第6話 せんぷうき!

マキマキから鍵を受け取った私は、嫌になるほどの熱気を全身に受けながら、薄暗い廊下を走り抜けていた。

しばらく進むと目的の扉の前につく。


熱々の鍵を鍵穴にさして回す。

回りにくい鍵穴を少し乱暴にガチャガチャと左右に揺らすと、時々突っかかりつつもちゃんと回りきって、鍵が開く。


扉を押すと、キィと耳障りの悪い甲高い音とともに暗かった部屋に光が入り込んでいく。

薄暗い部屋の中に私は入っていくと、壁にペタペタと手を押し付けて、明かりのスイッチを探す。


「うーん、ここでもないし、スイッチ…スイッチは…あった」


スイッチを見つけてそれを押すと、ピピピンという音を小さく立てて、蛍光灯の明かりがつく。

蛍光灯はジーという音を立てながら部屋を照らす。


「この音地味に怖いんだよね…」


蛍光灯の音にビクビクとしながらも、私はところせましと積み上げられた箱と棚の隙間を進んで行く。


「うーん、扇風機があるならここらへんだと思うんだけどなぁ」


そんなことを呟きながら棚に詰め込まれた箱やら機械やらをどかしていく。

すると箱の隙間に半透明の袋が見えてきた。


「お? ひょっとして…ひょっとする?」


その袋を取り出してビニール袋の中身を確認する。

ビニール袋の中には大きめの扇風機が入っていた。


「あった!」


私は歓喜の声を上げるが、すぐにげっそりとした気分にになる。

ただでさえ暑いのに、これを運ばなくてはいけないのだ。

私の腰ぐらいの高さのある、その上そこそこに重いこれを。


キャスターこそついているが、ここに来るまでに外の廊下も歩かないといけない。

あの日光にさらされながら、これを運びたくはない。


「どうしよ……お願い、してみるかなぁ」




私がタエちゃんとのトランプゲームをしていると、なんだか落ち着きなのないメイちゃんが部屋に戻ってきた。

メイちゃんは汗のせいで、海に飛び込んだ後みたいになっている。


「おかえり、扇風機はあった?」


私がそう聞くと、メイちゃんは言いにくそうに「うん、あったんだけど…」と言う。

その様子に私はなんだか嫌な予感がした。


「ちょっと待って、嫌な予感がするんだけど」


私がそう言うとメイちゃんは苦笑いを浮かべて、「その、運ぶのを手伝ってほしいなぁ、なんて」と言う。


「…嫌な予感が当たったよ。 大きいのしかなかったの?」


「うん、ほかも探してみたけどなかったよ…」


「えぇ、タエちゃん?」


私はタエちゃんに話を振る。


「え!? わたし? わたしは…その、製氷機を直すから忙しいっていうか」


「あれはもう無理でしょ」


「いやぁ、でも…」


渋るタエちゃんに私は「…三人で行こっか」と言う。

私の言葉にメイちゃんの表情が少し晴れ、タエちゃんの表情が曇った。


「三人も必要ないんじゃないかなぁ?」


そう聞いてくるタエちゃんの言葉を聞いて、私はメイちゃんに「たぶんだけど倉庫の扇風機、ほぼ金属でできてるでしょ」と確認をする。

するとメイちゃんは「うん」と答えた。


「じゃあ外を運んでるときとかまともに触りたくないから、多ければ多いほうが良い」


「そんなことないんじゃないかな? というか夜になってからでも良くない?」


「いやだ。 正直言って、私も少しでも涼む方法があるなら今すぐに欲しいの。 だから何が何でもタエちゃんを道連れにする!」


「なんの『だから』なの!? 前後で私を連れてく理由になってないよ!?」


「とりあえずメイちゃんについてこ!」


「なんでマキちゃんそんなに乗り気なの!? やだよ? 私行きたくないよ」


「さっき言ったでしょ、このままただの暑さにさらされたら茹で上がっちゃう」


「扇風機があっても熱い風を浴びることになるだけだよ!?」


「希望があるならすがりたくなるでしょ」


「希望じゃないよ、目に見えた地雷だよ。 熱い思いして運ぶものじゃないって、もう昼はここでおとなしくしてようよ」


「…じゃあ、二人で行ってくるよ。 そのかわりにタエちゃんには持ってきた扇風機は使わせてあげない!」


「えぇ…わかったよ、行くよ」


「やっぱりタエちゃんも扇風機つかいたいんじゃん」


そんな風にして私たちは三人でエンヤコラと扇風機を部屋に運んで来るのだった。


ちなみに案の定、扇風機は暑い風を放って、肌が痛くなるだけだったので、すぐに部屋の隅のほうに追いやられた。

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~沈没世界の海上暮らし~ mackey_monkey @macky_monkey

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