AI時代のデリバリーヘルス
AI時代のデリバリーヘルス 1/4
『愛知県内のコンビニに、刃物を持った男が強盗に入りました。男はロボット店員に乱暴し、店の金を奪い逃走。しかし近隣をパトロールしていたロボット警官に取り押さえられました。なお、今回の事件で人間の負傷者はでていません。……いやあ、負傷者がいなくてよかったですねぇ』
運転席のモニタをみると21時5分とある。
残り25分もあれば問題なく目的地に到着できるはずだ。
『次のニュースです。歌舞伎町にあるトーホーシネマズ、いわゆるトー横ってやつですね。そこで一斉補導がされて、1000人の少年少女が補導されました。1000人って、ちょっとこの数字すごくないですか? 他人事で申し訳ないんですけど大丈夫なんですかねぇ、日本』
夕方から降り始めた雨は夜になると本降りになった。ぎい、ぎい、と悲鳴なような音をあげるワイパーが不快だ。小寺シュンヤはカーステレオのボリュームのつまみをぐいとひねる。
『……はい、それではニュースの後はリクエスト曲のコーナーになります。大阪府にお住まいのポチタさんという方のリクエストです。リクエスト曲は……おっ、けっこう古いですねぇ。今から流す曲は2020年代に大ヒットしたアニメの主題歌ですね。アニメのタイトルはチェンソーマンっていうんですけど、わたし観てましたよ。幼稚園くらいのときに。あ、わたしの年齢バレちゃいますね』
ハンドルを右に切りながらシュンヤは「そんな昔のアニメ知らねぇよクソババア」と一人でツッコむ。
ぼうっとしながら運転していたため、曲がり先を間違えて危うく高速に乗ってしまうところだった。そのとき、後ろからクラクションが二度鳴った。シュンヤはち、と舌打ちをする。
『昔のことなんで記憶があいまいな部分もありますけど、そのアニメの中でけっこう印象的なエピソードがありましてですね。好きな女の子のキャラがいたんですよね。まあその子途中で死んじゃうんですけど。で、その子がね、主人公にゲロチューするんですよ。あははは』
男と女がゲロまみれになりながらキスするのを想像していたら、黒のセダンが猛スピードでシュンヤの車を追い抜いていった。追い抜かれる際、相手の車の方をにらみつけると若い男女のカップルが乗っているのがみえた。しかも二人は車内で堂々とキスをしている。男は自動運転に身を任せハンドルを握ってすらいない。これからセックスをおっぱじめるのだろう。
なんとなくスピードを上げる気にはなれなくて、シュンヤは自動運転システムが搭載されていない旧式の軽自動車のスピードをゆっくりと落としていった。
颯爽と自分を追い抜いていく高級車を前にして、シュンヤは現実を突きつけられたような気持ちになった。
デキる男はいい車に乗っていい女に乗る。そして一度できてしまった差はどれだけ努力しても縮まらない。絶望的だ。このもやもやした気持ちを一刻もはやくどこかにぶつけたかった。
自分にはお金がない。だからこの先もいい車には乗れないだろう。
だが、いい女になら乗ることができる。多少値は張るが、車ほどじゃない。
こういう自分みたいな人間のさびしさを埋めるために、デリバリーヘルスというサービスはあるのだ。
シュンヤはステアリングをにぎりしめ、アクセルペダルを思いっきり踏んだ。
減速し始めていた車が再び加速し始める。
その横を、軽トラックがまるで風のように追い抜いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます