07-28-仲間の条件3 -ライフハーブダンジョン-
相馬さんのリクエストでやってきた『採取のライフハーブダンジョン』は、60メートル四方ほどの屋外ダンジョンだった。
なんとなく想像していたとおり、周囲は木に囲まれていて森の風情だ。
で……
「
西園寺さんの第一声がこれである。
マイナージェリー2体が奥からぴょんこぴょんことやってきて、しめた、白銀さんの力をみんなに見せるチャンスだと、勇気と勢いで
「かなめ、もっとぎゅってして」
「うお、お、おう」
「要零音ッ! 貴様は見下げ果てた破廉恥男だな!」
「いや、そんなこと言われても、これは違くてだな」
「はれんちだとおもう、さいおんじこそがはれんち。かなめ。たりない。もっとむぎゅーーって。炎の精霊よ、我が声に応えよ──」
「な、な、な、なにおう!?」
西園寺さんは顔を紅潮させ、むきーっと怒りをむき出しにする。
そのあいだにも2体のジェリーは迫ってきていて、白銀さんの詠唱は紡がれてゆく。
速水さんがレイピアの先端に魔法陣を出現させ、
「速水さん、魔法はいい! MPは温存して、見ていてくれ!」
「か、楓に、み、見ていてくれだと!? いまの貴様らの姿を!? なんと不潔な!!」
「っていうか誰でもいいから西園寺さんを黙らせてくれ! 誰か俺を助けて!」
「
魔法発動直前。
俺は覚悟を決めて、腕の中にいる可憐な森の妖精を、お望みどおりむぎゅぎゅと抱きしめる。
肩を怒らせてもう一歩俺に近づいた西園寺さんを、速水さんと葵衣くんがふたりがかりで止めた。
そんな3人は目を見開く。
6つの瞳のなかで、白銀さんが水平に構えた先にある魔法陣が、どんどん大きく、巨大なものになってゆく。
森の妖精は、銀の龍になった。
「
俺は白銀さんを抱いたまま、土草に靴の轍を刻み、勢いよく後ずさる。
両足での踏ん張りが効かなくなって、右足、左足とたたらを踏む。
やばい、と思ったら、背中に柔らかな感触。
俺の背で待機してくれていた相馬さんだ。
「っし……! だいじょーぶ!?」
「るうなもいますよー!」
相馬さんの背には月宮さんもいてくれるらしい。
背を支えてもらったことで生まれた余裕で正面に顔を向けると、眩しい光を放つ熱風が前髪を揺らした。
ゴオオオ、と無情な轟音を鳴らし、火柱──とさえ呼べぬ、天に向かって逆巻く炎の渦は、2体のマイナージェリーを灼熱の
火柱か、炎の渦か……あるいは、天を貫く尖塔にも見えたし、なにか幻想的な──そう、
葵衣くん、速水さん、西園寺さんの3人は、白銀さんが立ち昇らせる自然を超越した炎龍に顔を向け、あんぐりと口を開けている……。
「
白銀さんの声とともに、轟音と熱風が止んだ。
2体のモンスターが落ちてくるとき、それらはすでにマイナージェリーではなく、木箱だった。
《戦闘終了》
《1経験値を獲得》
ガシャガシャン、と乱暴な木箱の落下音で、葵衣くんたちは驚いた顔のままこちらを振り返った。
俺の前には白銀さん、後ろには相馬さんと月宮さん。
やばい、西園寺さんじゃなくてもこれは破廉恥列車だ……なんて思ったが、
「うわぁ……! すごい、すごいよ白銀さん!」
「あなた、本当にまだ転生前のLV5なの……? どうなっているのかしら……」
「ジェリー2体が一瞬で……! これが、銀の龍というわけか……!」
白銀さんの魔法の威力は、そういった俗世の人間らしいあれこれを塗りつぶしてくれたようだ。
「このていど──」
白銀さんはもったいぶった言いかたで3人を振り向いた後、
「ぞうさもない。ぴーすぴーす」
表情の張りを緩め、いつものぬぼーっとした顔に戻り、3人にダブルピースを向け、指をちょきちょきともてあそぶ。
厳かな銀の龍はどうやら、可憐な森の妖精に戻ったようだ。
白銀さんから手を離すと、俺の背からも相馬さんの手が離れてゆく。
「ま、これがあたしらの戦いかたなわけ。最初はびっくりするのもしゃーないけどさ」
「るうなも最初は驚きましたけど、すぐ慣れましたのでー!」
そう言い残し、ふたりはふたつの木箱へと向かってゆく。
「……すまない」
西園寺さんは白銀さんと俺に頭を下げた……というよりも、
「破廉恥などと、失礼なことを言った」
草土に残る、俺がつくった数メートルにわたる凄惨な
「わかればいい」
白銀さんはこくりと頷いて、転移陣の側に設置した作業台へとてとてと駆けていった。
舞原さんと聖、黒乃さんはアントンとマッティをともなって、ダンジョン内の採取ポイントを確認している。
「ほら、みーちゃん、ぼくたちも行こう!」
