第14話 初めてのスキル

 花の種は十分あったので、月に二回、種を植えてどの時期に咲くか様子を見ることにした。

 花の世話は僕がすることになった。

 アウラが言うには、あの花はよほど寒い時期以外では一年中咲くらしい。

 開花するまでは二週間ほどなので、ジャガイモの収穫より先に花が咲くことだろう。


「ってことで、アウラのおかげで父さんも母さんも喜んでたよ! ありがとうな!」

「セージの役に立てて嬉しい」


 アウラはそう言って微笑んだ。

 彼女も本当に流暢に話せるようになった。

 ゼロの指導能力もさることながら、アウラの向上心によるところが大きい。

 僕が彼女くらい喋れるようになるまで、彼女の何倍もの時間が必要だった。


「ところで、ゼロ。異世界通販本なんだけど、1,000ポイントでも取得できるスキルって結構あるんだけど、ゼロのおすすめって何かある?」


 本当は10万ポイントの回復魔法を取得したかったが、いきなり高額な能力を購入して問題があったら困る。

 まずは安いポイント――といってもスライム1000匹分だが――で能力を取得しようと思った。

 だが、僕が見つけた1000ポイントで入手できるスキルは「靴磨き」とか「日差し耐性」とか微妙なスキルだった。まぁ、紫外線を気にする日本の女性からしたら、この日差し耐性ってスキルは超有能スキルかもしれないけれど、日焼けくらいならゼロの回復魔法で治療できるので本当に意味はない。

 異世界通販本は日本語で書かれていて、あいうえお順に並んでいる。

 せめてジャンル別に区分けしていたり、ポイント別に並べられていたらいいんだけど、そんなこともない。

 つまり、いまあるポイントで一番有効なスキルを捜そうと思ったら、全ての項目に目を通すしかないのだ。

 この百科事典より分厚く、何冊もある本の中から。

 時間は無限にあるが、それでもかなりの時間が必要になる。

 それになにより、効果のわからないスキルもあるだろう。

 カッコいい名前のスキルだと思ったら、実は宴会芸だった――みたいな昔見たアニメのようなノリに巻き込まれるのは困る。

 なので、ゼロの意見を伺いたかった。


「そうですね、1000ポイントですと選択肢は少ないですが、私のおすすめは魔法構築ですね」

「魔法構築?」

「はい、自分で魔法の術式を構築し、発動させるスキルです。これを修得すれば、理論上は全ての魔法を使用することができます」

「なにそれっ!? チート過ぎるだろ!? なんでそんなスキルが1000ポイントなんだよ」


 転移魔法を修得するのに3000万ポイント必要なのに、転移魔法も構築できる魔法構築は1000ポイントって、おかしすぎる。

 いや、待て。

 ゼロは『理論上』と言った。

 この理論上というのは、現実には厳しい物事に対して使う言葉だ。


「具体的にどういうスキルか教えてくれるか?」

「はい。まず、こちらをご覧ください」


 ゼロが見せたのは、よくわからない言語が書かれている紙だった。


「これは魔法構築について説明するために、私が書いたものです。魔法構築を修得するには、この紙に書かれているような魔法言語を覚え、そしてその仕組みを理解しないといけません。そして、それらすべてを理解しても、実用的な魔法を生み出すのは並大抵の努力では無理です。そして、できた魔法構築の文章を全て記憶することで、初めてその魔法が使えます」

「頭の中でコンピュータのプログラミング言語を記憶、実行しないといけないってことか。確かにヤバいな。ちなみに、その魔法ってどんな魔法なの?」

「発動してみましょう」


 ゼロがそう言って手を前に出す。

 すると、手のひらが光った。

 そして、色が白から赤、赤から青、青から白へと変わり、光が消えた。


「魔力を光のエネルギーに変え、その色を変える魔法です」

「……それだけ?」

「はい、それだけです」


 恐らく、魔力を光のエネルギーに変えるだけならもう少し少ない文字数で書くことができるんだろう。

 あくまでも練習用ってことか。


「ちなみに、転移魔法を覚えようと思ったら、何枚くらい必要なんだ?」

「この紙五千枚分は必要になりますね」


 そんなに覚えられるはずがない。

 ただ、使いようによっては面白いスキルだ。

 ゼロが推すだけはある。


「魔法構築はゼロに書いてもらうとして――」

「申し訳ありません、セージ様。私はセージ様の身の回りのお世話や、様々なアドバイスはできますが、セージ様の成長に直接関わることを神により禁止されています。魔法言語の説明と、構築のやり方を教えることはできますが、全て私が書くことはできません」

「益々大変だ……となると、魔法文字の理解、構築、記憶を全部しないといけないのか。一ページだけならなんとか覚えられるかもしれないけど、複雑な魔法、十ページとか二十ページ必要な魔法なんて覚えられないぞ」


 記憶力には自信があるほうだけど、限度ってものがある。

 僕は始める前から断念しそうになる。


「セージ、記憶力を上げるスキルってないの?」

「ん? そうか、言語の勉強と構築は自力で頑張るとして、記憶の部分はスキルに頼るのもありか」


 というか、完璧に覚える必要がある以上、ゼロのような完璧超人でもない限りスキル無しで発動できない。

 アウラの言う通りだ。


「記憶力強化――あった、5000ポイントか」

「セージ様、写真記憶というものもあります。修得するのなら、そちらをお勧めします」

「写真記憶? ――えっと、10000ポイントか」


 記憶力強化は単純に物事を記憶しやすくなるスキルだが、写真記憶は見たものを写真のように覚えることができるスキルらしい。

 これを入手するまでは、魔法言語の数が少ないシンプルな魔法しか使えないってことか。


「ゼロ、スキルを覚える前に、魔法言語と魔法構築の講義を頼めるだろうか?」

「かしこまりました」

「セージ、私も一緒に勉強していい?」

「もちろんだ。アウラも一緒に頑張ろう」


 こうして、僕の魔法の勉強が始まった。

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