襲えるか、襲えないかゲーム
襲えるか、襲えないかゲーム
マッチングアプリはとても合理的なツールだと思う。
自分が求める理想の相手を、実に効率的に見つけることができる。
私の場合も簡単に見つけることができた。
***
あ、もしもーし。
ヨーコ、久しぶりー、いぇー♪
えー、授業中?
どうせ聞いてないんでしょ? だからいいじゃん。笑
いや、特に用はないんだけどね。
彼氏が来るまで暇だから電話しちゃった。えへへ。
まあちょっとの間だけ相手してよ。
ってかさ、わたし最近めっちゃ面白いゲーム考えちゃった。
聞きたい?
……いや、そこは聞くって言えよ!
じゃあ話すね。笑
ゲームの名前は「襲えるか? 襲えないか?」っていうんだ。
ネーミングセンスがまずダサい? うるせーよ。
まずね、マッチングアプリで会った男に「襲ってください」ってお願いするの。で、実際に会ったときにその男が襲うか、襲わないかをみんなで予想するってわけ。
あ、ちなみに男と会うのはわたしじゃないよ?
そんなん、わたしが「襲ってください、はーと」なんて言ったらみんな手出すに決まってんじゃん。それじゃゲームになんないでしょ? だからヤルことしか頭にないサル男でも「うわ、まじかよ。こいつとヤんの?」って躊躇するくらいのびっみょーな女を用意する必要があるわけ。
まあこのゲームにおいては男の方が立場的には上だね。
だから「襲うか、襲わないか」じゃなくて、「襲えるか? 襲えないか?」。
でもそんなゲームに参加してくれるブスな友達なんてわたしにいたっけなーって思ってたら、なんとなんと「やってみたい」って言ってくれた子がいたの。
その子の名前は柏木マチコっていってうちのクラスでは優等生的な存在。顔はまあ普通にブスなんだけどおっぱいはでかいから男からしたらギリやれるかなって感じの女。
見た目はくそ真面目で男とセックスなんて一度もしたことねーだろって顔してんだけど、実はそいつ、やることは結構やってるんだ。
あれは二学期の期末明けだったかなー。コンビニであいつが万引きしようとしてるところをたまたま発見しちゃったんだ。正義感にあふれるわたしは「ダメじゃん」って注意したわけ。そしたらあいつは「なんでも言うこときくから誰にも言わないでー」って泣きながら土下座するの。
そんなわけで、わたしは元気な女の子の奴隷を一匹ゲットしましたとさ。ちゃんちゃん。
あ、ちなみにゲームに参加したいって言ったのはあいつの意志であって、わたしが強制したんじゃないからね(棒読み)。
ゲームの流れはこんな感じ。
アプリでは、わたしの顔写真を使って登録する。
で、そっこーで男たちから「いいね」がくるから、ヤることしか頭になさそうなブサイクくんの中でも、一番こいつ性癖やばそーってやつを選んで「いいね」を返してやる。
くそみたいなメッセージのやりとりはまじでだるいから、こっちもヤりたくて仕方ないんだってのをアピールするために「私を襲ってください」ってメッセージを送るの。こんときさ、どの男も「早く襲いたいです」とか言うからまじでウケるよ。
まあここまででも男のバカさが垣間見えてけっこう面白いんだけど、やっぱり一番の見せ場は男が柏木マチコと出会う場面かなー。
男には柏木マチコが着ている服を事前に教えておくんだけど、アプリ上ではわたしの顔で登録してるから男どもはみんな気付かないわけ。
待ち合わせ場所に立つ柏木マチコの方をチラチラ見ながら、「でもあんなブサイクじゃなかったはずだよなあ」って困惑する男たちの顔はまじで爆笑もの。
わたしたちは近くのファミレスとかからその現場を観察してるんだけどさ、あんまりにも笑いすぎるから店員から「店内では静かにしてください」って言われちゃうの。でもしょうがないよね。だって面白いんだもん。
で、ひとしきり笑ったあと、男にこんなメッセージを送る。
『ごめんなさい。ほんとうのわたしの顔を見たら会ってくれないと思って友達の写真をプロフィール欄に乗せてしまいました。こんなわたしでも……襲ってくれますか?』
男からしたらまじでびっくりだよね。まじかよ。詐欺じゃんって話だよね。だってめっちゃかわいい子だと思ってたらこんなブサイクだったなんて、そりゃ怒って当然だよね。
でもさ、ヤれるんだよ?
