秘密

 一方生善はその日も蔵にいく。蔵の中には鍵がかかった厚い金庫の中、厳重に管理された木箱が、机の上にぽつんとおかれている。そのほかには奇妙なスーツケースやら怪しい札のついた武器らしきものやら、骨董品やらが乱雑に地面に置かれている。

「さすがに信じがたいな」

 生善が“ソレ”に手を伸ばすと、後ろから声がかかる。ぷかぷかとうかぶ和服の霊、クノハの声だった。

「私自身“縁”について思い出すうちに、ようやくそのことについて確信がついたのです、ですから、無駄にあなた方や、あの方、クレンさんを付け回していたわけではないのです」

「ふむ……」

 生善は感慨深そうに、それを手に取り手入れをする。まず札をとり、お経をして次にまた札をするのだ。

「これは、ここに存在するだけで影響を及ぼすのだ、悪いものではないのだが、この寺はしばらく狙われるかもしれない、この“秘宝”のことを秘密にしていても、もっているだけで、人を引き付けてしまう、良い物も悪いものも、こうして厳重に保管していても“特別な気”が人を狂わせるのだ」

「では、なぜ大事に取っておくのです?」

「それは、アレの母親との約束だ、私の妻とのな……」

 クノハは少し戸惑い、生善に質問をなげかけた。

「あの日、どうして私が見つかったとき、私を裁かなかったのでしょう、私は自分自身よくわかりません、人に尋ねても霊媒師に尋ねても僧侶に尋ねても、私は特殊だとしかいわれないのです」

「……昔話になるなあ」

 そういって、生善はそこに腰をおろして、手に取ったものを眺めながら、なつかしそうに目を細めて話をはじめた。丸坊主に細い目をさらにほそくして、しかくい鼻に、整えたあごひげ、たくましいからだは、少し小さくなった。


 その昔、クレンには兄がいた。クレンには秘密にしていることだ。今は失踪して行方知れずという事はいってあるが、クレンと同様に将来を期待された存在だった。だがクレンとは違い、才能があとからのびたのではなく生まれたときから完璧に能力を持ち合わせていた“秀才”の彼は、成長スピードが速く、みるみると退魔の力をはぐくみ、おまけに頭がよかったので、誰もが期待し、誰もが彼に様々な重荷を負わせた。それでも彼は気丈にふるまっていたので、誰もそんな心配はしていなかった。そんな子供じみた。いや……小さな理由であんな事をしでかすとは……奴は……この仮面をわり、一部をもって失踪したのだ。クレンに、母親にかわいがられたクレンに嫉妬してな。

 


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