211~220
破 先 帯
ふう、と吹きだした煙は帯のように広がり、やがて見えなくなった。「ねえ、輪っかを作ってよ」言ってみれば少し眉根を寄せるが、煙を口に溜めるとほっと吐き出す。綺麗な円形のそれに指先を寄せればあっという間に破れて消える。午前二時の公園で、互いの名前すら知らない私たちはそれでも親友だった。
悲 奪 抱
娘が妖精の取り替え子にされて三日過ぎた。妖精は子供を大切にするから、大丈夫だから。何度その言葉を聞いただろう。奪われた娘のかわりに置かれた妖精の子は、私から見ればひどく醜怪で、吐き気がした。悲しむだけでは無意味だ。大切な娘を取り戻すため私はそれを抱きあげる。旅の準備をしなくては。
持 乱 柔
初めて抱いた猫はぐにゃりと柔らかく、持ちづらかった。友人は笑いながらこの流動体のような生き物に格闘する私を見ていた。友人の腕の中にいたときはまるで微動だにせず喉を鳴らしていたくせに、私が触るとこの猫はどろりと溶けだして、いかにも私が乱暴したのだと言うように不満げに鳴くのであった。
放 夜 断
悍ましい陽光を遮る扉を開ける。満月の元に解き放たれた私は今日も夜に舞う。一番高いビルを見下し、地べたを蠢く虫共を笑う。「お嬢さん、こんばんは」何の断りもなく話しかける男に舌を打つ。私に口を利くならば足元に這いつくばり許しを請うべきだ。たとえ同類であっても、貴様にかける声などない。
想 強 悪
弱く降り注ぐ雨の中、傘もささず一人で歩く。何もかも最悪だった。私は彼を好いている、彼は友人であるだけの私を見ず恋したいと願う相手がいる、その相手はまた別の人を愛している。愛が空回りする小さな世界。できれば彼に幸せになってほしい。想う力が強いほど、彼との距離が遠くなるように感じた。
口 生 裸
裸のまま毛布にくるまる彼女。何の不安も恐れもなく、眠り続ける彼女はまるで生きた人形のようだった。ドアを開けても、ベッドに座っても起きなかったのに、ほんの小さく名前を呼ぶだけでぱちりと目を開く。彼女も小さく私の名を口にする。名前を呼び合える相手がいるなんて、なんて素晴しいのだろう。
決 入 背
「意味のない夢なんてないんだよ」幼い頃、恐ろしい夢を見たのに周囲はみな耳を貸さず“ただの夢だから”そう言って取り合ってくれなかった。「ほら、きっと良いことがあるから」夜が来るたびに思い出すあの背中。今ならどんな夢にでも入っていける、どんな悪夢も解決できる。あの人がそう言ったから。
襲 息 爆
「君は幸せになるべきだ」そう言ったのは誰だっただろうか。爆風の勢いで塹壕に転がり込み、息をつく間もなく襲い掛かる銃弾に身を伏せる。なんて馬鹿げた言葉だろう。一介の下級兵になるしかなかった自分に、随分なことを言ってくれる。顔も忘れたクソったれの言葉が、今日も耳に沁みついて離れない。
強 先 態
鎖に縛られ傷を負った竜はじっと女を見つめている。「お前が美しく強い者であった頃の話を知っているよ」鱗を剥がされた状態の竜から女は鎖を解く。「先代たっての願いだ。やっとお前を自由にできる」風が轟轟と鳴り竜を取り巻く。もはや女には目もくれず、天津風に乗るように竜は空へと帰っていった。
魔 思 出
日常の、ふとした隙間に暗雲が立ち込めることがある。雨の降る心の奥底で、幼い頃の思い出に浸る。父は私を抱き上げ、いつも笑ってこう言った。「君は魔法使いだ、素晴らしい魔法だ。私の心を、こんなにも癒してくれる」今の私はどうだろう。まだ魔法は使えるだろうか。人を癒すことが出来るだろうか。
次の漢字を全部使って文章作れったー
https://shindanmaker.com/128889
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