夕方サプライズ

「持ってくるの大変だったんじゃないですか?」


 竹の節を取りな除きながら、先程それを運んできた青髪の彼に問う。


「そこらの竹林で大いやつを1本と、小さいのをいくつか切ってくるだけのことさ。大したことじゃねぇよ」

「1本丸々持ってくるのではなくて、半分に割ったらもっと楽に運べそうな気はしますが……」


 15分ほど前のこと、ソラが竹を持ってやってきた。持参した物で彼の企みは大方察することはできたが、何故前約束も無しにやってきたのだろうか?


 もちろん最初にそれを尋ねたが、時間がないと軽くかわされてしまった。逆に、今こうしてある物の制作を手伝わされることとなって今に至る。


「ここの広さなんて竹林じゃわからないからさ、ここで切った方がセットが作りやすいと思ってな」


 その計画を立てた彼は涼しい顔をして、髪をなびかせながらそう答える。涼しい風を身にまとわせて涼んでいるのだから暑くはないのだろうが、肌に浮いた汗の量から察するに結構大変だったはずだ。


 もちろん、彼も彼でただ休んでいる訳ではない。涼みながらも細い竹を組んで様々な高さの足場を作っている。


「まあ、確かにそうですが……何故いきなりこんなことを?」

「サプライズに決まってるだろ。最近なんかあったろ?」


 サプライズ。その言葉で彼の計画の根幹を理解する。だからわざわざ、私しか小屋にいない時間を見計らってやってきたのか。


「ええ、思い当たることはありましたよ。詳細は話せませんけどね」

「詳しいことはどうでもいいさ。今は少しだけでも、そのことを忘れさせてやろうぜ」

「はい、もちろんです」


 この頃リンは、少し元気がないように見える。ぱっと見は普通だが、深く悩んでいることがあるのだろう。もちろん、私はその理由も原因も知っている。だが――今は何も彼女に伝えることはできない。


 私ができることと言えば、ソラが言ったように、ひと時だけでもそのことを忘れさせることくらいだろう。私にできる最善を尽くすためにも、今は彼の持ってきた案に乗るしかない。


 それにしても、ソラもなかなか奇抜なことを思いつく。いや、彼の案にしては奇抜すぎるか……?


「ところで、この案はソラが考えたんですか?」

「いいや、俺じゃねぇ。メインはレインだ」

「レインでしたか。それなら、何故か納得できてしまいます」

「俺はこんな突拍子もないことはしないさ」


 レインが発案して、サファルとソラがうまく案を纏めたのだろう。


「しかし、発案者は何処に?」

「サファルと一緒に食材の買い出しに行かせてるんだ。あいつの魔力なら、サファルと食い物をここまで運ぶことくらいはできるさ」

「なるほど、役割分担したんですか」

「あぁ。元から時間がないサプライズだ。到着する前に組み上げねぇとな。花梨が帰ってくる前に、終わらせようぜ? サプライズは、完成してないと意味ないからな」

「はい。頑張りましょう」


 会話で止まってしまっていた手を動かして、節を取り除く作業を再開する。ソラから詳細な計画を聞きながら、それを形にしていく。


 組みあがった竹のレーンに流すのはそうめん、そして星形に切った野菜や蒲鉾かまぼこということになっている。


 7番目の月の7番目の日に計画さたサプライズは、きっとうまくいくだろう。





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短編集『レメチェロの日常』 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora

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