第27話

 「どっすか? 聞こえますか?」

 「おう、しっかりと聞こえてるぜ。 いや、しっかしお前の悪魔マジで使えるな」


 水堂の言葉に祐平は苦笑して見せる。 戦闘能力が重視されそうなこの現状ではあるが、手放しで褒められる事に少しだけ複雑な気持ちだった。

 

 「――にしても誰とも出くわさねぇな」

 「さっきから誰かが戦り合ってるらしい音は聞こえるんですけど、ここの構造の所為かどこかよく分からないんですよね……」


 彼等はこの迷宮を進んでいる間、戦闘のものと思われる衝撃や音を何度も感じているが、反響して大雑把な方角しか分からず距離もはっきりと掴めなかった。

 祐平としては近寄りたくもなかったが、笑実を探す必要があるので少しでも人がいるであろう場所へと向かわざるを得ない。 水堂としても捜索に協力するつもりであったので、異論はなかった。

 

 方針は定まっているので後は進むだけなのだが、黙々と進むのも時間の無駄なので『11/72グシオン』の能力を色々と試していたのだ。

 その過程で火力以外での貢献はできそうだった。 この状況下でなければ素直に凄いと感心できるものではあったが、驚くべき事にこの世界には魔法が存在するのだ。

 

 体系化されて魔術と呼称されているらしいが、大枠では似たようなものなので様々な事ができる。

 感覚的なものを多分に含むので水堂にしっかりと説明はできないが、何ができるかの共有はできた。

 ついさっきまで話していたのもその内の一つだ。


 「水やらなんやらの問題は概ね解決したが、飯はどうするかな。 ここをうろついてる化け物って食えるのか?」

 「一応、食える奴もいるみたいですが、毒を持ってる奴も多いんで見極めをしっかりしないと死にますね」

 「……マジかよ。 ちなみに見分けはできそうか?」

 「多分、行けますね。 残念ながら料理には自信がないんで、単純に焼いて食う事にはなりそうですが」

 「こんな状況だし贅沢は言わねぇよ。 腹減って動けなくなるよりはマシだ」

 「そうですね。 取りあえず何か出てきたらお願いします。 食えそうならその場で焼いて食ってしまいましょう」


 最初は他愛もない雑談だったが、話題も尽きた現状は祐平が魔導書で得た知識を披露する形になっていた。 祐平はずっと喋っていてウザいとか思われていないかなと少し不安を感じていたが、水堂としては黙っていると気が滅入るので話題が途切れないのは素直にありがたいと思っていたので快く彼の話に付き合っている。

 

 こんな薄暗く、視界が碌に利かない場所。 長時間居ると精神に異常をきたしそうな環境だ。

 祐平が会話を途切れさせたくないのは無意識に自分の心を守る為だったのかもしれない。

 

 「魔法だの魔術だの漫画みたいな力ってマジであるんだな。 まぁ、魔導書使っている時点で今更って感じだがな」

 「どうも人間には魂ってのがあってそこから引き出せるエネルギーが魔力って奴みたいなんですが、どうも引き出し方にちょっとコツがあるらしいですね」

 「簡単にできるようならとっくに皆使ってるだろうしな。 なんか特別な手順とかある感じか」

 「そうですね。 魂は人間の精神的な何かの一番奥にあるのでそこに手を突っ込んで引っ張り出す感じです」

 「はは、何だそれ。 さっぱり分からねぇ」


 祐平はやや貧弱な語彙で魔術に関しての説明を行っていた。

 彼曰く、魔力というのは魂から湧き出るエネルギーで魔法はそれを火や水に変換するようだ。

 それを効率よく行い、体系化したのが魔術との事。 魔導書も動く理屈は同じなのだが、湧き出るエネルギーだけでは賄えないので源泉そのものからエネルギーを汲みだすので結果、寿命が大きく減る。


 「普通に生きてりゃ絶対に死ぬまで知れない知識だな」

 「生きて帰れたらちょっとした芸として稼げそうですね」

 「動画撮影でもするか? 報酬くれたら手伝ってもいいぜ」

 「生きて帰れたらよろしくお願いしますよ」


 祐平は苦笑してそう返し――足を止めた。 水堂もその場で立ち止まる。

 何故止まったのかは聞かない。 魔法によって祐平はこの闇の中でもかなり視界が効く。

 そんな彼が足を止めた理由は一つしかない。 何かがいるからだ。


 「どっちだ?」


 水堂が小声で囁く。


 「人間ですね」


 祐平がそう返したと同時に闇の奥から足音が響く。

 

 「あ、あの、話を聞いてください」

 

 現れたのは二十代ぐらいの女性。 

 表情には怯えが混ざっており、祐平達を認識した瞬間、僅かに一歩下がっていた。 

 その反応に水堂は駆け寄るような真似はせずに沈黙し、祐平は女性の魔導書へ視線を向ける。


 「わ、私、一人で不安で、あの、その……」


 女性はオロオロと途切れ途切れに不安を口にする。

 

 「……取りあえず魔導書は一冊分ですね」

 「そうだな」


 

 女――櫻居さくらい 虹子こうこは目の前の男二人の反応を見て内心でほくそ笑む。

 警戒はしているようだが、近寄りさえすればどうにでもなる。

 彼女の魔導書に宿る悪魔――『12/72シトリー』は情欲を操り、異性間の愛情を増幅する事ができる。 それにより男を誑し込んで操ろうと企んでいた。


 最初に遭遇した二人組には何故か感付かれて攻撃されたが、今回は同じ失敗をしないように細心の注意を払って近寄る。 とにかく目の前の男二人の警戒心を削ぎ落すのだ。

 弱い女を演じ、庇護欲を煽る。 演技に見えない不安を見せつけるのだ。


 いや、不安だと思い込め。 自分すらも騙せと櫻居は全力で目の前の男二人へ媚びを売る。

 スーツを着た若い男と学生風の男だったが、スーツの男はポケットに手を突っ込んで動かない。

 反面、学生風の男はキョロキョロと周囲を警戒している。 その姿を見て内心でひやりと冷たい汗をかく。


 前回と同様、第二位階で召喚した悪魔を背後に控えさせているが、今回は少し距離を離しているので見つかる心配はないはずだ。

 警戒させない為に出さない事も考えはしたが、前回はいきなり攻撃されたので万が一を考えると出さざるを得なかった。


 学生風の男が手に口を当てると、小さく頷いた。

 それを警戒を解いたと解釈した櫻居はおずおずといった様子で近寄る。

 一歩、二歩、慎重に距離を詰めて接近していく。 この距離では効果が出ない。

 

 第二位階では最低限、触れる距離まで近寄る必要がある。


 「止まれ」


 三歩目を踏み出したところで男がそう口にし、櫻居はギクリと足を止めた。

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