第2344話、意外と話が分かる

 そこからやる事は、丁寧に丁寧に各家を訪ねて歩く事だった。

 以前光の精霊の居る国でやった事と、殆ど同じ事をしているな。

 ただ違う点があるとすれば、この国の貴族は意外と話が解る者が多い。


 今回の件の責任をとると素直に表明し、その代わりの民の助命を願った。

 勿論その中には、家を存続させる為という理由も含まれているだろう。

 それでも貴族の義務をはき違えてない者が、中々多い国の様だ。


 あと国の規模もそんなに大きくないのが助かる。貴族の数がそんなに多くない。

 法衣貴族はそこそこ居るが、その連中を咎めても余り意味は無いしな。


 ただ一部の高位貴族と、それに連なるらしい貴族は話にならなかった。


「意外と早く終わりそうだな」

『手早く帰れるね!』


 馬鹿国王が玉座に就いてから、貴族共の不満はかなり溜まっていたらしい。

 いや、元々溜まっていて、それが国王になったから爆発しかけていたと言うべきか。

 先の高位貴族の話も、俺が聞いてもいないのにベラベラ教えてくれたからな。

 

 馬鹿を頭に据えて、後は良い様に国を操る予定だったとか色々と。

 ただし余りにも馬鹿過ぎたために、そいつらですら偶に頭を抱えていたらしいが。

 それでも国王が権限を与えている立場は、損を補って余りある利益だった。


 つまり国より、民より、そして義理や道理より、自身の利を優先したんだ。

 それ自体を否定するつもりは無い。誰しも自分の利益が大事だろう。

 だが、自身の利だけを追求するなら、その結果の弊害も呑み込むべきだ。


 俺という化け物が、そのやり口の中の一つが気に食わないと襲ってくる弊害を。


「なあ、そう思わないか、アンタも」

『思うよなぁ!』

「ふ、ふざけるな! ど、どれだけ私が努力をしたと思っている! ここに至るまでにどれだけ苦汁を味わったと思っている! その見返りをようやく受け取れる様になっただけだ!!」


 そして目の前の、国王を操る一派の筆頭は、その弊害を認めたくないらしい。

 死ぬ覚悟を決めたのか、どうせ死ぬなら言いたい事を言って死のうと思っているのか。

 俺が精霊付きだと解った上で、唾を飛ばしながら叫んでいる。後ろの家族は震えているが。


 努力に苦渋か。確かに努力した分報われたいだろう。苦汁を味わった分利益が欲しいだろう。

 それ自体は良く解る。自身の行いが何ら報われずに終わる悔しさは知っている。

 最初の方でも同じような事を言ったので、俺を言いまかせたら譲歩してやると約束した。


「それは、清廉潔白に生きていた人間だけに許される言葉だ。貴様は他者を食い物にするやり方を是としたんだ。ならばそれは、更なる強者に食われるのが道理。たとえ何かを守る為であったとしても、排除される側には関係が無い。だからこそ、様々な事に気を配る必要がある」

『そうだぞ! 気を付け!』


 だが『自分は頑張った』なんて言葉で、俺が揺らぐわけがない。

 この男は貴族で、しかも他の貴族を蹴落とし、国の実権を握った身だ。

 その権力を正しく使っているならば、成程多少は正論と言えるかもしれんが。


「それにこの帳簿を見て、貴様が正しいと言う奴など居らんと思うぞ。中々の額だな?」

『兄が見つけました!』


 小人が何処かから持って来た裏帳簿。誤魔化す為に正確な額を記載した帳簿だ。

 悪事がバレたくなければ、本当は帳簿なんざ作らない方が良い。

 だが悪事をばれないようにする為には、裏帳簿がある方が失敗し難い。


 時には協力者への脅しの材料にもなる。裏切れば諸共破滅だぞ、とな。

 だがそれは流石に最後の切り札だし、出来ればきりは切りたくは無い。

 不正の証拠が大量に見つかれば、例え高位貴族でも立場は無くなるだろうしな。


「ふ、不正など、貴族であれば大なり小なり誰もがやっている!」

「そうだろうな。それには同意をする」

『え、同意しちゃうの?』


 それはそうだ。俺が気に入っている辺境領主ですら、清廉潔白ではない。


 だが彼の悪党さは、ただひたすらに民と仲間を守る為に行われる。

 その為ならば泥水を啜ろうとも構わない。そんな覚悟のある男だ。

 義務を全うする為に、貴族である為に、貴族として胸を張れる人間だ。


 だからこそ敵が多いし、自身の犠牲を許容する覚悟がある。

 万が一にでも俺が敵になった時、彼だけが標的になる為に地位を捨てる覚悟も。

 守れるものが守れれば、自分の身など些細なものだ。そう言えるのが彼だ。


「だから、その恨みを買うのも当然だ。手を出してはいけない相手に手を出せば、容赦なく潰されるのも当然だ。貴様だってそうだろう。自分に都合の悪い相手、気に入らない相手、敵対者を潰して来たんだろう。なら今度は、自分の番が回って来ただけの事だろうが」

『順番だね!』

「———————っ!」


 忌々し気に俺を睨む男は、自分だけが死ぬ事を許容できなかった。

 何故自分だけが責任を取らねばならないのか。家の為に尽くして来たのにと。

 それ自体はきっと事実だろうさ。だがそんな事、敵対者には関係が無い。


 どれだけ自分の苦労を語ろうとも、剣を振り上げられた側が聞く訳がない。

 不正をしたいならば、その不正を続ける為に細心の注意を払うべきだったんだ。

 だがお前は馬鹿王を半分放置した。その方が都合が良かったから。


 その結果がこれだ。全てお前の行動の結果だ。報いなんだよ。


「さて、俺を言いまかせれば譲歩してやると言ったが、どうも無理そうだな」

『屁理屈なら大得意だからね、妹は!』


 誰が屁理屈だ。間違いなく真っ当な意見だろうが。

 とはいえこの男が俺を言い負かすのは、ほぼ確実に不可能だろう。

 価値観が違い過ぎて、俺に届く言葉を吐けないからな。


 まあ、それが解っていて約束をしたんだが。

 この男は最初の方こそ、俺を子供相手だと侮っていた。

 だが何をどう言っても反論が来る事で、最早苦し紛れの言葉しか出て来ない。


 実に性格が悪い。中々悪党らしい非道だ。

 討論を真面にする気が無い、という事も含めて、な。

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