cut 7 目が覚めたら魔王だった件の構造
#魔王の居城
嫌な夢を見ていたように思う。寒い。冷たい。空疎にして苦痛。無意味で重荷。孤独と絶望。虚ろな毎日に希望を探しドアの向こうに遥かな世界を夢を見ていた。そんな夢だった。そう、夢、夢だったのだ。ほんの一瞬、突いた頬杖の上で微睡んだ、ただそれだけの事。
「機械化天使一個師団が西の城壁12里に結集中」
「空中戦艦5」
「ランドシップ8」
「魔王様指示を」
魔王様指示をって前線指揮官か?
「将軍は?」
「将軍?」
「指揮官が居るだろう?普通」
「先の会戦で将軍は――」
全滅かよ。
「我が方の総戦力は?」
大丈夫かこいつと言う顔でオペレーターに見返される。
「貴方が最後の戦力でございます」
傍らに立った女子高生ぐらいの女官が言った。
絶望的な状況。
俺って、何ができるんだろう?
#イグドラシル
「東方の魔王が目覚めたようです」
「悪夢から目覚めても復悪夢」
「神の目の監視強化」
#マンションの一室
嫌な夢を見ているようだ。寒い。冷たい。空疎にして苦痛。無意味で重荷。孤独と絶望。虚ろな毎日に希望を探しドアの向こうに遥かな世界を夢を見ていた。
両親は世間から一線を引いて久しく、息子を置いて何処かへ逃避行してしまっていた。親類縁者の居ない俺はどうにか残ったマンションの一室で公的扶助を受けながら高校へ通っていた。学校ではなるべく目立たないようにしていた。もっと色々したかったのだが目立つと虐めの対象になってしんどかったのだ。目立たなくしていても虐めは襲ってくる。手にした写真をもう一度見てポケットにしまい込んだ。何もこんな写真送る付けてこなくって。突っ伏した事務机から身を起こし、天井を仰ぐ。カナル式ワイヤレスヘッド、こんなものでさえ虐めの対象なのだが、から、悲しいボーカロイド楽曲が流れて来る。動画サイトは無料で無尽蔵に楽曲を提供してくれるから有難い。考えた奴は所謂「神」だった。
「有難う。でもごめん」
彼女はそれ以上何も言わなかった。
事情は何となくつかめた。
虐めだった。
クラスには恐怖政治が蔓延っている。
強い奴に逆らうと色々と怖いのだ。
彼女はクラスのボスのお気に入りでもあった。
「ああ、解かった」
此れで他人の事情を理解するのは得意だった。解らなかったのは不可解な自分の感情だった。納得したのに納得できてない。困った状況だった。
酒を買った。友達から。一本千円のポケ瓶を1200円で買い取った。
校則など知ったことでは無かった。
酔い潰れて学校にも行かなかった四日目。
両親も無く、誰も訪ねてこないはずのマンションのドアホンが鳴った。
耳元でヴォーカロイド楽曲が鳴り響いていた。
一個下の女子だった。
眼帯をしているのはファッションか。今時霊でもないだろう?
ドアの向こうの演説は何だったのかと言うほど、部屋に呼び込むとおとなしい女子だった。
もじもじしながら此方を見ている。
処女か?
俺も。。。
しかし俺は年上だ。リードしなければならない。
乏しい異性知識を総動員しつつ口説きにかかった。
ベッドインまではたったの五分だった。
ベッドの上にあおむけになる女子。
馬乗りになって覆いかぶさる俺。
――ほんとにこんなんでいいんだろうか?
