不遇な扱い受けて異世界転生したら無双してハーレム築いたけど自由がない監視社会だった。【完結済み】

はなびえ

自由な剣と不自由な勇者

 俺は十年前、修学旅行中のバス中でクラス全員と共に異世界転生した。

 地球では勉強や運動が出来なくクラスメイトからは嘲笑されている負け組だった。

 憎かった。悔しかった。

沸々と殺意が蓄積しているのを日々感じていたくらいである。

「あんまり注目されたくないんだよね」

 人気者はよく周りにこんな風に言ってみせるが、そんな奴は俺にその座を譲って消えてしまえばいいと思っていた。

 けれど、そんな俺の人生は異世界転生によって最も容易く好転した。

 異世界転生すると全員、神から何らかの能力が授けられる。

 周りは炎や氷を司る力だとか、動物を手懐ける力程度のものだったが、俺だけ英雄ソードが授けられた。

 どうやら、この剣は英雄の資格を持った者にのみに授けられる伝説の剣だったらしい。

そこから負け組だった俺の快進撃は始まった。

 突如として現れた最強のルーキーが、その圧倒的な実力で、全世界に名声を知らしめたのだ。

 そして、地位も名声も女も金もこの世の全てを我が物にした俺は、一年後とうとう魔王を倒すことに成功した。

「...やっとか。よくやった勇者よ。これで、ようやく我はこの地獄とも思える日々から解放される。恩人のお前には前代魔王を殺した勇者をから奪った自由の剣を授けよう。文字通り自由が手に入る剣だ。聖剣であるが故に、魔人の我には扱えなかったが、人間のお前だったら使えるだろう。もしこれを使うなら精々、周りには気を付けろ。」

 魔王は終始満面の笑みを浮かべこの世を去った。

 所詮、負け犬の遠吠えだろう。

 俺は見下しながらも貰えるものは貰おうという事で、屋敷に持ち帰った。

 ……魔王討伐完了の知らせを知った世間の熱狂っぷりは常軌を逸脱していた。

 俺はまるで神のように祭り上げられ、俺を王にした国家を作ろうとした者も現れたくらいだ。

 まあ、当然だろう。

 俺は選ばれた人間なのだから。

 俺以外のその他ギャラリーは賑やかし要員としか存在意義がない。

「流石ね~ダーリン」

「やっぱり天才ね」

「...流石です!」

「て、天才だ!?」

「やっぱりあなたは世界最強ですね」

「わ、妾は感服したぞ」

 耳障りの良い言葉が世界中から聞こえてくる。

 当然だ。

 俺が世界最強で俺がこの世界の中心なのだから。

 でも、それも長くはもたなかった。

「瞬間移動を実現させるなんて信じられないわ!」

 3年も経てばだんだんと俺への関心も薄れていき、新しい天才が現れ始めた。

 俺の人気も相変わらずだったが、明らかに以前ほどの勢いはなくなっている。

 しかし、この世界は俺がルールなのだ。

 その原則を乱すやつは処刑した。

 当たり前だ。

 それは世界の平和を脅かす事と同じなのだから。

 でも、処刑が間に合わない程に天才はどんどんと量産されていった。

「あいつを処刑しろ。世界の為だ」

「で、でも」

「世界の為にはあいつを殺した方がいい。だろ?」

「そ、それは違うんじゃ?」

 明らかに俺に従順なヤツが減っている。

 だんだんと俺の悪口を言う奴や暗殺を狙う奴も出てきたくらいだ。

 そして現在、仲のよかった隣の国の王が妻に殺されて死んだらしい。

 圧倒的な力で平民を黙らせ、国を治めていた王の最後は妻の毒入りコーヒーを飲んだことだった。

 この件で、俺は極端に弱者を忌避するようになった。

当然だろう。

奴らはルサンチマンを拗らせて、俺を狙うクソ野郎共だ。

 そこで、平民を知ろうと町に忍び込んでみたら、俺の悪口を老若男女問わず言っては笑っていた。

部下によるとこういうやつは多いらしい。

 無論、殺しまくったがそういうヤツは無限に湧き出てきた。

 殺しても殺しても奴らは消えない。

 俺はだんだんと全人類が怖くなっていった。

 15人の妻も当時のようにすべてにおいて従順ではなくなったので、皆殺しに

 した。

 彼女たちも世界の支配者に殺されるのは光栄だろう。

 それから、俺は誰とも会わなくなった。

 使用人の飯を食うのも怖くなり、使用人の家族を人質にすることで安全を確保した。

俺は絶対に生き残って見せる。

「...癪だが、これを使おう」

とうおう耐えられなくなり俺は自由の剣を使った。

 自由の剣が神々しい光で俺を照らす。

 町に出てみるとすべてが変わっていた。

 みんな俺のことを忘れているのだ。

 それどころか、俺は醜いオーラを放っていると嫌われさえした。

 これも自由に剣の効果だろう。

 そして、俺は自由を手にした。

 誰も俺に興味がない。

 みんな俺を見すらしない。

 最初は殺してやろうかと思ったが、慣れればむしろ心地よかった。

 それから、俺は読書など一般庶民が好きな趣味にも手を出すようになった。

 人に構われない寂しさを埋めるのには最適だったのだ。

 そこで興味深い本を見つけた。

 俺と同じ英雄ソードを授けられた勇者はみんな著名人や政治家、など社会的地位の高い人に殺されていたらしい。

 まあ、今の俺に限って誰かに殺されるわけないだろう。

 俺はそう高をくくって、いつも通り人通りの少ない公園で読書をしていた。

「あの~著名な方ですよね?」

 俺は大柄な男に声を掛けられた。

 優し気な笑みを浮かべ、近づいてくる。

「ええ、まあね?」

 久々に人からもてはやされるのも悪くない。

 なんて思っていると、男は突然英雄ソードに似た剣を鞘から抜き、勢いよく俺に切りかかってきた。

 一般人に切りかかられてもビクともしないが、男はだた者じゃなかったようで、俺は痛みを感じる暇もなく、呆気なく首を切り落とされた。

「なーんだ。お前はあの勇者だったのかよ。俺も神から選ばれし者、剣王だ。」

 自由の剣の効果が切れ、俺のことを思い出した男は笑みを浮かべ、自由の剣を発動させたのだった。


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不遇な扱い受けて異世界転生したら無双してハーレム築いたけど自由がない監視社会だった。【完結済み】 はなびえ @hanabie

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