第16話 夏祭り、君との帰り道

「伊藤君ー!」

「おっ、そこにいたのか、わざわざ呼んでくれてサンキューな」

「ところでさ、お前たちってそんな手繋ぐような仲だったっけ?」


勢いで質問してみる。自分は逃げるのに、こういうのはズカズカと聞いちゃうんだよなぁ。これを告白する勇気にでも出来たらいいのに。俳優だからって言い訳しないような人になりたい。


「実は…私たちね!付き合うことになったの!」

「「えええぇぇぇ!?」」

「そんなに驚くことか?」

「まずおめでとう!」

「おめでとうございます!」

「ありがと~!」

「んで続きを言うんだが、輪投げした後に告白したんだ、」

「私も雅のことが好きだったから…すごくうれしくて、せっかくだから手を繋いでいこうってことで今に至るんだよ」


その話をきくだけでますます自分のヘタレを直したいと思った。すると、


「栄太、なにボーっとしてんだ?花火もうすぐだぞ?」

「ああ、悪いな少し考えてただけだ」


すると綺麗な花火が何発も上がり、空を彩る。

だがそんなときでさえ、考え、自問自答してしまう。


――俺にはなぜ勇気がないんだろう?


――なんでも告白できるような、そんな勇気が。


――中野さんのことは助けに行けたじゃないか、2度も。


――じゃあなんで告白できないんだろう?好きなら告白すればいいじゃないか?


俺の夏祭りの終わりは、自分自身を後悔する、残念な終わり方だった。









夏祭りの帰り。夜も遅いため、帰ろうということに。

だけど女子を一人にさせるとまた海の時になりかねないので、俺と雅がそれぞれ付き添うことにした。


「これだと家が近いから、俺と中野さんで栄太と未海でいいんじゃないか?」

「ちょっとまてよ?」

「なんだよ栄太?」

「せっかく付き合ったんだし今日は2人で帰れよ?」

「お前達がいいなら俺はそうしたいけど...」

「私も…」

「ならせっかくですし2人にしてあげましょうか」


せっかく恋人になったんだし、こういう時こそ一緒にいるべきだと俺は思うんだよな。

まぁ何回も言うが告白もできないヘタレ野郎なんだがな。


「なら栄太!またな!」

「バイバイ―!栄太たち!」

「はいまた!」

「じゃあな、雅には今度深く話を掘り下げさせてもらうよ!」

「うっ…!まぁしゃあねぇか…!」


掘り下げた話を参考にさせてもらおうかな…。そんな話があるかも分からないけど…。


「じゃあ行きましょうか?」

「そうだな」

「早川君、少し寄り道しない?私は大丈夫だから、そこの公園にでも」

「まぁ、いいけど…」


中野さんがその公園に指をさす。さされた公園は夜でだれもおらず、静かであり、俺の心とはちがって、少し心地いいような...はたまた夏なのに少し肌寒いような風が吹いている気がする。俺の心を例えるなら嵐だというのに。


「早川君!あそこのブランコでも座りながら話しましょう?」

「ああ、わかった」

「早川君、今日は元気があまりない気がするのですが、何かあったのですか?」


彼女に告白する勇気が出ないヘタレなんだけど、それを好きな人に相談できるはずもない…。


――あ。


でも変わろうとしなきゃ何も始まらないよな、たとえ今告白できなくても、相談すら好きな人の前でなんて勇気が出ないなんて言っていたらいつまでも変われないよ…。

だから、少しでも前に進むために。


「実は、中野さんも相談してくれたんだけど、俺にも好きな人がいてね...その人に告白できないんだ...勇気がないヘタレだからさ、俺は」

「え...?」

「今の中野さんだったらどうするかな?」

「あ...うん!えっとね、私はわからない」

「わからない...?」

「私は早川君じゃないでしょ?だからわからないけどね、1つわかることがあるよ、いや2つかな?」

「それはね...早川君って自分に自信がないだけなのかもよ?」


自分に自信がない?確かにそうだ。正体をあかせばたしかに人気ではあるけど、俺は見た目とかではなく、地味な俺でも好きになってくれるような人がいいから。でも、そんな地味な俺はクラスで一番の美少女とはすべてが劣っている。だから付き合えるはずがないって思いこんでいたんだ。でそれがいつの間にか俺の中で大きくなって、自分に自信が持てなくなったんだ――!


そして中野さんは話を続ける。


「だって、本当にヘタレなら、あのとき私を助けてないはずじゃない?」

「え...?」

「だってだよ?あの時私の周りにいた大人も誰も助けてくれなかったのに、唯一、早川君だけが私を助けてくれた、この前の海でも、助けてくれる人はいないし人はたくさんいたのに私を助けてくれたんだもん、私は十分格好いいと思うけどな」

「ああ、そうか、そうなんだ!」


この言葉が君のその笑顔から出た時にはわかった。俺がヘタレという臆病さがあったのは。そしてその笑顔は今まで見た中で一番美しかった。

自分に自信がなかったからなんてもう言わない。

そしてその笑顔を見た時、俺は思ったんだ。

まだ告白もしていないのに。





――俺はその笑顔を隣で見ていたい。


――彼女の支えになりたい。


――何かあったら俺が守り続けたい、と。

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