存方法に心当たりがなかったので諦めるしかなかった。

 

 「取りあえず、暗くてもこのデカい死骸は目立つからちょっと離れたところで寝る準備するべ」

 「だな、腹いっぱいになったから俺ちょっと眠みぃよ……」

 「おっけ、安全そうな場所は――何とも言えねーけど、適当な所で交代で寝るべ」

 

 二人はうっぷと汚いげっぷをすると立ち上がって歩き出した。

 

 

 苅谷かりや 孝藏こうぞうはこの状況に身を置いてから積極的に他の参加者を狩ろうと決めていた。 だから、最初から他者を殺害する目的で周囲を警戒しつつ進んでいる。

 地面に耳を当てると微かに振動が伝わって来た。 かなり小さく、怪物のものではないと判断。

 

 高い確率で他の参加者だ。 苅谷は別に他者を嬲り殺しにする趣味はない。

 加えて最低限の倫理観は存在したので殺人に対する忌避感や、良心の呵責も存在はする。

 だが、彼の中では自らの命が最優先なので、全てにおいて自分が助かる事が勝るのだ。


 その為、自分の命を救うのに必要であるなら見ず知らずの他人は殺しても問題ないと判断している。

 少し前に一人を仕留め、現在魔導書は二冊分、二体の悪魔を使役している状態だ。

 相手の戦力が不明ではあるが、奇襲であるなら何の問題もない。 知覚外からの一撃はどんな力を持っていようとも関係ないからだ。


 足音の主との距離を測り、そろそろ射程内だと判断して自らの魔導書を起動させる。

 

 ――<第三レメゲトン:小鍵アルス・パウリナ 14/72レラジェ> 


 彼の全身に悪魔の力が漲り、その手には弓矢が現れる。 

 『14/72レラジェ』。 鏃に腐食毒を内包した矢を放ち、急所に当たらずとも獲物を死に至らしめる狩人の悪魔だ。 苅谷は慎重に距離を保って目標を尾行する。


 狙うのは立ち止まったタイミングだ。 前回は変に焦ってしまい、一撃で仕留める事ができずに随分と苦労をしてしまったのでその反省を活かし、一矢で決めると意気込んでいた。

 第三位階を用いる事で悪魔と同化し、感覚器官の能力も向上しているのか見通すまではいかないが肉眼よりも遥かに先まで見る事ができる。


 実際、彼の目には輪郭ではあるが人が一人この闇の中を進んでいる姿が見えていた。

 一定のペースで歩いていたが時折、魔導書を掲げて使用しているようだ。

 その度にひやりとしたが、どうやら気が付いていないのか背後を振り返る事もなく進む。


 しばらくの間、観察していると徐々にだがペースが落ちて来ていた。

 休憩を挟む兆候と判断した苅谷は弓を握る手に力を込める。

 一撃で仕留める。 ミスはしないようにと決めた事で緊張が彼を襲う。

 

 目を閉じてシミュレーション。 今の自分なら止まっている的を射抜くぐらいは訳ない。

 『14/72レラジェ』は弓矢の技能も与えてくれる。 躱されない限りは必中の自信があった。


 ――そしてターゲットが足を止める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る