「あ、ああ」
西園寺さんは謝り足りない様子だったが、俺はひとことくれただけでじゅうぶんだったし、まああんだけぎゅむむと抱きしめれば、そりゃ破廉恥にも見えるよな、という思いもあった。
あのままずっと謝られたんじゃ、こっちがたまらない。白銀さんの言うとおり、わかってくれればいい、ってやつだ。葵衣くんナイスフォロー。
「……ごめんなさい。尊、なんでも口に出してしまうから」
……と思ったら、速水さんにも謝られてしまった。
「尊はいつも猪突猛進で、直情径行で……。物事の裏を取る前に突っ走ってしまって……。でも、悪い子ではないのよ」
「うん、わかってるよ」
教会に来て20分足らずで、西園寺さんからはいくつもの指摘を受けた。……が、それらはどれも初見では疑問に感じて当然のものだ。
「西園寺さんは強い正義感を持っていて、それでいて正直なんだと思う。さっきも言ったけど、この街はまだまだ発展途上だ。ずばっと意見を出してくれるんなら、そのほうが助かる」
「……そう言ってもらえると、こちらも助かるわ」
速水さんは細い指先をこめかみに当てる。
その姿は、この3人がいままでずっとこうやって来たことを簡単に予想できるものだった。
「それにしても──【デウス・クレアートル】だったかしら? あなたのスキル……興味深いわね」
「というと?」
「たとえばこの資料によると、アイテムの種類によって出現するモンスターって決まっているでしょう?」
「そうだな」
たとえばペレ芋ダンジョンだったらマイナーコボルト1体だし、オルフェの水ダンジョンならマイナーコボルト1体とマイナージェリー1体と固定されている。
ただ、フラグメンツを使用した場合は別だけど。
ちなみに速水さんの言う〝この資料〟とは、黒乃さんお手製のアイテムダンジョンガイドブックである。アイテム別に簡易マップ、出現するモンスター、採取ポイント、フラグメンツを使用した際の変化などが細やかに記されている。
「ということは、ペレ芋という
なるのかしら? と問われても、俺には答えることなどできない。
レベルがあってステータスがあって、モンスターがいて木箱があって死に戻りがあって──
俺のアイテムダンジョンだって、そういった摩訶不思議現象にまみれた世界の、摩訶不思議現象のひとつだとしか思わない。
速水さんはその後も「同じアイテムは同じダンジョン、同じモンスターが出現するのに、どうして木箱の中身だけが違うのか」とか「アイテムダンジョンのなかでのみ、この街の住人が生命を落としても無事なのはどうしてか」といったことを訊いてくるが、答えを持たない俺が答えられるわけがない。
「すまん。不思議だとは思ってるけど、この世界じゃ不思議なことなんてたくさんあるだろ。だから考えても無駄だと思って諦めた」
「いえ、いいのよ。ごめんなさい、なんでもすぐ気になってしまうのは私の悪い癖だわ」
「好奇心が強いって悪いどころかむしろ良いことだろ。物事に疑問を感じるところも、よりよいやりかたを探るきっかけになる。俺たちはずっと手探りの連続だからさ。気になったら遠慮せず、なんでも言ってくれよ。みんなで話し合って、直せるところがあるなら直していきたい」
そこまで言うと、速水さんは「ふふ、ありがとう。そうさせてもらうわ」と残して、長い黒髪をひるがえして採取へと向かった。
さて俺も採取を──と思ったところで、
「やっば、むっず、どーしよ、失敗すっかも!」
相馬さんの慌てた声が森に響いた。
手早く開錠を終わらせた彼女は、広い部屋を形成する木の根本に屈み込んで
どうやらこのダンジョンには、相馬さんがずっと欲しいと言っていた『マイナー・ヒーリングポーション』の素材になるアイテム『マンドレイク』の採取ポイントがあったようで──
「やばいやばい! マジやばい!」
しかしその採取がどうにも高難度らしく、うに子の必死な支援を受けながら長い金髪を振り回している。
……っていうか、相馬さんで難しいんなら、ほかには舞原さんくらいしか採取成功しそうな人いないんだけど。
──────────
多忙が続きまして投稿が遅れ、申しわけありませんでした。
すこし落ち着きましたので、投稿頻度を戻します。失礼いたしました。
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もうひとつのアイテムダンジョン、お楽しみいただけますと嬉しいです!
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