鼻持ちならない

 しかし、その疑念を事も無げに払拭できるほどの信用は獲得しておらず、空々しい言い訳として咀嚼された。


「待ってくれよ……」


 言葉を重ねるたびに空虚な身持ちがあけすけになっていく。このままでは、冤罪を叫ぶ犯人の振る舞いに帰結し、頭を抱える他ない。俺はそぞろにトラビスと目を合わせようとすると、


「レラジェ」


 悪魔の名をなぞり、疑義のこもった眼差しで俺を捉えた。俺達の関係はまだ皮相なものに過ぎず、腹を割って話すまでには至っていない。にも関わらず、「どうして信じてくれないんだ!」そんな馬鹿げた叫びが心の中で響き渡った。


「レラジェ、感情に振り回されてはならないと言っただろう」


 そこへ、呆れた口調を携えたベレトが脇から現れる。俺を異世界に呼び出した張本人は、供述の一切を傾聴せずに断定してくる。俺はいくつもの死体を生み出した。しかし、今回の死体の状態を見て、俺の犯行だと疑う事は浅薄甚だしく、毒気を感じさせる死因とは遥かに結び付きが弱い。


「……」


 だが、それらの事を整然と説明したところで、四面楚歌に陥った俺の立場が覆るとは到底思えなかった。舌禍になり得る言葉を遍く呑み込んで、他所者に対する村八分を毅然と受け入れる。


「レラジェ!」


 トラビスの呼び掛けを黙殺し、階段を上がっていく。俺のする事は至ってシンプルだ。殺人者を探し出し、皆の前に突き出す。それだけで事足りる。とはいえ、犯人を探す難しさは藁の中から針を探すのと変わらぬ途方もなさがあった。先ず始めにやるべき事として、第一発見者との接触から行うのが正動だが、交流の一切を拒むような闊歩を今し方見せたおかげで、それは難しくなった。これから臨むのは、たった一人の局地戦である。


 ベレトが口酸っぱく言う力の制御の先に、「号令」といって一人一人の頭の中に呼び掛ける事も含まれるのか? あれはどこまで人を操り、深層心理に訴えるものなのかを知る必要がある。よしんば、一声で犯人を呼び出す事も無理からぬ話ならば、光が見えてくる。


 部屋でぽつねんと考えを整理したのをきっかけに、俺は廊下へ足を伸ばす。威風堂々と風を切って歩いていると、此方に向かって歩いてくる人影を捉えた。俺はひとえに胸を張って、目前まで迫った不詳の男に問う。


「ベレトの部屋はどこかな」


 城内に於いて、ベレトと俺の立ち位置はほとんど変わらないだろう。違う世界から呼び出された悪魔の名を冠する同じ穴の狢だ。


「……」


 俺の問いかけに口を閉ざしながらも、男はついて来いと言わんばかりに俺へ背中を向ける。無用に言葉を連ねて雅致がなくなるより、何も言わずにその背中を追った方がいい。異世界での厚遇に浮かされて王様気分を鼻にかける、ベレトの不遜なる態度を気に病んだ男は、渋々ながら俺を部屋へ案内する事を選んだようである。

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