第20話『仏心と悪堕ち少女』
「さて、クソ皇女の方は片付いた訳だが――」
「ふおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。素晴らしいざまぁだったよねぇ将ちゃんっ! フハハハハハーー。ざまぁみろって言うんだよクソ皇女っ! 悪堕ち少女であるクラリスちゃんの裁きを受けて地獄で反省するがいいさっ。ね? 将ちゃんもそう思うよね?」
「いや、うん。俺もそれには同意なんだけどね? なんだろうね。お前が口を出す度に削れるシリアス感。これどうするべきなんだろうね?」
クラリスがクソ皇女を何度も何度も殺しているのを眺めていた俺。
その途中で裕也が目覚めたわけなのだが――
「ややややばいよ将ちゃんっ!! あのクラリスちゃんの血に染まった狂気の笑顔。とっっっっっっっっっっっってもキュートに見えない!? あのあどけないクラリスちゃんが似合う訳もない血を浴びてニッコリ笑っているあのギャップッ! もう一枚の絵画として成立していいレベルだよね!?」
このように。
クラリスの残虐ショーの間も騒ぎまくっていて、いまいちシリアス感が薄くなってしまっている。
うーん、おかしいなー。
クラリスがクソ皇女を断罪するこの場面。
復讐を完遂したぞという場面って、普通はもっとしんみりするものじゃないかなー?
それなのにほのぼのとしてしまっている俺と裕也。
何がとは言わないが、確実に何かがずれていると思う。
『す、すごいわねこの子。私、こんなに変な気持ちで他人の復讐を見届けるの初めてよ?』
「こ、これは――ルスリア様の声!? まさか俺、ルスリア様からすごいって褒められた!? いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
魔女であるルスリアを戦慄させる裕也。
ある意味、こいつは大物だと思う。
「さて――」
そこで俺は自らの結界内部を見渡す。
見渡す限りの死体、死体、死体。
その中で生きているのはもはや俺、クラリス、裕也を除けば皇帝のみ。
後は皇帝を始末して、結界内のこの結果を確定させれば復讐完了となるのだが……。
「一応クラリスから『つまらないから皇帝はお兄さんにあげます』って言われたが……どうしよね、コレ」
俺の前で未だにそこで膝を屈している皇帝。
その顔に覇気はなく、ただ項垂れているだけだった。
『始末してしまえばいいでしょう? もしかして抵抗しない相手には手を出したくないとか。そんな偽善を振りかざすつもり?』
「すみませんルスリア様っ! 将ちゃんは未だにダークサイド
「それもあるけど一番の問題はお前だよ裕也。お前のせいでシリアス感が一気に薄れてるんだよ。そのせいでこの皇帝を惨たらしく殺してやるぜっていう気持ちが
『ああ……そう言う事ね。それは、その……ご愁傷様?』
「な、なんだってぇ!? 俺が将ちゃんの歩む輝かしいダークサイド道の邪魔になってるだなんて……。ごめんよ将ちゃん。俺が将ちゃんに迷惑かけちゃうなんて、一生の不覚だよ」
「おう、マジで猛省しろよ? 異世界召喚されてからというもの、お前は行動する度に俺に迷惑かけてるからな?」
俺がそう言うと横で裕也が「そ、そんな馬鹿な!?」と騒ぐがそれは放置。
さてはて……本当にこの皇帝様はどうするべきかねぇ。
「いや、もうここら辺で許してやるか」
――パチンッ
俺は自分(正確にはルスリア様だが)が作ったウロボロスの輪とシュレディンガーボックスを同時に解除。
そうする事で、この中で起きた出来事はようやくこの世界において『確定』した。
「もうこの皇帝に力はない。だから後は――」
後は……どうしよ?
この世界で明るく正道の勇者ライフは完全になくなっちまったからなぁ。
俺を脅かす存在はもういないし、裕也の望む『悪堕ち少女と送るイチャラブライフ』なんて俺が望む訳もないし、後はこいつらと縁を切ってゆっくりスローライフでも――
そう俺が考えた時だった――
ザクッ――
「なにしてるんですか、お兄さん」
あれ? おかしいな。
視界が歪む。
『なんだ。やっぱり偽善を振りかざすんじゃない。あなたには失望したわ、将一……いえ、ただの勇者』
脳内に響くルスリアの声。
親し気に話しかけてくれていた先ほどまでと違う。
失望しきった声だった。
「あーあー。ダメだよ将ちゃん。なにせ闇堕ち少女ってのは偽善を一番嫌うからね。こんな所で仏心を出しちゃダメだぞ♪」
あぁ、そゆことね。
俺は自分の胸に生えた黒光りするナイフを見て、ようやく理解した。
俺を脅かす存在……すぐ傍に居たわ。
それに気づいたが時すでに遅し。抵抗しようにも体に力が入らない。
クラリスが刺したこのナイフが特殊なのか、ルスリアが俺の身体に何かをして抵抗できないようにしているのか。
どちらにせよ、この二人の機嫌を損ねる事をした俺がアホだったという訳で――
『ふふっ。まぁ頑張りなさいな勇者さん。あなたは唯一やり直すことが出来る人間。私やクラリスのような悪が何を欲しているのか。それをよく考える事ね』
「そんなの簡単だよっ! 将ちゃん、彼女たちは――」
裕也が何か重大な事を言っている。
だけど、今の俺にはそれを聞きとる事さえも出来ず。
そうして二度目の死が俺にやってくるのだった――
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