しかもいちおーJK。顔はブサイクだけどおっぱいでかいし肌とかぴちぴちじゃん?
襲える? 襲えない?
ちっぽけな脳みその中で男たちは必死に葛藤するわけです。
第一回目のゲームのとき、男が柏木マチコの手をにぎってホテルの方向に歩きはじめたときはみんなで「ぎゃー」って悲鳴をあげたね。
わたしは「襲えない」の方に賭けてたから「おまえにはプライドってもんがないんかーい!」って盛大なツッコミをしたのは今ではいい思い出。
男と別れた後、柏木マチコに「どんなプレイしたの?」って聞いたらあいつは顔を真っ赤にして俯いてたなー。相当熱い夜だったんだね。きゃっ♡
はじめはゲームとして成立すっかなーって心配だったけど、意外なことに男たちが柏木マチコをホテルに連れていく確率はだいたい5割くらいに落ち着いたの。これが普通の子なら10割なんだろうけど、柏木マチコのブスさ加減がまじで神バランスだったのがよかったみたい。
でも中には物好きな奴がいてさ。柏木マチコのことを本気で気に入っちゃった奴がいたの。まあ柏木マチコを、っていうよりは柏木マチコの体をって感じなんだろうけど。
そいつはハゲでデブでハゲでデブだったんだけど……え、同じこと二回言ってる? ごめんごめん。でもまじでびっくりするぐらいハゲでデブだったからさ。
まあそれだけなら柏木マチコとおんなじで生きてる価値もないクソやろーなんだけど、そいつの場合はめちゃくちゃお金持ちだったの。
柏木マチコのお願いなら何でも聞いてくれるから、試しにオスカー・デ・ラ・レンタの30万円くらいする花柄のワンピを買ってよ~ってお願いしたら、ぽんと買ってくれたわけよ。
そんなもんマジで買ってくれるなんて思ってなかったからちょーラッキーって感じで彼氏とのデートのときルンルンでそれ着てったら、わたしの彼氏なんて言ったと思う? 「それ、ユニクロ?」って言ったの。まじで殺してやろうかと思ったね。
え? 柏木マチコがもらったのになんでわたしの物になってるかって?
そりゃー、あれよ。わたしの物はわたしの物。柏木マチコの物はわたしの物、ってやつ? ぎゃははははは。
今日もその服着てるんだけどさー、たぶん今度は「すごくかわいいね♡」って言ってくれると思う。え、言わせてるでしょって? 言わせてないない。ぎゃははは。
あ、そろそろ彼氏来るから電話切るわー。またねー
***
マッチングアプリはとても合理的なツールだと思う。
自分が求める理想の相手を、実に効率的に見つけることができる。
私の場合も簡単に見つけることができた。
万引きをしているところを、クラスの女子に見られた。
わたしは彼女に「なんでも言うことをきくから誰にも言わないでほしい」と頼んだ。
それが地獄の始まりだった。
知らない男の人とたくさん寝た。
本当はそんなことしたくなかったけれど、「言うことを聞かないと万引きのことをバラす」と言われて従うほかなかった。
たくさんの男の人たちに乱暴なことをされて、自分の体がひどく汚れてしまったように感じた。
でもそれは私の勘違いで、万引きをしたときには私の体も心もすでに腐っていたんだと思う。
私は汚い。そう、汚い。
だから死ぬことにした。
でも自分で死のうとしたけど怖くてできなかった。
誰か私を殺してくれる人はいないかなと思ってアプリをはじめたら、「是非殺させてください」という親切な人が現れた。
この世界にはたくさんの「死にたい人」がいて、それと同時にたくさんの「殺したい人」がいるんだということをそのとき私は知った。
ある日、その人が「君の顔写真を送ってほしい」と言った。
私は自分の写真を送るのを躊躇した。なぜなら私の顔は醜いからだ。
そこで私はクラスメイトの女子の写真を送ることにした。
その人は写真を見てとても満足したようだった。できればはやく殺したいですと言ってきた。
今日、その人と会うことになっている。
でも会うのはわたしじゃない。
『君はどんな服を着ているのかな?』
わたしは花柄のワンピースを着ていると答えた。
『楽しそうに笑っているね。君は本当に殺されたいの?』
もちろんとわたしは答えた。
『君はどうやって殺されたいの?』
わたしはできるだけ残酷な方法で殺してほしいと答えた。
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