エピローグ 不死革命

 〓〓〓 Bird 3 〓〓〓

 

 小泉がつぶやく。

「そういえば今日、誕生日だった…」

 28歳、独身。

 うそつき。借金持ち。友達もいない。

 でも、成り上がれるって。この歳になってもどこか道ばたで当選くじを拾い、一発逆転できると本気で信じていた。惰性だせいで仕事を探し、まったく続かない日々だった。

 まぶしい朝日も見なくなる。そう、まるで靴底くつぞこだよ。悪臭の巣窟そうくつだ。見つからないように頭を下げる。

 それでも後頭部をスリッパで踏み潰されていた。どうしようもねぇ世界だよ。俺の才能を知れ! 俺の雄弁を聞け! 俺は最悪で、みじめだが、まだ使いものになる。なるはずだ。

 その声は届かない。なぜなら、俺が、俺自身が、俺の頭を踏み潰していたんだ!


 ただ、今回が初めての主役らしい。

 そのお題はクズが怨霊におびえる笑いもの。しかも、ハンマー片手に操られてしまったって?

 そうだ、親泣かせ。ずっとこの廃墟だけでなく、未来を、将来をさまよっていた。出口もなく、あきらめていた。


 わかっていた。俺はずっとおびえていたんだ。


 どこからか風が吹き込む。

 何か消毒の臭いだろうか? そのとき、血にえたハンマーがそっとささやいた。

『そうでもないよ。目の前を見て! あれが出口よ!』


 白いカーテンは、ほがらかになびいている。自由に、そして軽やかに!

 そうだ、行け! 小泉の参上だろ? 栄光に向かって、走り出せ!


 窓の外には朱色の星たちがらんらんと輝く。目をむいて、駆け出した。

「そうだ、今日が誕生日! お母さん、産んでくれてありがとう! ようやく俺の時代が来たんだ」

 カーテンへ向かって一直線。三階の窓から翼を広げる。夜空は味方だ! 力いっぱい、踏み出した。


 幸福だ! 半ケツで片手にハンマー。俺は勇者だ。小泉だ。美化した過去はなんて気持ちいいんだろう、ギヒヒヒヒッ!


 ドスン・・・

 雑草の中、彼の幸せそうな横顔は白いペンキに着地していた。

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行こうぜ!俺がレイプした女が幽霊になって有名になってるよ。 シバゼミ @shibazemi

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