そう思った時激痛が――
「あれ?」
喉。喉から血が吹いていた。
女子がにっこり笑ったような気がした。
#最前線
城壁に立つ。
「勇者空のパーティーです」
当方の軍勢、と言っても全部傀儡の機械化師団、が敵の機械化天使軍と交戦中。
遠くの空では「事象の虹」と呼ばれる七色の光が光芒を見せていた。
「勝ってるの?」
「敗退中です」
「第五防衛線突破されました」
勇者御一行が錐状陣形で突っ込んで来た機械化天使の後ろから現れた。
脇に居たクレリックが前に出る。
「観念していただきますか?魔王殿」
いきなり光線砲のような光の流れが俺めがけて突き刺さってきた。
幾つもの円状光芒が盾のように光の流れを受け止める。
「強い?」
「此処は私が」
相手のエルフ様の女子の攻撃を受け止めた此方の女官、さっきまでオペレーターだった、が魔王と四人の前に出る。
再び、今度は複数の光流を放ってきた。
法円で綺麗にかわしつつ、
「煩悩業苦!」
更に放たれた光流の幾条かが途中で消失する。
「やられた!」
エルフの持つ杖から青い蛍のような光が解き放たれて行く。
「強要は此処迄!?」
機械化天使が放った鉛玉の雨が女官を襲う。
全ての鉛玉が途中で消え去った所へその隙をついて戦士が斬撃を放った。
間合いを詰めて来る勇者一行。
結局四人のオペレーター全員が参戦した。
オペレーターも剣術格闘技の心得はあるみたいだったが、如何せん戦士と勇者の斬撃のコンビネーションに圧され気味だった。
エルフとクレリックは魔法が無効になった所で後方に撤収していた。
とは言え戦況は何となく不利だった。
「援軍、居ないの?」
「今の所各陣営沈黙中です」
「俺、只の凡人みたい」
「魔王様、此方へ」
女官と一緒に城の中へ戻った。
あ、魔王引っ込んだ、とか後ろから聞こえた。
#城の外
裏門から馬に、機械は金属探知されるので、乗って逃げ出した。
後方では城の向こうで未だ戦闘が続いていた。
馬に乗った女官が振り向いて、
「城は何とかなります。」
「逃げるの?」
「後退します」
四里ほど離れた山岳地帯。
洞窟の中に隠れた。
女官が魔法ではなくLEDカンテラを点灯する。
「魔王様今日は此処で」
「バレない?」
「山が探知機の障害になってくれるはずです」
「何時までも居られないと思うけど」
「奥へ」
LEDカンテラを照らしながら俺たちは洞窟の奥へと進んだ。
途中扉のようなものを発見し、中へ入った。
手探りで壁のスイッチを押すと照明がついた。
夢の中の世界に在ったような廊下だった。
女官は手鏡を見ながら迷宮のような廊下を歩き先導した。
「着きました」
100平米程の広間。奥に玉座。城と同じように玉座の左右にコンソール。
女官は玉座に俺を座らせるとコンソールに取りついた。
女官はコンソールのディスプレイに映る「本」に拝跪合掌すると、ヘッドセットをして会話しだした。
「此方第126鎮守府第16要塞を奪取されてしまいました」
「報告御苦労さま。」
「私と鎮守様は?」
「現時点を以て解任。現世へ帰還」
#見知らぬ一室
気が付くと見知らぬ天井だった。
夢?どっちが?何処から?
両手は使えたので右手で首をさする。
包帯がしてあったが無事のようだった。
右側からすすり泣きが聞こえる。
首を回してみる。
例の一個下がベッドの上ですすり泣いていた。
どうも病院の大部屋のようだった。
「えーと」
名前をまだ聞いてなかった。
「魔王様、首から血が」
動いたら血が滲んで来たようだった。
仕方なく仰向けに戻ろうとしたときに気づいた。
眼帯をしていない。
「殴るの?」
仰向けになって訊いた。
「うん」
「彼氏?」
「ゴロ」
「逃げて来たんだ?」
「戦っても勝てないから」
「そうなんだ」
戦っても勝てない。
何かそれは実感に思えた。
「回診です」
看護師が医者を連れてやってきた。
「続きは復夜にでもね」
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