第13話『魔女の介入』



 ルスリア・ヴァナルガンド。

 この世界で魔女、もしくは魔王と呼ばれている者。


 それは確か、前回の周回で俺がクソ皇女から倒して欲しいと頼まれた存在だ。

 

 曰く、魔女は面白半分で数多の村を焼き払った。

 曰く、魔女は世界を滅ぼそうとしている。

 曰く、魔女はその魔術を用いて無理やり人々を争わせ、それを愉しんでいる。


 などなど、そんな悪事を働いている魔女を倒して欲しいと前回の周回で俺はクソ皇女に頼まれたのだ。

 そんな魔女が、今は俺やクラリスに力を貸すと言ってくれている。


 理由はどうあれ、これはチャンス……なのか?

 

「お前は――」


『ねぇ、あなた達。勝ちたい?』


 俺の言葉をさえぎり、魔女ルスリアは語り掛けてくる。



『あなた達の実力ではその帝国軍を相手に逃げる事すら困難でしょう? いえ、そもそも逃げたくもないでしょう? あなた達にとって、彼らは決して許せない存在のはず。例え悪魔と契約してでも滅ぼしたい相手。違う?』



「何が言いたい?」


「何が言いたいんですか?」



 こちらの事情は概ね把握しているらしいルスリア。

 ちなみに、俺やクラリスの頭に響いている声が聞こえていないっぽい裕也はさっきから「え? どゆ事どゆ事? これ何? 何なの将ちゃんって……今は取り込み中みたいだね」と、珍しく空気を読んで少しは静かにしてくれている。


『あなた達が望むのなら力をあげるわ。目的を達成するに足る力を。帝国の誰が相手だろうと笑いながら踏みつぶせるだけの力を』


「――そんな事があなたに出来るんですか?」



『ふふっ。私を誰だと思っているの? この世で悠久の時を生きた魔女ルスリア。この私に悪魔の真似事まねごと程度、出来ないとでも?』



 望めば力を与えてくれる。

 俺達が帝国のクソ共を笑いながら踏みつぶせるだけの力を与えてくれる。

 ああ、なるほど。それは確かに魅力的だ。


 だが――


「魔女ルスリア。お前は悪魔の真似事と、そう言ったな?」


『ええ、それが何か?』


「悪魔と契約して力を得る。俺の世界でも定番の設定だ」


『ふふ、奇遇ね。こちらの世界でも同じ認識よ、勇者さん』


「だが、そんな与えるだけの存在なら悪魔とは呼ばれない。何かとてつもない代償と引き換えに力を与えてくれる。そんな背徳的な存在だからこそ、奴らは悪魔と呼ばれているんだ」


『ふふっ。言いたいことはなんとなく理解したけれどいいわ。続けなさい』


「お前は俺達が望みさえすれば力を与えると、そう言ったな。そして、それを悪魔の真似事とも。つまり――お前も俺達に何か代償を求めるんだろう?」


『くすくす……本当に面白い勇者ね、あなた。今までの勇者は与えられることに何の不思議も感じない、享受されるだけの子供だったというのに。あなたはそれらと比べてまるで違う。取引の意味をきちんと理解している。ますます気に入ったわ』


「そりゃどうも。で、俺達は力の代償に何を支払えばいい? 寿命か? 命か? それとも体の一部とかか?」


『ふふ、せっかちね。安心しなさい。そんな大したものを貰うつもりはないわ』


「抜かせよ。悪魔の真似事をする魔女の事をそう簡単に信じられるかっての」


『あら手厳しい』



 結構ひどい事を言ったつもりだが、さらりと受け流す魔女ルスリア。

 さすが魔女と言うだけあって、その声からは圧倒的強者から感じられる余裕のようなものが伝わって来た。



『私が求める代償。それは『繋がり』よ』


「「繋がり?」」


『そう、繋がり。私が魔術によってあなた達と私の間に霊的な繋がりを作る。あなた達はそれを受け入れなさい。それをもって代償とするわ』


 霊的な繋がりか。

 なるほど。

 ふん、なるほどな。


 ――ダメだ。作るとどうなるか分からないから何も分からない(泣)。


 ここで素直に「何それ?」と聞くのもカッコ悪いよなぁと思い、腕を組んでうんうんと頷く俺。

 すると――


「霊的な繋がり……それを作るとどうなるんですか?」


 なんて質問をクラリスはルスリアへとしていた


(いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)



 腕を組んだまま内心ガッツポーズの俺。

 そんな俺に気付く訳もなく、ルスリアの解説が入る。



『霊的な繋がりを作れば、それを伝って私があなた達に力を譲渡出来るわ』


『けれど、それは同時にあなた達の身体をしばかせにもなり得る。私くらいの魔術師であれば、繋がりを辿って相手に力を与える事は勿論、繋がりを辿って相手の肉体を操る事も可能』


『そして、それを防ぐ術をあなた達は知らない。仮に知っていたとしても、本気の私の介入を妨げるほどの力は今のあなた達にはないわ』


『その危険性を知ってなお――あなた達は力が欲しい?』



「欲しい」

「欲しいです」


 即答する俺とクラリス。

 そんな俺達にルスリアはしばらく黙り込む。

 そして――


『ふふっ。ふふふふふふふふふふふふふ。アハハハハハハハハハハッ――』



 脳内に響き渡る笑い声。

 


『本当に面白い子達ね。――いいわ。力をあげる。あなた達はただ、受け入れなさい』



 そうルスリアが言うと共に。

 俺達を包んでいた黒い泥が崩れ、それらが俺とクラリスへと溶け込む。

 何かが入ってこようとしてくる感覚。


 これを拒めば、ルスリアとの霊的な繋がりとやらは繋がれないのだろう。

 だから――俺はそれを受け入れた。

 隣ではクラリスも同じように黒い泥を受け入れている。



 そうして黒い泥が晴れた先。

 目の前には少し戸惑っている様子の帝国軍の奴らが見えて――



『さぁ――存分に復讐を愉しみなさい』



 頭の中に響くルスリアの声。

 


「言われなくても」

「感謝します、ルスリアさん。さぁ――存分に楽しませてもらいましょうかっ!!」



 それに応え、俺とクラリスはその場から一歩を踏み出す。


 さぁ――第二ラウンドの始まりだ。


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