異世界の実情
俺が直裁に尋ねると、横にいるベレトが盛大な舌打ちをし、いつ癇癪を起こしてもおかしくない苛立ちを募らせる。
「もしかして、何も聞いてないのかい? この世界の状況を」
奥歯を噛み締めるベレトは、バエルから送られてくる視線に沈する。
「俺は貴方から話を聞きたい」
知らぬ間にバエルへの言葉遣いが変化していた。バエルを敵方にし、圧倒的な存在に対するストレスから、軽口を叩いて自己を保とうとする身の振り方を脱したのだ。
「そうか。なら」
バエルは人差し指と中指を二回、折り曲げるのを繰り返し、一歩前へ出ることを命じてくる。柱に於ける序列は絶対的なものに違いない。何故なら、まるで施しを受けるかのように上記の指図に従う俺がいたからだ。
「これを見ればきっと、僕らが力を合わせる理由を理解できるはずだ」
人智を超えた力の所在を疑っていた訳ではないが、投射機を用いずに頭の中へ直接、映像を映し出すやり方と光景に唖然とした。
海と見紛う広さの水源が目の前に忽然と現れ、高層ビル群を想起するいくつもの巨大な影が大波を立たせている。近付くのが憚られるその存在感は、世界を脅かすのに相応しい。つぶさに説明を受けずとも、異世界が迎えている終末の気配を肌で感じた。
「これは、一人の魔術師が起こした厄災であり、僕らが呼び出された理由でもある」
敵対すべき相手を明確にすることで、俺達が置かれている状況を包括的に語り、どのように立ち回るかの説得力を持たせた。
「滔々と私達が貴方にへりくだる理屈を並べてくれたが、結局のところ配下に置いて都合良く利用したい一心なんだろう? わざわざ懐柔を試みるのは何故だ?」
口を閉ざして久かったベレトが、鬱憤を吐き出すようにバエルの方針へ抱いた疑義をあけすけにした。
「力で従わせるより、言葉で理解し身持ちを決める方がお互いに身軽だ」
これほど懐を広くできるのは、ひとえに「序列」という前提があるからで、裏切りを見越して傀儡にするより、話し合いができる状態を維持し、力を最大限に発揮する自我への期待を寄せているようであった。
「…….」
ベレトは憮然と顔を曇らせたまま仁王立ち、溜飲を下げるのに至らなかったことを露見させた。
「大丈夫さ、心配はいらない。三人もいればどんなことだって対処できる」
太平楽な調子を崩さないバエルの自信は、「力」に対する絶対的な信頼から来ているのだろう。俺は未だに自身の力を咀嚼しきれておらず、ましてや、あのような巨大な影を見てしまったことを回顧すると、不安は一切晴れない。
「レラジェはまだこっちへ来てから間もない。力を完全に制御下に置くまで動く訳にはいかないぞ」
ベレトは俺の心情を慮って、バエルへ進言した。これは正しい。仲間を買い被り、過大な目論みを立てられると、俺を起点にした瓦解がめくるめく起き、目も当てられない事態を招くかもしれない。
「そうか。なら、先ずは部屋に通すのが先かな。家具一式は揃っているけど、足りないものがあるなら言ってくれ。水浴びをするなら、階段を最後まで下って、地下に行くといい。湧き水で身体を浴むことができる」
バエルが八重歯を見せて、柏手を打つかのように手のひらを整然と重ね合わせて音を鳴らす。もはや驚きもしない。まるで壁紙を貼り替えるように、空間を瞬間的に移動し、未知の部屋に案内される理不尽なる所業を俺は受け入れていた。
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