第四章 廃刑務所探索

探索開始

 時岡の祖父である三島の手記によれば、三種の神器は存在し、そのひとつが御魂神社にご神体として奉納されていた白い勾玉“覇神魂はしんだま”ということになる。時岡はその覇神魂を密かに持ち出した。


「なぜ覇神魂を持ち出したんです」

 智也が神妙な表情で眉根を寄せる。神社・仏閣巡りが趣味で、敬虔な気持ちで参拝している智也にはご神体を持ち出すなど信じられない行為だ。


「散り散りになったという三種の神器を集めてみたい、と思ったんです。祖父は死ぬまでにこの島に戻ることはできなかった。だから、僕がそれを成し遂げられたらと」

 時岡はとんでもないことをした、と項垂れている。

「まさか、こいつが神社からご神体を盗んだことでこんなところに閉じ込められたのか」

 水瀬が鋭い視線で時岡を睨む。時岡は堪えきれず目線を逸らした。


「ここでは昨年もYouTuberが行方不明になる事件が起きている。禍津神とここで起きている怪異の関係性は明確ではないが、彼が覇神魂を持ち出したことがきっかけではないだろう。だが、三種の神器が散り散りになったことで、災いが起きているとも考えられる」

 火鳥は腕組をしながら考え込んでいる。

「所長の本郷が三種の神器に只ならぬ興味を示していた。没収物リストにあったということは、一度はここへ集めたってことだよね」

 本郷は神器をどうしようとしていたのだろうか、意図が分からない。智也は頭を抱える。


「あの、それで、実は真里さんに覇神魂を持たせたんです」

 時岡に全員が注目する。溶接工が部屋の扉を破壊しようとしていた混乱の最中、真里のポケットに覇神魂を忍ばせたという。

「こんな場所で、神社のご神体なら強力なお守りになると思ったので、それで」

 驚愕の視線に堪えかね、時岡は萎縮する。

「真里ちゃんは覇神魂を持っていたから、連れ去られた」

 金村は誰もが考えていたことをはっきりと口にした。時岡は悪気があったのではなく、真里を守ろうとした。智也は彼を責めることもできず、言葉を失う。


「だが、生きている」

 火鳥は立ち上がった。

「もし、覇神魂だけを手にいれることが目的なら、真里から奪えば良い。彼女を掠う必要は無かったはずだ。しかし、真里を連れ去った」

 火鳥の言葉は理に叶っており、説得力があった。

「きっと真里は無事だ」

「俺もそう思うぜ」

 智也の言葉に、水瀬も頷く。


「よし、今の段階では真里の命は保証されているだろう。鬼斬り国光と封魔鏡を探しにいくぞ。俺はまだこの刑務所に隠されていると踏んでいる。ここへ閉じ込められた今、時岡くんが覇神魂を持ち込んだのはラッキーだった」

 火鳥は三種の神器を集めるつもりだ。火鳥は収容棟の鉄扉を抜けて外に出る。

「一体どこにあるんだ」

 水瀬の目的は鬼斬り国光だ。


「お前の探しものを手伝うと約束した。俺はお前とあそこへ行く」

 火鳥が指差したのは、黒ずんだコンクリート造りの棟だ。見取り図によれば、凶悪犯を収容する重警備棟ということになっている。

「マジかよ。おっかねえな」

 凶悪犯、と聞いて水瀬は身震いしている。自分もヤクザのくせに、と智也は思ったが口に出さないようにした。


「では、封魔鏡はどこにあるのかしら」

 金村は別行動で探しに行くという。

「刑務所の塀を伝って岬へ行くと、廃灯台がある。ここへ来る船から灯台が光を反射しているのが見えた。確証はない、が可能性はある」

「分かったわ」

 金村は火鳥の勘を信じることにした。

「智也、彼女と一緒に行けるか」

 溶接工以外にも危険な奴が潜んでいる可能性はある。智也はもちろん、と頷いた。


「君はどうする」

 火鳥は時岡にむき直る。時岡は緊張して唇を引き結んでいる。しかし、その目はしっかりと火鳥を見据えていた。

「真里さんが掠われたのは僕のせいでもあります。僕は収容棟に残ってやりたいことがあります」

 時岡の言葉に強い意志を感じた。火鳥は頷く。


「分かった、気をつけろ。ここではスマートフォンの電波も通じない。成果があっても無くても、結果が分かったら所長室に集まろう」

 

 神島刑務所 重警備棟 20:05


 火鳥と水瀬は重警備棟の前にやってきた。目の前にそそり立つ黒いコンクリートの壁は異様な威圧感を放っている。水瀬は気分を落ち着かせるためにタバコを取り出し、吹かし始めた。極度の緊張感のためか、全く味がしない。


「あの女、結構豪胆だな」

 水瀬は金村が灯台に行く、と切り出したことに驚いていた。普通なら、何もせず隠れるか、一緒に行動したいと言うところだ。

「それに、強欲だ。しかし、頼りになる」

 火鳥はふっと笑う。智也を金村と灯台へ行かせたのは、この重警備棟へ来させたく無かったからだ。


 ここには収容棟よりさらに濃い瘴気が渦巻いている。怒りと苦しみ、強い怨念も感じる。今も頭がズキズキと痛み、火鳥は眉根を顰めた。火鳥は重警備棟の周囲を歩き始める。コンクリートは雨風や潮に晒され、黒ずんでいる。びっしりと壁を這う蔦は建物を覆い尽くそうとしていた。


 錆び付いた鉄格子の嵌まった高い窓から通路が覗いている。その向こうに鉄格子で囲まれた部屋が並んでいるのが見えた。通路には廃材やゴミが散乱しており、暴動の痕跡が見て取れた。中桐が順次改装していくと言っていたが、ここは手がつけられていないのだろう。

 

 建物の裏手には、地中から伸びる煉瓦造りの煙突があった。火鳥は確信する。ここに目的の場所がある。

「こいつは何だ、井戸か」

 水瀬が直径一メートルほどのコンクリート製の丸い穴を覗き込む。鉄格子で蓋がされているが、暗い穴はずいぶん深いように思えた。火鳥が茂みの中に打ち捨てられた大きなプロペラを見つけた。

「ここは換気口だろう。このプロペラが動いていたとなれば、相当な換気が必要だっただろうな」

 この設備を見ると、重警備棟に地下があることは確かだ。


「うおっ」

 穴を覗いていた水瀬が驚いて飛びのく。

「どうした」

「お、おっかねえ。穴の中で影が動いた。何かいやがる」

 全身に鳥肌が立ち、寒気がする。水瀬は両腕をこすり、足踏みをする。

「野生動物か何かだろう」

 しかし、火鳥はそうは思っていなかった。きっとここには何かがいる。単純な水瀬は火鳥の言葉に安心したようで、タバコを穴の中に投げ捨てた。

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