第17話「小鬼の里」

 ロリさんとヤナを背中へ乗せた俺は、小鬼の里へ向かって離陸した。


「なんで貴様が我の上に乗ってるのだ!」


「仕方ないでしゅ! 文句があるにゃら着いてこなきゃ良いじゃないでしゅか!」


 喧嘩するのは良いが飛行中は止めて欲しい。


「ヤナ! 目上の人に失礼だぞ!」


「こやつらが目上などとご冗談が過ぎますぞ! いくら殿にお叱りを受けようと、譲れぬものは譲れませぬ!」


 叱ってもこれだ……。


 なんとかならんのか?


 小鬼と鬼人の確執。


 二人の言い合いをBGMに聴きながら飛行。


 暫くすると、ロリさんの案内で小鬼の里へ到着した。


 小鬼の里は、なんと滝の裏に隠れていた。


 という事は、こないだのピクニックの時に見られていたという事か。


「ラクトしゃまだけなら、森で何度かお見かけしてたでしゅ! そこの鬼人は滝の下で遊んでおられる時に見たでしゅ」


 やっぱりそうか。


 見られてるなんて全然気づかなかった。


 さすが忍者だ。


 恐るべし隠密スキル。


 滝の裏へ侵入すると、岩肌にポッカリ空いた入り口があった。


 ここが里の出入り口らしい。


 という訳で、お邪魔します。


 中は完全に洞窟。


 真っ暗かと思いきや、所々に#灯籠__とうろう__#が置いてあり、火の優しい光で照らされていた。


 通路のような所を暫く歩くと、広い空間に出た。


「おお、こりゃ凄い……」


 そこでは、鍜冶をしたり料理をしていたりする小鬼達が、何十人も日々の生活を営んでいた。


 やっぱりみんな小さい。


 ロリさんと変わらぬ風貌をした男女。


 前の世界だったら、ロリショタ大歓喜の光景だ。


 居住空間には、横穴が無数に空いている。


「横穴が個人の寝室でしゅ!」


 なるほど、カプセルホテル的な感じだな。


 居住空間の天井はそれほど高くない。


 俺の身長より少し高いぐらい。


 それでも、身長が幼児の小鬼にしたら高い方だろう。


 それにしても凄い光景だ。


 可愛らしい小鬼達がトテトテ歩く姿に、思わず顔が綻ぶ。


「なんという奴らだ! 我が殿を誘惑してなんとする! 成敗だ! 成敗!」


「止めんか!」


「おお、これはロリしゃま! お帰りなさいましぇ!」


 ヤナを止めていると、ショタがやって来た。


「ショタ! 今帰ったでしゅ! 変わりは無かったでしゅか?」


 本当にショタかよ!


「ええ、特になにもなかったでしゅ! ところで、この方は誰でしゅか?」


「このお方は、ラクトしゃまです! あの村の村長さんでしゅよ!」


「おお、あの村の村長さんでしゅか! ようこそ小鬼の里へでしゅ! ゆっくりして行って下しゃい!」


「ショタは私の息子でしゅ! 次の族長は、ショタに任せようと思っているでしゅ!」


 ショタが息子なのか!?


 ショタが息子で母がロリ。


 なんか脳がバグりそう。


 その後、歓待の宴を開いてくれる事に。


 小さい小鬼達が歌って踊って楽しませてくれた。


 少し驚いたのは、小鬼達が酒を飲んでいた事だ。


 俺も一杯だけご馳走になったが、白く濁ったどぶろくみたいな酒で酒精も結構強い。


 これを幼児にしか見えない小鬼達がガブガブ飲む姿は違和感を覚えた。


 聞けば、小鬼は酒が大好きだと言う。


 という事は、鬼人も酒が好きなのかな?


「とのぉ~、なんで我を見てくれないんでしゅか~? あんな小鬼より、我の方が魅力ちぇきにゃのにぃ~」


「おいヤナ! お前飲んだのか!?」


「へぇ? 飲んれましぇんょ~」


 完全に飲んでいる。


 いつの間に飲んでたんだ。


 しかも厄介な事に絡み酒かよ……。


「おい小鬼! 殿とお近づきににゃりたかっりゃ、我を倒してからにしりょ!」


 俺の両隣に座っていた小鬼の女性に絡むヤナ。


 二人の女性は、今度ロリさんと共に村へ研究に来てくれる助手の人達だ。


「おうおう! さっきから聞いてれば生意気な娘でしゅね!」


「そうでしゅ! そんなに戦いたいなら私が相手になるでしゅ!」


 あれ? 小鬼って温厚じゃなかったの?


 そんな俺の疑問に、ロリさんが答えてくれた。


「普段は温厚でしゅよ! ただ、酒が入ると好戦的になってしまいましゅ! 鬼の血は怖いでしゅね……」


「なるほど……だったら余計に止めないと不味いですね!」


「まあまあラクトしゃま。ここは私達の力を見る機会だと思って、見守ってては下さしゃらぬか?」


「いや、でも……」


 今の酔っぱらいヤナでは、力加減など出来ない。


 もし怪我なんてさせたら、今後の交流に差し支えるしな……。


「安心して下しゃい! 怪我はしゃせまんから」


 え、逆じゃない?


 なんだか自信ありげなロリさん。


 うちの者が怪我をしても遺恨はなしと断言するので、いつでも止められるように構えながら見守る事にした。


 得物はお互い木の棒を構えている。


 普段小鬼達が訓練で使っているものだそうだ。


「始めるでしゅ!」


 ロリさんの掛け声で始まった勝負。


「いざ尋常に勝負ー!」


 酔っているとは言え、さすが戦闘民族の鬼人だ。


 足元もしっかり地面に吸い付いている。


 ブレないヤナの剣筋が、小鬼の女性に真っ直ぐ飛んでいった。


「危ない!」


 俺が思わず声を上げた瞬間――


「消えた?」


 そこに小鬼の女性の姿は無かった。


「鬼人は相変わらず馬鹿正直に殺気を放つでしゅ」


「そこか!」


 また消えた。


 まるで手品。


 子供をあしらうように、ヤナを手玉に取っている小鬼の女性。


 姿は小鬼の方が子供なんだけどね。


「これで終いでしゅ」


「小癪な!」


 ポコンッ。


 そんな音がした。


「殿~! 痛いです~! 小鬼が虐めます~!」


 ヤナはあっさり負けた。


 駄々をこねながら悔しがる。


 聞けば鬼人より小鬼の方が圧倒的に強いとか。


 何故鬼人が小鬼を目の敵にするのか少し分かった。


 強いからムカつくのだ。


 見るからに弱そうなのに、自分達を子供扱いする技量。


 幼児体型に呆気なく負ける事に、プライドが許せない。


 負けた相手には従う鬼人だが、小鬼に負けても絶対に服従しないとか。


「どんだけ子供なんだよ……」


「困った鬼でしゅ」


 その後、負けたショックでふて寝したヤナをおぶり、小鬼の里を後にした。


 ロリさんは準備が整い次第ラミオ村へやって来る。


 近接戦闘だけで言えば、小鬼はうちでNo.1かもしれん。


 相手に気づかれる間もなくブスリ。


 これは良い先生が出来るかもな。


 ヤナにしたら屈辱的かもしれんが、小鬼の技を覚えれば危険がぐんと減る。


「殿~、小鬼が攻めてきますぅ~!」


 夢でも負けてるのね。


 頑張れ、ヤナ。


 負けるな、ヤナ。

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